第159話 悪魔の契約










 吸血剣は答えた。


――あの男は悪魔に魂を支配されかけている


 それは聞いた。

 そもそも悪魔って実在するのか?


――何を言っている、私は悪魔だぞ


 衝撃の事実!

 悪魔って神話や物語の中に出て来る作り話だと思っていた。


――太古の昔、悪魔は地上にも多数いた


 吸血剣は悪魔について説明を始めた。

 だいたい魔剣が会話が出来るというのが驚きだ。


 話によるといにしえの時代、何らかの方法で悪魔が棲む異界を飛び出して、地上に降り立った悪魔が多数いたらしい。

 しかし人族の魔法の発達により弱い悪魔は徐々に淘汰とうたされ、その数を徐々に減らしていったそうだ。

 しかし最後に残された少数の悪魔は力も強く、人族はあと少しというところまで来たのだがそれを中々倒すことが出来ず、最後には倒すことをあきらめ魔法により呪縛じゅばくする道を選んだという。

 それはほこらだったり物だったりと、封じ込めた対象物は千差万別だったらしい。

 その中には剣もあったという。

 そのひとつがこの吸血剣。

 つまり吸血剣は『悪魔を封じ込めた剣』ということになる。


 そこまで聞いて思い出した。


 ブレインが召喚した『イポス』がこの魔剣を“デーモン・ソード”と言っていた。

 まさしくその通りで『悪魔の剣』だった訳だ。


――あのイポスも悪魔だ


 薄々感じていたが聞きたくはなかった。

 ということはだ、俺はイポスという悪魔を倒してしまった事になる。

 “地上の悪魔”と呼ばれた上に悪魔を倒してしまって、さらに悪魔の剣を保持している。

 それはもう「お前は悪魔だ」と言われてもおかしくはない。

 それが世間に知れ渡ったら、俺は教会から追われるだろう。

 人族の皮を被った悪魔と言われて。

 

 さらに吸血剣は衝撃の事実を付け加える。


――貴様の血には悪魔の血が混じっている


 悪魔確定、終わった……

 

――貴様が魔法を行使すると闇魔法になるのがその証拠だ


 俺が魔法を行使するとドス黒くなるのはそう言う意味だったのか。

 言われてみると色々と不可解な出来事が多すぎるしな。

 傷が治るのが早いとか、痛みが薄いとか。


 さて、混血悪魔な俺はどうしたら良いんだ。


 そう言えば俺が倒した悪魔の『イポス』って名前だが、タルヤ准尉が教えてくれたんだよな。

 確か召喚された魔物を見て、真っ先にタルヤ准尉が『イポス』って言ったんだった。

 一目見て悪魔の名前を言ってのけたのだ。

 ってことはだ、タルヤ准尉は悪魔についてある程度の知識があるのかもしれない。

 それとなく悪魔について聞いてみるか。


 俺は作業場へ巡回している時、タルヤ准尉にそれとなく聞いてみた。


「タルヤ准尉、この間の戦闘の話なんですが、ブレイン・シャーマンが“イポス”とかいう魔物を召喚しましたよね。なんで一目見てあの魔物の名前が分かったんですかね?」

 

 直球での質問だ。

 するとタルヤ准尉はいつものゆるい感じではなく、真剣な表情で口を開いた。


「信じてくれるか分かんないけどね、あれはさ……悪魔だったんだよね」


 やっぱり吸血剣から聞いた話は本当だったか。

 ということは悪魔は実在するし、俺はやっぱり悪魔の血が流れているのか。

 俺は孤児院育ちで出生が不明だから、実は悪魔との混血だと言われても反論できない。

 俺は赤子の時に孤児院の門の前に捨てられていたと聞いたからな。


「いや、俺は信じますよ。でもタルヤ准尉は何故あれが悪魔だと言い切れるんですか」


 確信に迫る。

 するとタルヤ准尉は少しの間だが視線を逸(そ)らしたまま沈黙する。

 そして再び俺に視線を合わせて言った。


「そうだね、あっちへ移動しよっか」


 突然の移動。

 恐らく誰かに聞かれたくないんだろう。

 誰も居ない方へと歩いて行く。

 俺も黙って付いて行く。


 そして人気のないところで立ち止まって振り返る。

 その時の表情は真剣そのもの。

 遠巻きにタルヤ准尉の従兵がこっちの様子をうかがっているが、風向きの事もあって話声までは聞こえないだろう。

 俺は改めて話を進めるよううながした。


「人に聞かれたくない話の様ですね。さて、それで何を聞かせてくれるのでしょうか」


「今から話すことは他言無用って約束してくれるかな?」


「もちろんです」


「それと私が話をする見返りとして、私からの質問に答えてほしいんだけど。それが出来るって言うなら話してもいいかな~」


 タルヤ准尉から俺への質問?

 何を聞く気だ。

 

「質問内容によりますが……タルヤ准尉も他言無用ってことなら良いでしょう。質問に答えますよ」


 するとタルヤ准尉は大きくうなずいてから口を開いた。


「私さ、子供の頃、悪魔と契約したんだよね~」


「……」


 予想の斜め上をいく内容。

 直ぐに返す言葉が出てこなかった。

 面食らっている俺を置き去りに、タルヤ准尉の話は続く。


「7歳の頃の話だよ。私の“痛覚”の魔法のこと知ってるよね。あれって7歳の時に発現したって事になってるんだけどさ、それは嘘だよ。元々私は魔法の才能がなかったからね」


 大抵の子供は5歳で魔法の才能のチェックを受ける。

 その時に才能無しと判定された子供でも、後に魔法が使えるようになる場合が時々ある。

 しかしそれは非常にまれなケースだ。

 俺もそのパターンだった。

 しかし話によるとタルヤ准尉は、魔法の発現とは違うやり方で魔法が使えるようになったようだ。

 

 タルヤ准尉の話を要約するとこうだ。

 悪魔を呼び出す方法を見つけ出し、儀式魔法で呼び出した。

 目的は魔法を使えるようにお願いする為だ。

 だが悪魔を呼び出したは良いが、魔法を使えるようになるには何かを代償に支払わなければいけなかった。

 それでいくつかの代償を聞いた中の『味覚』を選んだそうだ。

 味覚を代償にして魔法を使えるようにしてもらったのだ。

 

 そしてその魔法と言うのが“痛覚”の魔法。

 これは選べなかったそうだ。


 こうしてタルヤ准尉は悪魔との契約により、『味覚』を代償にして“痛覚”の魔法を手に入れたらしい。


 何か凄い重い話を聞いてしまったな。


「それで私の質問だけど、ボルフ兵曹長の魔法って普通の魔法と違うよね?」


 いきなりタルヤ准尉からの質問だ。

 それも一気に掘り下げた所の質問。

 話の流れ的に俺も正直に話さないといけないよな。


「それを話す前に確認しておきたいのですがよろしいですか?」









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