第177話 オーク・ボアライダー
救護所に着くと、既に目の前まで敵の騎兵が迫っていた。
それはオーク兵が騎乗する魔物部隊、オークボアライダー部隊だった。
大きな猪に
槍を持って突撃されたら
あの重量のある猪の突撃による刺突、どんな鎧も貫通されてしまうだろう。
だから突撃は受けてはいけない、避けるしかない。
ゴブリンのウルフライダーとは大違いだ。
それに俺達が持っている槍で下手に攻撃を当てると、その槍にかかる重さに攻撃した自分の方が吹っ飛ばされる。
これだから騎兵は怖い。
相手が馬だと馬の足を狙う手も有りだが、猪は足が短い。
当てるのが難しい。
足が短いから地面の上を這うように動き回って見えるくらいだ。
それではどうしたらいいのか。
「お前ら、俺のやり方を見てろ!」
そう言って救護所の敷地へと入って来た一匹のオークボアライダーに走り寄った。
すると待ってましたというように、俺の正面からオークボアライダーが突撃を仕掛けて来た。
俺はそいつに向かって槍を大きく振りかぶる。
そして、ここぞというタイミングで投げ放った。
槍はドスッと音を立てて猪に
なおも真直ぐに俺目掛けて突進する猪に対して、俺は横へと転がってそれを避けた。
すると騎乗していたオークは槍が刺さったまま地面へと落ち、猪は俺を通り越してそのまま真っすぐ走り去って行った。
槍が刺さったオークに視線を送ると、地面に落ちた衝撃で手足がありえない方向に曲がっている。
動かない所をみると既に息は無いのだろう。
俺は起き上がり、地面に転がったオークの胸から槍を引き抜くと、振り返って少女達に言った。
「お前ら、今の見たか。こうやれば槍も回収できるし、攻撃者も擦り傷程度だ。どうだ、簡単だろ?」
「そんなん出来るか!」
「うーん、難しいですね」
「無理にゃ!」
うーん、難しいか。
こいつらなら出来ると思ったんだがなあ。
それならしょうがない。
「なら、好きにやっていいぞ」
するとラムラ伍長。
「放置するな!」
なぜ俺が怒られるんだ?
反対にホッホ曹長は槍を地面に捨てながら言った。
「それでは僕は剣で戦いますね。こっちの方が使い慣れてますんでね」
そう言って細身の剣を抜き放った。
ミイニャ伍長はというと。
「私は元々が曲刀だけど槍にゃ、一応やってみるにゃ」
そう言って横を走り抜けるオークボアライダーに向かって、曲刀の槍を大きく振るった。
すると騎乗していたオークの首がポーンと空中を舞う。
首のないオークを乗せたまま、猪はそのまま走り抜けて行く。
「にゃっ、当たったにゃ!」
さすがミイニャ伍長だ。
元々の身体能力が高いだけの事はある。
「良いぞ、その調子だ。一番多く倒した者には“最果てパイ”を腹いっぱい食わせてやる」
その一言で少女の目の色が変わった。
「ボルフ隊長、それ私が貰った!」
そう言って真っ先に走りだしたのがラムラ伍長だ。
そして直ぐにミイニャ伍長も「にゃあああ!」と叫びながら突撃する。
だが二体も倒したものだから、直ぐに俺達のことがオークに知られてしまう。
そこら辺の仮設テントを破壊していたオークボアライダーの視線が俺達に集まる。
すると奴らは態勢を整え、改めて勢いをつけて真っすぐにこちらに突撃して来る。
それを見たラムラ伍長とミイニャ伍長が
まあ、正解だ。
騎兵部隊相手に単独は危険だ。
十匹ほどの部隊が槍を構えて迫り来る。
敵騎兵部隊は横に広がっているんで今度は横に転がって逃げられない。
「俺の後ろに一直線に並べ。それで俺が撃ち漏らした敵を斬れ。早くしろ、来るぞ」
急な命令に慌てる三人だったが、それもいつもの事だ。
直ぐに言われた通りに一列縦隊に並んだ。
さて、正面から来た敵はこれで何とか防いで見せる。
あとは少女三人の腕次第だな。
「来るぞ、ミイニャ伍長は右の敵、ラムラ伍長は左だ。ホッホ曹長は二人のフォローだ」
敵はこっちの隊形に少し驚いた様だが、それでも構わず突撃をして来た。
俺は正面に迫り来る猪に向かって早々に槍を投げつける。
今度はオークではなく、猪に狙いを付けたことに
槍は狙い通り猪の眉間に突き刺さる。
すると猪はそのまま騎乗しているオークごと地面にのめり込む。
しかし直ぐ隣を走っていた別のオークボアライダーが、直ぐにその穴を埋めるべく隙間に割り込んで列を埋めた。
連携がしっかりしてやがる、さすが精鋭と言われるオークのボアライダーだ。
だが悪いが、俺はその上をいく。
「はああっ」
気合と共に俺は吸血剣を抜き放つ。
通常の剣の間合い的には程遠いのだが、吸血剣から伸びた赤い揺らぎがオークボアライダーを襲った。
それはまるでしなった
俺の正面に突撃して来た四組が、周囲の地面に転がり散った。
その姿は無残にもバラバラだ。
これで正面に敵はいない。
少女の誰かが俺の後ろで小さな悲鳴を上げている。
オークボアライダーはなんとか隊列を組み直そうとするが、四体の穴がそう簡単に埋められるものでもない。
逆に混乱するだけだ。
やむなく今回の突撃は
そこへミイニャ伍長の曲刀の槍がブウーンと音を立てて空を切り裂いた。
「グワッ」
曲刀の槍はオーク兵の片足を斬り飛ばし、さらに猪の胴体に深く斬り込んだ。
胴体を斬られた猪は「ピギイイッ」と泣き声を響かせて転倒し、乗っていたオーク兵を引き潰した。
そこでミイニャ伍長が叫ぶ。
「最果てパイは私のもんにゃ!」
おい、たかが二体倒しただけだろ。
だがラムラ伍長も負けてはいない。
槍を地面すれすれに投げつける。
するとタイミングよくそれが猪の足に
走っている猪は足を止められたら終わりだ。
猪は走る勢いのまま、顔から地面へと突っ込む。
もちろん騎乗しているオークも仲良く地面へと顔面を埋めた。
その時「ボキボキッ」と嫌な音が聞こえてきた。
そして剣で戦うと言っていたホッホ曹長はというと、彼女一人だけ俺の後ろから離れて居た。
そして持った剣を右上から左下へ、そして今度は左上から右下へとクルクル回転させている。
「水車の型!」
そう叫んで横を通り過ぎる猪に剣で斬りつけた、その途端。
吹っ飛ばされた……ホッホ曹長が……。
色々と突っ込みたいんだがな。
それは後のお楽しみにする。
まあ、さっき俺が言った通りに相手の重さに吹っ飛ばされた訳だ。
「おのれ、アホのオーク兵め!」
憎まれ口を言えるようなら大丈夫そうだ。
吹っ飛ばされたが怪我は無い。
「ホッホ曹長、勝手に隊列を乱すなっ。戻れ!」
「くっ、すいません……」
まだまだ修行がたりない。
彼女は集団戦闘に慣れていないようだ。
「相手によって戦い方を選ぶことも覚えろ!」
ホッホ曹長は悔しそうに隊列に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます