第151話 グリフォンへの一撃









 俺の真正面から迫り来るグリフォンだが、さっきよりも速い速度だ。

 あの速度で身体ごとぶち当てられたらたまらない。

 

 間合いに入る大分手前で、俺は下段の構えからすくい上げる様に剣を振るった。


 深紅に染まった吸血剣がしなる様な軌道を描いてらめいた。


 グリフォンは何かを感じ取ったのか、俺の手前で何もせずに急上昇する。


 そこへ俺は振り上げた吸血剣を手首を返して今度は振り下ろす。


 剣が届く距離ではない。

 だが俺は剣を振るう。


 グリフォンはそのまま何もせずに石塔を飛び越えて飛び去るかに見えた。

 しかし、そうはならなかった。


 石塔の丁度真上辺りでグリフォンから鮮血が噴き出す。

 

 そしてカギ爪の付いた右手を屋上にポトリと落とした。

 さらに右翼の付け根から血が噴き出す。


 屋上に落ちたグリフォンの手首から噴き出す鮮血が、空中を漂い吸血剣へと吸い込まれていく。

 実に不思議な光景だ。



 ――お前の血ほど美味くない。



 そう吸血剣が訴えかける。


 片翼を傷つけられてバランスを崩しているグリフォン、そのまま地上へ落下かと思われたが、しぶとい!


 俺達の上空を通り過ぎてなお、血を巻き散らしながらも空中で反転した。

 そして俺をにらみながら一鳴き。


 「グルルルルッ!」


 あの傷でまだ飛べるか!


 俺は吸血剣の切っ先をグリフォンに向けたまま、顔の横に構える。


 グリフォンはくちばしを広げて突っ込んで来る。


「っつううううう」


 奴の胸のど真ん中に剣を突き刺した。

 

 吸血剣から「ズズズズ……」と血をすする振動が伝わって来る。


 俺はなんとか石畳で踏ん張り、屋上ギリギリのところで落下せずに耐えた。

 だがグリフォンは俺の右肩に噛みついている。

 

 こいつ、まだ立っていられるのか。

 まさかこの状態でまだ力を残していると?!


 予感は悪い方へと流れた。


「グルルルロロロロッ!」

 

 くちばしを俺の肩から外し、雄叫びを上げ首を大きく後ろへらすグリフォン。

 くちばしで俺の頭を突くつもりか!


 俺はグリフォンの胸から剣を抜こうと力を込めるが、吸血剣が言う事を聞いてくれない。

 血を吸う事に夢中なようだ。


「くそ、抜けろっ」


 その時、力強い声がした。


「放てっ!」


 ホッホ曹長の声だった。

 その声で一斉にクロスボウのボルトがグリフォンを襲う。

 そしてとどめとばかりにバリスタから槍が射出された。


 ボルトがグリフォンの体中に突き刺さり、バリスタの槍は胴体を横からつらぬいた。


 そしてグリフォンはゆっくりと石畳の上に倒れていく。


 いつもなら少女達から大歓声が上がるのだが、今回はシーンと静まり返っている。

 攻城塔から乗り移ろうとしているゴブリン兵までもが、驚愕きょうがくの表情で固まっている。

 まさかグリフォンが倒されるとは考えてなかったんだろう。


 誰も動こうとしないから、分かり切った事だが一応言葉にしてみた。


「えっと、倒したぞ……」


 我に返ったラムラ伍長が何か言っている。


「え、え、本当に倒したんですよね。グ、グリフォン倒しちゃったんですよね、私達?」


 今回は俺が倒したというよりも、少女達が倒したと言っても良い。

 とどめを刺したのは間違いなくバリスタやクロスボウだからだ。


 良い具合に彼女らの自信につながるといいんだがな。

 ちなみにロー伍長の視線は俺の吸血剣に釘付けだ。


 そこへ渡し板の上のゴブリン兵を下へ蹴落けおとしながらミイニャ伍長が質問してきた。


「今の技は何て言うにゃ?」


「あ、ああ、今のは……そうだな、“血空斬けっくうざん”ってのはどうだ?」


「厨二病にゃ!」


 お前に言われたくねえわ!!!


 そんなやり取りをしていると、攻城塔が突然バキバキバキという音と共に崩れ始めた。

 下をのぞき込めば、炎でかなりの部分がもろくなっている様だった。

 そして遂には耐え切れなくなって、登り途中のゴブリン兵もろとも攻城塔は横倒しに倒壊した。


 そこでやっと少女らから大歓声が巻き起こった。

 お互いに手を取り合いながらピョンピョンと飛び上がっている。

 クロスボウの少女らのほとんどは涙を流している。

 ロー伍長が魔剣をグリフォンに何度も突き刺しているのが見える。


 グリフォンを倒した情報が石塔内部にも伝わって、少女達が喜ぶ声が聞こえて来る。


 だがここでゆっくりはしていられない。

 グリフォンを倒したからと言って、この戦いが終わった訳ではない。


 下の階の出入り口扉が破られている。

 直ぐに加勢に行かなくては。


「戦いは終わってないぞ、気を引き締めろ。全員元の配置へ戻れ。俺は下の階へ行く。ホッホ曹長、屋上は頼んだぞ」


 それだけ言って俺は、ポーションで傷を癒しながら階段を駆け降りる。

 途中、少女達から「頑張ってください」と声を掛けられる。


 そうだ、こいつらを守らなくちゃいけない。

 俺は改めて心にとめる。


 一階に着いて見ると凄い有様だった。

 多数の少女らが負傷して座り込んだりしている。

 入り口付近では盾と剣を装備したオーク兵が数匹入り込んでいる。


 侵入されてはいるが、少女らがオーク兵を取り囲んで、奥へは行かせない様に槍で牽制けんせいしている。

 槍の間から時々クロスボウ射撃もしている。

 少女らは腰が引けてしまってはいるが、ここまで出来れば今は合格点だ。

 

「良く耐えた。後は任せろ!」


 俺は階段途中から飛び降り、オーク兵へと走り寄る。


 そして低い位置で横なぎに剣を一閃いっせん


 そのひと振りで構える盾の下からオーク兵二匹の足首を切り裂いた。


 流水剣術、水面斬りだ。


 悲鳴を上げて床に転がる二匹のオーク兵。


 その一撃で部屋の中にいる残りのオーク兵が後ずさる。


 俺は構わず前へ進みながらさらに剣で目の前のオーク兵を突く。


 そのオーク兵は盾をかざして俺の剣を防ぐ。


 その盾へすかさず蹴りを食らわし、敵がバランスを崩したところへもう一度オークに向かって剣を突き出した。


 吸血剣はオーク兵の眉間に食い込んでいく。


 同時に剣が血を吸い始める。


 ――“魔を狩る者”よ、獲物を狩りつくせ!


 この剣め、遂に俺を二つ名で呼ぶようになったか。

 

 俺はそれに構わず、オーク兵の死体を踏みつけて出入り口に立った。


 外を見ると、そこら中にオーク兵がウジャウジャいやがる。

 オーク兵の視線が一気に俺に集中したんで、脅し文句を言ってやった。

 まあ、俺の見せ場でもあるな。


「さあてと、貴様ら、ここで命の選択をしろ。ひとつ、ここから逃げてクソみたいな命をつなぐ。ふたつ、ここでそのくだらない命を散らす。さあ、選べ!」


 直ぐに後ろの窓からのぞくマクロン伍長から声が掛かった。


「オーク兵に人語は通じませんけど?」


 張り倒してやろうか?














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