第180話 屋台がやって来た
ロックヒルには現在、『最果てパイ』の屋台が三台もある。
それも大盛況だ。
ミイニャ伍長達にうるさくせがまれて、結局いつものように俺が折れた形になった。
そこで俺が「こんな戦場に屋台なんか来てくれる訳ないだろ」と言ったんだが、ラムラ伍長が「私が交渉する」と言ってどこかに伝書カラスを送った。
その送った宛先がこの間のマフィア、ブルーノ・ファミリーのブルーノのところだった。
すると翌日には、最果てパイの屋台が三台もロックヒルに来たという訳だ。
しかも
嬉しい事に、それ以外にも色々と納品がある。
ホッホ曹長が頼んでいたパラライズが呪符された魔法剣もあった。
ホッホ曹長は大喜びだ。
もちろんすべてが正規のルートではなく、闇ルートで入手したものなんだろう事は想像がつく。
そうは言ってもボルトは非常に助かるし、呪符のボルトが入手できたのは特にありがたい。
呪符というのはパラライズの魔法である。
命中するとパラライズの魔法が発動するボルト。
それは薄い革鎧程度なら貫通しなくても魔法が通るという優れもの。
通常ならそのボルト一本で、最低でも銀貨十枚はするんじゃないだろうか。
もしかしたらもっと高いかもしれない。
それを上納品として送ってよこしたブルーノ。
もしかして俺を恐れている?
それにしても少女達の食欲が凄い。
三台もある屋台がフル稼働で最果てパイを作り続けているのだが、作ったそばから少女達の胃袋へと消えていく。
こいつらの食欲は底無しか!
それに、本当は“一番多く敵を倒した者”だけが、腹いっぱい最果てパイを食べれる権利があるんだがな。
どういう訳か全員で食ってやがる。
そもそも屋台が三台も到着した時点でおかしい。
これは手配したラムラ伍長にしてやられた。
だがこれ全部がブルーノ・ファミリー持ち、だから俺の
「よおし、そのままで良いから聞いてくれ」
俺が声を掛けると誰もが食べるのを止めて俺に注目する。
この辺はさすが兵士と感じる……いや、若干一名は食べるのに夢中で俺に気が付いていないな。
さすがにそこは我が小隊のお姉さん的存在でもあるマクロン伍長が対処する。
大きく振りかぶった平手をミイニャ伍長の後頭部に、『バッチーン』と振り下ろした。
「にゃぶほぉっ!」
口に
そこで俺は声を張り上げる。
「注目! 偵察部隊の報告があった。敵の拠点の黒砦だがな、どうやらこの間の味方の攻勢で木製だった防壁が大分焼け落ちているようだ。思った以上に敵の被害は大きい。しばらくは敵も攻撃して来ないと思われる。だが敵は監視陣地を配置しているらしいとの情報だ。それとヘブンズランドに居た一個大隊は半数が生き残って、今はヘブンズランド近くで待機状態だ。と言っても使い物にはならないがな。それに関して上層部から今後どうなるかは聞かされてない。そこでだ。ペルル男爵から連絡があった」
少女達が嫌な顔をしてザワつく。
このタイミングでの上司からの連絡なんて、良い話の訳が無い。
少女達もそれを察したようだ。
俺は話を続ける。
「そこでだ。その邪魔な敵の監視陣地を叩き潰すのが俺達の新しい任務だ。今のところ解かっているだけで三か所ある」
静まり返る少女達。
「その叩き潰す任務は第一ワルキューレ小隊、我が小隊が請け負った。ペルル男爵直々の命令だ。近いうちに補給品が届くらしいから、それが届き次第出発する。以上だ」
うな垂れる我が小隊の少女達、それとは反対に胸を撫でおろしてホッとするタルヤ小隊の少女達。
偵察によるとロックヒルと黒砦の中間辺りにその監視陣地はあるらしいのだが、それはとても小規模な陣地であり、恐らく分隊規模が駐留していると思われる。 これは足止めする為の陣地ではなく、恐らく我々が侵攻した場合に黒砦に連絡する為の陣地じゃないだろうか。
理由はどうあれ、これら陣地を叩き潰せとの命令だ。
小規模だから潰すのは難しくはないと思うが、襲われたら何らかの方法で応援要請の連絡が行く可能性がある。
それでなくても、一か所の監視陣地を攻撃した時点で他の監視陣地へ連絡がいってしまい、防御態勢を固められてしまうかもしれない。
こちらとしては少ない戦力での攻撃作戦だから、出来れば奇襲を仕掛けて短い時間で潰したい。
だから発見している監視陣地へは、三部隊での同時攻撃を仕掛けるつもりだ。
俺は下士官を集めて作戦会議を行った。
「今回は三か所の敵陣地へ同時に奇襲を仕掛ける。そこで小隊を三つに分ける。まずはアルファーチームにラムラ分隊とソニア分隊の二個分隊、このチームで沼地近くの監視陣地を潰せ。ブラボーチームはマクロン分隊とサリサ分隊で大岩付近で発見した監視陣地を潰せ。最後にチャーリーチームはミイニャ分隊と小隊本部で、街道沿いの陣地を叩き潰す」
小一時間ほどの作戦会議のあと各チームでの作戦会議を行い、最後に失敗した時の対処や逃走経路など、事細かく作戦を練った。
なんせアルファーチームとブラボーチームは、初めての俺抜きでの作戦だ。
ちょっと心配ではあるが、そろそろ彼女達にも自立して動けるようになってもらわなければいけない。
自分で考えて判断して行動できるようになって欲しい。
それに情報によると陣地の兵士というのは、オーク兵ではなくゴブリン兵らしい。
それに陣地も簡易陣地であるらしいから、二個分隊での奇襲なら楽勝なはずで、丁度良い機会だしと思ってのことだ。
ただし、ドラ猫分隊だけは心配なので俺達の小隊本部のメンバーと一緒だ。
「にゃんで私だけボルフにゃんと一緒なのにゃ!」
さすがに文句も出るか。
これはしっかりホントのことを言ってやるか。
「お前の分隊が、というよりもミイニャ伍長、分隊長としてのお前が不安だからだ」
するとちょっとだけ「ムッ」とした表情で言い返してくる。
「大丈夫にゃ、私だってちゃんと分隊長できるにゃ!」
ミイニャ伍長が責任感を主張するとは珍しい。
「それなら俺の目の前でそれを証明して見ろ」
「やってやるにゃ、それでボルフにゃんに何か奢らせるにゃ!」
まだ食い足りないのかよ!
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