第170話 先生と呼ばれた男
チンピラがその程度の腕前で俺に喧嘩を吹っ掛けてくるとは驚きだな。
しかし俺が手を下すまでもなく、ラムラ伍長が直ぐに前に出てチンピラの側頭部に蹴りを決めた。
これがまた綺麗に決まり、一発で意識を刈り取った。
崩れるように倒れるチンピラを見て、店主のおっさんが目を丸くして言った。
「お前、格闘技の経験者か!」
俺はその言葉を無視して、代わりにラムラ伍長に言った。
「あっちから手を出してきたんだ。ついでにそのおっさんも片づけてくれ」
「そうですね。じゃ、ついでに、とおっ」
そう言ってラムラ伍長がおっさんに飛び蹴りを喰らわせた。
「ぐはっ」
おっさんは顔面に蹴りを喰らい、血を吐きながら床に
しかし意外と根性はあるようで、血を吐き捨てながら起き上がる。
「ぺッ……くそ。てめえ、やってくれるじゃねえか。だがな、粋がっていられんのは今だけだぞ」
こいつ、この状況でまだそんなこと言ってやがるのか。
「なあ、店主のおっさん。それって、さっき出てったもう一人のチンピラが仲間を連れて来るから強気なんだろ。まあそれもいいだろう、相手してやるがな。だけどな、お前の立場はますます悪くなるぞ、いいのか?」
俺は警告も兼ねて店主のおっさんに言ってやったんだが、応援に来る仲間に自信があるのか、恐れる様子など全くない。
それどころか、強気な言葉を言ってきた。
「てめえ、何余裕ぶってやがるんだよ。まあいいさ。女は好きにさせてもらうぜ、ひひひ」
お、これは強い奴が来るのかもしれないな。
ちょっと楽しみになってきたな。
だが少女三人はちょっと不安げだ。
特にサリサ伍長は不安そうに俺に聞いてきた。
「隊長、大勢で来たらどうするんです。今の内に逃げた方が良くないですか」
「まあ良く聞け。仮に十人のチンピラが来たとするよな。そうすると十人分の財布が手に入るってことだぞ。凄くないか?」
俺の意見にラムラ伍長とサリサ伍長は
「ボルフにゃん……隊長、天才にゃ!」
そこへタイミングよく倉庫の扉が勢いよく開き、外から次から次へとチンピラ風のおっさん達が入って来た。
入って来た男達は、どれも四十代のおっさんばかり。
ということは退役軍人か。
中には若い者もいるが、そいつらは痛々しい怪我の痕が見てとれる。
そいつらは恐らく負傷除隊した元軍人だな。
つまりほぼ全員が死線を乗り越えた退役軍人ってことになる。
全部で十五人ほどだが、入ってくるなり剣を抜き始めた。
この人数で剣で来られたら、こっちも剣を抜くほかないな。
悪いが魔剣を使わせてもらう。
俺は吸血剣を抜き放った。
抜いた途端に刀身からドス黒いオーラが湧きだす。
そして吸血剣が俺に訴えかけてきた。
――やっと出番が来たか、待ちくたびれたぞ
サリサ伍長とミイニャ伍長も腰の小剣を抜いた。
ラムラ伍長だけは小剣ではなく、
こいつ、
まあ良い。
俺も非番なのに魔剣持ち歩いてるしな。
応援に来た男共の中の一人が前に出て来立ち止まり、俺達の顔をまじまじと見つめて言った。
「お前がいちゃもん付けてきたとかいうアホ共か。どんな馬鹿野郎かと思ったら、女もいるのか。これは終わった後が楽しみじゃねえか、ふはははは」
この男だけ剣を抜いていないな。
リーダーなのか?
それに今まで飲んでいたのか、ちょっと酒臭い。
すると店主のおっさんがその男に対して言った。
「先生、気を付けてくださいよ。こいつら思ったよりも腕が立ちます」
「なあに、四人と言っても三人は女だろ。こんな人数いらなかったな。まあ良い、さっさと終わらせて帰るぞ!」
先生と呼ばれたってことは、この男は雇われ用心棒なのか。
まあ、どうでも良いか。
どのみち倒すまでだ。
十四人のチンピラが小剣を振りかざして来た。
先生と呼ばれた男は後ろで見ているらしい。
だが元軍人の集団となると少し厄介だ。
中には百戦錬磨の強者もいるかもしれないし、死線を乗り越えて来た古強者がいてもおかしくない。
先生と呼ばれた男も気になるしな。
まあ俺は大丈夫だが、少女達が危なくなるのは困るんだがな。
まずは後ろへ回り込まれるのは困る。
「おい、囲まれるとマズい。壁を背にして戦うぞ」
俺の指示通り皆で壁際に下がる。
これで後ろに回り込まれなくなったが、代わりにこちらも後方への回避が出来なくなった。
まあ、それくらいのハンデはやる。
さて、まずは力を見せつけてやつらの勢いを
初めが肝心だからな。
少女三人の前へと俺が出る。
すると男達の注目が俺に集まる。
そこで俺は魔剣に気を込めてゆっくりと動かすと、ユラユラと蜃気楼のように揺らぎ出す。
それを見た男達からしゃべり声が聞こえてくる。
「おい、あの剣見ろよ」
「何かヤバそうだぞ」
「あれは魔法剣だ。それと女の
中にはちょっとした知識のある奴もいるようだ。
だがこれでこいつらの勢いは無くなり、逆に俺を警戒し始めた。
これは良い感じの流れになってきたな。
ならばそろそろ暴れても良い頃合いだな。
思わず笑みが顔に浮かぶ。
「それじゃあ少し、暴れさせてもらおうかっ」
そう言って吸血剣を斜め下から振り上げた。
すると俺の前に立っている男の腕がパックリと切り割かれ、鮮血がぱっと宙を舞う。
「うわあああっ」
痛みよりも自分が斬られたことに驚き、後方へ後ずさる男。
――もっと刃を喰い込ませろ
相変わらずうるさい魔剣だ。
俺と斬られた男の距離は五メートル以上はあったはずだ。
普通なら剣の間合いではない。
しかもこいつらは俺の動きを理解していない、というよりも見えていない。
動いたことは分かっただろうが、どう動いたかまでは理解していないと思う。
こいつから見れば俺が動いたと思ったら、仲間の腕を斬られていたという感じだろう。
斬られた男に関しては、何故斬られたのか理解していなさそうだ。
男共の一人が叫ぶ。
「まずい、下がれ。こいつはやばい!」
腕を斬られた男を数人がかりで後方へ引きずって行き、他の奴らも俺との距離を取り始める。
中々良い判断している。
さすが元兵士達だな。
そこで先生と呼ばれていた男が前に出て来た。
「お前、凄い剣を持っているな。驚きだよ。そんな剣見た事ないなあ。それに腕前もかなり高そうだしな。これはちょっと面白くなってきた」
そう言って抜剣した。
抜かれたのは細身の長剣。
窓からわずかに差し込む陽の光に青白く光る。
先生と呼ばれた男は、その細長い剣を両手で握るとスッと下段に構える。
「流水の型か」
俺は思わず思ったことを口に出してしまったようだ。
しまったと思った時はもう遅い。
そのボソリと言った俺の言葉に男が反応した。
「お前……どこでそれを知った?」
剣聖を斬った時なんだが、それを言ったらマズい気がする。
何と誤魔化そうか迷っていると、俺の後ろから声が上がった。
「剣聖と戦った時にゃ!」
この野良猫は敵か味方か時々分からなくなる。
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