第169話 イカサマ










「おい、店主。的に重りは仕込んでないんだよな」


 俺は改めて確認の言葉を投げかけた。

 すると店主のいかついおっさんがそれに答える。


「お、重りなんか、し、仕込んでねえよ……」


 実に嘘くさい返答だ。

 目は泳いでいるし、怪しすぎるっていうかそのキョドった態度、本当の事を言ってるようには見えないんだが。

 

「それなら的を確認させてもらうが問題はないよな?」


 そう言いながらも俺は的に仕掛けがないか、確認しようと遊技施設の中へと入ろうとする。

 客場と的が置いてある遊戯施設は柵で仕切られており、俺は柵をまたいで中へと入ろうとすると、大慌てで取り巻きのチンピラ二人が割って入った。


「何勝手に入ろうとしてんだよ、おっさんよお」

「勝手な真似すんじゃねえぞ、コラッ」


 チンピラ二人は腰に小剣をぶら下げているが、それを見れば持ち主がどの程度の剣術か大まかな判断はできる。

 二人の剣の柄を見ると、全然使い込まれていないのが分かる。

 完全に雑魚、正真正銘のチンピラだ。


 チンピラが俺に手を伸ばしてきたんで声を掛ける。


 「おい、俺に触れるなよ。死にたいのか?」


 しっかりドスを利かせた言葉を浴びせると、それだけでチンピラ二人はビビッて「うう」っと後ずさりする。

 だがそこで店主のいかついおっさんが怒鳴りつける。


「てめえら、ヒヨッてんじゃねえぞ!」


 その一言で持ち直すチンピラの兄ちゃん達。

 ここで俺が暴れても良いんだが、野次馬が多すぎる。

 通りすがりの人や近隣の商店の人が集まって、遠巻きに俺達を見ている。

 この状態で騒ぎになって番兵が来たら厄介だからな。

 ここは穏便おんびんに済ませたい。


「分かった、分かった。そう気を荒立てるな。周りの人が見てるだろ?」


 俺がそう言うと店主のおっさんが「ちっ」と舌打ちしてチンピラを制した。


「それならこうしよう。俺もこの的当てゲームをする。そこで不正が無いか判断する。もちろんちゃんと金を払ってゲームに参加するし、これなら文句はないよな」


 すると店主のおっさん。


「それは構わないが、そのあとで弁償代金はしっかり払ってもらうからな」


「ああ、不正がなければ構わないぞ。ここにいる沢山のギャラリーが証人だ」


 壁にゲームのルールが書いてあるのでそれに目を通す。

 ボールを投げて的に当て、台の下へ落とせばその的に書いてある景品がもらえるらしい。


 取りあえずボールを六個購入した。

 ボールは三個セットで銅貨六枚と意外とそこまで高くは無いな。

 値段の割に景品が良い気がする。

 ここまで見ると良心的にさえ思えるよな。


 的が置いてある的場を観察する。

 安い景品の的は近くの台の上、良い景品ほど遠くの台に置かれている。

 遠くの台の的はちょっと難しい様に思える。

 特に特賞などの高額景品の的は周囲にレンガが積まれていたり、遮蔽物しゃへいぶつの板があったりと、そう簡単にボールが当たらない様になっている。

 もしこれで重りが入っているとなると、当たりにくい上に当たっても倒れないと、かなり難易度は高くなるな。

 だけどこのゲームの値段ならそんなもんだと思うがな。

 

 ちなみに壁に書いてある商品を見ると、特賞が金属製の板ばねを使ったクロスボウになっている。

 ああ、それで少女らが血眼になっている訳だ。

 だがこんな安いゲームでそう簡単に特賞なんて取れないってことくらい察しろ。

 そう少女らに言いたいが今は黙っておく。


 その特賞の的を見ると、この距離だとかなり小さく見える。

 握りこぶし程の木の箱にクロスボウのマークが描いてあるのが特賞の的だ。

 距離は七メートルくらいだろうか。

 それに周囲をレンガで囲っている。

 恐らく的に当てるにはレンガの間にボールを通さないといけない。

 だが狭いな。

 通ったとしてもレンガにこすれてボールの威力が落ちるよな。

 それで当たっても落ちないのか。

 重りが入ってなくてもあの的は落ちそうにないぞ。

 これは弁償しなくちゃいけないパターンかもしれないな。


「ちょっと分が悪そうだが一応やってみる」


 俺は少女達に一言告げてからボールを握った。

 そして力一杯投げる。


 ボールはレンガの隙間へと吸い込まれる。

 おお、これは一投目からラッキーだ!

 と思ったら、やはりレンガにこすれて威力が激減し、的に当たったのだがレンガの隙間でボールは止まってしまった。

 だがそれで俺はいけそうな気がしてきた。


 さらに連続でボールを投げる。

 四発目でやっとレンガの隙間にボールが入ったんだが、やっぱり止まった。

 だがこれで準備は整った。


 ボール二個でレンガの隙間は埋まったから、次は最後尾のボールに当てれば詰まったボールが押し出されて、最奥にある的が台の下へと押し出されるはずである。

 俺は最大の腕力を振るってボールを投げた。


 命中!


 しかし、無情にもボールはボールに当たって跳ね返された。

 くそ、もう一回。

 ボールを追加購入までして、何回も当てたんだがどうにも落ちる気配がない。


「ね、ね、やっぱりあれっておかしいでしょ?」


 サリサ伍長が俺の後ろからそう言ってきた。

 確かにここまで倒れないと何か細工を疑うよな。


「なあ、店主、もう一度聞くが的に細工はしてないよな?」


 すると店主のおっさんはまたも目を泳がせながら「し、してねえよ……」と言う。

 それを聞いてさらに質問をする。


「それからもうひとつ、このゲームのルールはその壁に張ってあるルールだけだよな。そこに書いてある以外のルールは何かあるか。あるなら言ってくれ」


「ねえよ。そこに書いてあるルールがすべてだから、お前らちゃんと守れよな」


 よし、言質げんちは取った。


 俺は魔法の行使に取り掛かる。

 印を組み、詠唱を始めた。

 すると慌てて店主が歩み寄りながら文句を言ってきた。


「おい、魔法は駄目だ、ダメ。卑怯な手を使うんじゃねえぞ。おい、てめえら邪魔だ、どけっ」


 魔法の詠唱の邪魔をしようと店主が俺に手を伸ばすが、少女三人がそれをはばむ。


「ルールに魔法は禁止って書いてないよねえ~」

「そうそう、さっきここに書いてあるルールがすべてだって聞いたんだけどな~」

「黙って景品のイカの燻製くんせいをよこせば良いにゃ」


 俺は準備が終わるとボールに魔法を掛ける。

 シャドウ・アローの魔法だ。

 ボールに掛けるからシャドウボールとなるか。

 今回は複数分裂はさせずに命中と威力を少し上げたに過ぎない。

 しかしそれだけでも問題なかった。


 レンガの隙間に挟まった最後尾のボールにシャドウ・ボールが命中。


 レンガを弾き飛ばしてなお、的に直撃。


 すると的が「バキッ」と音を立ててへし折れて、台の下に落ちた。

 早い話、的は台の板に固定されていたのだった。


 それを見た野次馬たちから「いかさまじゃねえか」と店への文句の言葉が投げかけられる。

 俺も当然文句を言う。


「おい、店主、これはどういう事だ。奥で詳しく説明してもらおうか」


「お、おう、望むところだ。商売道具を壊しやがって、しっかり弁償させてやるからな。こっち来い」


  そう言って店主のおっさんは看板を『閉店』に切り替える。

 そして店主のおっさんは偉そうにチンピラども二人をしたがえて、店の奥の部屋へとズンズンと進んで行く。


 俺達もその後について行く。

 着いた先は倉庫のような場所だ。


 そこで店主がチンピラ一人に何か耳打ちすると、そのチンピラは軽くうなずいてどこかへと消えて行った。

 そこで店主のおっさんと残されたチンピラに俺達は向き合う。


「さて、説明してもらおうか。場合によってはタダじゃ置かないぞ?」


 俺がそう言うと店主のおっさんが一言。


「こいつを黙らせろ」


 その途端とたん、チンピラが俺に殴り掛かって来た。

 












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