第130話 作戦会議






「第一ワルキューレ小隊だけなら行って来て構わないよ。ロックヒルの防衛は鉱山砦から回すからさ」


 ロミー中尉の許しが出たのだ。

 と入っても二個小隊はいないと苦しい戦いになると思うんだが、許されたのは一個小隊のみ。

 鉱山砦には三個小隊もいるんだが、残念ながら新兵ばかりと戦力にはならない。

 それでもロックヒルの防衛くらいは出来るだろうと、一個小隊を派遣してくれるという訳だ。

 ちなみにその部隊は第二ワルキューレ小隊、つまりギャル貴族のエルッコ・タルヤ准尉の小隊だ。

 

 それはマズい。

 きっと荒らされる。

 ロミー中尉から解き放したら何をするか解からん奴だぞ。

 ロックヒルでパーティーとかやりそうで怖い。


 しかしもう後には引けない。

 覚悟を決める。


 くそ、こうなったら出来るだけ短期で終わらせて帰って来るか。

 奇襲が成功すれば一個小隊でもなんとかなる。

 敵は二個小隊のゴブリン兵と百匹ほどの建設部隊、一気に攻めれば一時は敗走していなくなるはず。

 だがまた戻って来るだろうな。


 まあ、そうしたらまた行って叩き潰せばよいか。

 一個小隊程度の人数ならば鉱山砦から馬車や獣車を借りて移動できる。

 そうなればロックヒルと灰色川まで4時間ほどの道のりとなる。

 そう思えば気は楽になる。


 そうだ、折角だからバリスタも持って行くか。

 二連装のバリスタは実戦で試しておくべきだしな。


 そしてまずは五人の分隊長を集めての打ち合わせなんだが、そろそろこいつらにも作戦みたいなのを自分で考えさせる機会を与えようと、俺はなるべく意見を言わないようにしてみた。

 進行役は小隊本部員のロー伍長に任(まか)せて、俺は椅子に座って腕組みをしながら見物だ。


「何か意見がある者はいないかのう」


「……」

「……」

「……」

「……」

「お腹空いたにゃ……」


 テーブルを見つめたまま誰も答えない。

 うーん、こいつらにはまだ早いか。

 

 ごうを煮やしたロー伍長が個人指名する。


「ラムラ伍長、お主だったらどう攻めるのじゃ、言うてみい」


 すると急に背筋をピンと立てて、ガチガチに緊張しながら言った。


「はい、じ、自分ならば一斉射撃を数回ほど食らわした後、全員で突撃します」


 だから近接攻撃は不得意な部隊だってのに!


「うむ、自分達から接近戦に持ち込むと?」


 すると拳を握りしめながら笑顔で返すラムラ伍長。


「はい、敵陣営に踊り込んですべて斬り伏せてやりますよ」


「なあラムラ伍長よ、それが出来る少女兵がこの小隊に何人いるのじゃ?」


 そのロー伍長の言葉に急にシュンとなり、小さな声でボソリと告げるラムラ伍長。


「そうですね、すいません……」


「次、サリサ伍長どうじゃ。狩人の子としての経験から何かないかのう」


「え、えっと、そうですね、敵を取り囲んで地面を足で踏み鳴らしながら突撃すれば……」


 ラムラ伍長との違いは足ダンだけじゃねえか。

 ロー伍長はサリサ伍長をスルーして次の者を指名した。


「はい、次。そうじゃな、ソニア伍長はどうじゃ」


吶喊とっかんかあるのみですね!」


 突撃という意味の言葉を言い換えただけじゃねえか。

 そもそも脳筋に意見を聞いちゃだめだ。

 ロー伍長の切り替えが早くなってきた。


「次、マクロン伍長、どうなのじゃ」


 彼女は平民だが金持ちの出なので学がある。

 他の分隊長とは頭脳が違う。

 きっと何か良さげな意見を出してくれるだろう。


「はい、そうですね。私ならばマンドレイクを放り投げて敵を混乱させますね」


 お、これは期待できそうな

 ロー伍長も期待しているのか、前のめりでマクロン伍長に詰め寄っている。


「おお、そうかそうか。それでどうするのじゃ?」


「突撃します!」


 おい、やっぱりその言葉か!


 するとロー伍長。


「マクロン伍長や、悪い作戦ではないのじゃがな。マンドレイクは高く売れるのじゃ。その程度のゴブリン部隊を追っ払う作戦で使うにはもったいないのじゃ」


「うーん、そうですか。残念です~」


 そして最後の一人であるミイニャ伍長をチラッと見てロー伍長がつぶやいた。


「どうやら手詰まりみたいじゃな」


 ミイニャ伍長はスルーかよ!


 しかしだ。

 ミイニャ伍長が挙手して自ら意見を言い放った。


「はいにゃ、ロー伍長。私に良い考えがあるにゃっ」


 一同が一斉にミイニャ伍長を見る。

 その表情はどれも不安でしかない。


「なんじゃ、言ってみよ」


「火攻めにするにゃ」


 火攻めは砦を攻める時の常套じょうとう手段だからな。

 ミイニャ伍長にしてはまともな意見だ。

 だがな……


「ミイニャ伍長、火攻め自体は悪い作戦じゃないがのう。敵はまだ防壁も出来ていないのじゃぞ。何に火を着けるのじゃ?」


「ふにゃ?」


 そう、敵は砦の建設を始めたばかり。

 火攻めはあまり効果が無い。

 ってゆうか、燃やす物が少ない。


「恐らくじゃがな、燃やすものといったら建築資材くらいじゃぞ。そんなものに火を着けた後どうするのじゃ?」


「斬り込むにゃ!」


 斬り込みっていう突撃じゃねえか!


「何じゃ、結局は突撃なのじゃな。ったく、この小隊はすっかりボルフ小隊長に染まってしまったのじゃな」


 え?

 俺のせいなのか?


 そこでロー伍長が俺の方をチラリと見る。

 くそ、俺に話をまとめろと?


「えっと、そうだな。皆の屈託くったくのない意見を聞けたのは良かった。それでだな、敵を蹴散けちらすというか、嫌がらせをしようかと思う。要は建設をさせなければ良い訳だからな。何も敵兵を倒さなくても良いだろ?」


 伍長らが俺に注目する。

 そして直ぐにマクロン伍長が質問してきた。


「ボルフ小隊長、何をたくらんでいるんですか」


 人聞きの悪い言い方をするな。


「これはロミー中尉の発案による作戦だ。敵は砦を建設する為に森から木を切り出して運んでいる。それを邪魔するだけだ。ついでに資材置き場の木も燃やす。その辺はミイニャ伍長の意見に通じるものがあるな」


 するとミイニャ伍長が急に鼻高々にしゃべり出す。


「そうにゃ、いつも御飯の事ばかり考えていると思ったら大間違いにゃ」


 いや、考えるだろ。


「だがな、敵の砦の建設は防げるが、灰色川での漁場が確保できない。砦建設中の場所にはな、食用になる魚や川海老の漁場があるんだ」


「にゃんとっ。聞いてにゃいにゃ! お魚? 川海老? にゃあああ!」


 やっぱ、考えてるじゃねえか!

 それに興奮しすぎだ。


「だから最終的には漁場を確保したい。確保できれば食料も確保出来て資金源になる。それには敵が砦建設をあきらめてくれるのが一番手っ取り早い。その為にも常にプレッシャーを与える事が肝心だ」


 この後、敵の守備の部隊規模や建設部隊の規模など説明。


 明後日の夜明け前にここを出発する事になった。


 







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