第160話 魔剣に封印されたもの









「な~にを確認するのかな?」


「悪魔に対してどういうイメージを持っているのかを教えて貰えますか」


「そんなの異界の住人でしょ~」


「悪魔を崇拝すうはいするとか、逆に撲滅するとか、そう言う考えとか持っていませんか」


「そんなの攻撃されれば一目散に逃げるし、何もしなければこっそり逃げるし。だから崇拝すうはいもしなければ戦おうとかも思わないかな~。こ~んな感じだけど良いかな?」


 うん、大丈夫そうだ。

 この吸血剣が悪魔を封じ込めた剣だと言っても問題なさそうだ。

 それに最悪、俺の身体に悪魔の血が流れているかもしれないってことを知られても、すぐに攻撃とかはしてこないと思う。

 だが俺に悪魔の血が流れているかもしれないってことを、上層部に報告する可能性は捨て切れないから、そこは出来るだけ秘密にしておくか。


「それではこの魔剣についてお話ししましょう」


「血を吸う剣って聞いたけど~、違っちゃったりするのかな」


「そうです、この剣は吸血剣と呼ばれて相手の血を吸います。ただ、問題はそこではありません。この剣はインテリジェンス・ソードなんです」


 タルヤ准尉は驚いた表情をして言った。


「それって、知能がある剣ってことだよね。すごい、すごい!」


 単純に驚いてるだけなら話を進めるか。


「そうです、知能があります。しかし、タルヤ准尉が考えているものとは恐らく違います」


「え~、何が違うの~」


「この剣は悪魔が封印されているんです。知能はその悪魔のものです」


「え、え、え? 悪魔ってあの悪魔だよね」


「はい、そうです。その悪魔のようです。この剣が自ら自分は悪魔だと名乗りました」


「自ら名乗ったんだ……それなら多分本当だね」


「そこで、質問があります。ブレインが召喚した魔物を“イポス”って悪魔だとすぐに気が付きましたよね。それでタルヤ准尉は悪魔に関する知識があると判断しました」


「はは~ん、この吸血剣について知りたいっていうのかな~? でもざーんねん。この魔剣に関しては全然、知りませ~ん――でもね、その悪魔は少し知ってるかもだね~」


「もしかして、こいつの名前を知ってるんですか」


「うん、多分そいつ“ヴァンピール”だね」


「ヴァンピール?」


「そそ、吸血鬼の頂点に立つ魔物みたいなもんかな。教会からは悪魔認定されてるけどね~」


「吸血鬼なんだ、こいつ……」


――悪いか


 あ、吸血剣に突っ込まれた。


「もしそいつが本当にヴァンピールなら、絶対に教会に知られちゃいけないよ。古い本に書いてあったけどさ、最優先討伐対象になってたよ、そいつ。あ、でも剣に封印されてるならさあ、その剣の持ち主には逆らえないらしいから」


「そ、それは良かった――しかしですね、最優先討伐対象ですか、厄介ですね。それからこの剣なんですが、成長してるみたいなんですけど、その辺は大丈夫なんでしょうか」


 タルヤ准尉は腕を組みながら考え出す。


「うーん、内部からは何をしても封印は破れないって本に書いてあったけど、どうなんだろ」


 その後もタルヤ准尉と小一時間ほど話をして作業に戻った。

 おかげで色々と知識を貰った。

 

 ヴァンピールとは、悪魔が地上に降り立つ際の姿のひとつのことを言い、悪魔っぽい羽を生やし獣の様な脚を持ち人型の形態ではあるが、かなりおぞましい姿らしい。

 そして絶対に教会に知られてはいけないという。

 もしも教会に知られたら、剣の持ち主までも命を狙われるらしい。

 絶対に話しちゃいけないと念を押された。

 

 うちの小隊のメンバーは口が軽い奴ばっかりだからな。

 十分に気を付けないといけない。

 特に野良猫とか。

 

 俺がロックヒルの作業現場に戻ると、ウサ耳がピョンピョンと近づいて来た。

 サリサ伍長だ。

 そして俺の近くまで来たところでキョロキョロと周囲を見まわした後、小声で言って来た。


「その剣、恐ろしい封印の剣なんですってね~」


「も、もしかして聞こえてたのか……」


 すると変な笑みを見せながらサリサ伍長は返答した。


「ワルキューレ小隊の斥候のスペシャリストですよ。当たり前ですよ。あ、大丈夫ですって、誰にも話しませんから~、ムフフフ……」


 くそ、こいつの存在を忘れていた。

 地獄耳め。

 俺はポケットを探る。


「サリサ伍長、これ……とっとけ」


 そう言って大銀貨一枚をウサ手に握らせる。

 するとワザとらしく驚いて見せるサリサ伍長。


「ええー、貰っていいんですかぁ。二枚じゃなくて一枚~~?」


 くそ!


 俺は黙ってもう一枚の大銀貨をウサ耳にねじ込む。


「痛い、痛い、ですって!」


「サリサ伍長、俺の剣について何も聞かなかった、いいな?」


 するとサリサ伍長は不貞腐ふてくされたように返事をする。


「はい、はあ~~い、分かりましたよ。しょうがないですね~、少ないですがこれで手を打ってやりますか」


 こ、こいつ……

 だが我慢、我慢。


「あ、そうそう、ボルフ隊長」


「なんだ」


「今晩、私さあ、夜番なんだよね~。代わって――ひいっ」


 俺は見えないほどの速さでウサ耳を引っ掴み、自分の目線の高さに持ち上げて言った。


「良く聞こえなかった。俺に解るようにもう一度言ってくれるか」


 するとガクブル状態でサリサ伍長が返答した。


「な、何でもないです~。仕事に戻ります、戻りますって!」


 空中で足をバタバタするサリサ伍長。

 そこで手を放すと一目散に走って行った。

 



 その翌日、小隊の少女達が俺を見るなり何か噂話をしていた。

 それは俺の魔剣に関してだ。

 早速サリサ伍長が小隊の仲間にしゃべったらしい。

 しかしサリサ伍長の耳には悪魔ではなく“クマ”と聞こえていたらしく、少女達に広まった内容もすべて“熊の剣”だった。


「ボルフ隊長の魔剣って熊さんの剣だったみたいよ」

「本当? 熊の魔剣って初めて聞くよね、でもなんか弱そう」

「隊長、熊さん見せてくださいよ~」

「私も熊肉食べたいにゃ!」


 おかげで悪魔の封印の秘密は守れたが、小隊の少女達には熊の魔剣と広まってしまった。


 取りあえずサリサ伍長には、お仕置きをすることが確定した。













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