第127話 魔剣と決闘






 俺が魔剣へと手を伸ばすと、ペルル男爵が突如制止してきた。


「ちょっと待った。それに触れる前に君のサインが必要なんだ」


「サイン、ですか?」


「そう、そう。受取書っていうか、なんというかね。まあ、あれだよ。読めばわかるよ」


 そう言ってペルル男爵は俺にその書類を手渡してきた。

 早速、俺はそれを読んで見る。

 色々書いてあるが簡単に言えば、この剣を所持するのは自己責任というもの。

 王家は一切かかわりを持ちませんよ~的な内容が書かれていると思う。


 魔剣所持ってそんなに大変な事なのか。


「魔剣を所持するって思ったより責任重大なんですね」


 そう俺が言うとペルル男爵も考えは同じだったようだ。


「うん、僕もここまでとは初めて知ったよ。過去に王家がらみで何かあったみたいだね。公にされてはいないけど」


 それを聞いたら何だか怖くなってきたな。 

 でももう後には引けない。


 ここは根性を見せたる。


「わかりました。それではサイン致します」


「本当に良いんだな?」


「はい、覚悟は出来ましたから」


 そして俺は書類にサインし、目の前に横たわる魔剣へと遂に手を伸ばした。


「おおおおお!」


 物凄い幼女の声にビビッて俺は思わず手を引いてしまった。


「魔剣なのじゃ、おおおお、これは珍しいのじゃ」


 フェイ・ロー伍長じゃねえか!

 ったく、驚かせやがって。


「ロー伍長、今大切なところなんで邪魔しないで貰えるか」


 するとロー伍長は非常に興味あり気に、魔剣と俺を交互に見ながら言った。


「なんじゃ、もしかしてボルフ兵曹長がこれを譲り受けるのか?」


 面倒臭いな、もう。

 

「そうだけど、何か用か?」


「是非にじゃ、私にもこの魔剣を見せてくれんかのう。ダメか? いいじゃろ? 減るもんじゃないじゃろ」


「はいはい、受領が済んでからな。それまでは大人しく待っててくれるか」


 ほんと邪魔しないでくれよ。

 俺だって早くいじりたいんだからさ。


「分かったのじゃ。それなら早く受領せよ」


 ふう、それなら――

 俺は深呼吸した後、再び魔剣に手を伸ばす。


「ボルフ小隊長!」


 今度は門の上の見張り兵から声が掛かった。

 

 もういい加減にしてくれよ。


「どうした!」


 ちょっと大きい声を出してしまったら、見張り少女が少しビビっている。


「す、すいませんっ。で、でも、誰かが門の前に来ています」


 来客か。

 嫌なタイミングで来るな。


「誰か解かるか」


「見たこともないヒューマンの髭面ひげづらのおっさんです。それに汚い恰好してます。追い返しますか?」


 そこまで見張りの少女が言った時点で、門の向こう側から男の声がした。


「おい女、全部聞こえてるぞ! 良いから早く“魔を狩る者”を呼んで来い!」


 俺に用があるのか。

 そして少女が再び俺に声を掛ける。


「あんなこと言ってますけど、どうしましょうか……」


 今、大事なとこなんだけどなあ。

 俺は門の向こう側に聞こえるくらい大きな声で言った。


「俺が“魔を狩る者”と言われているボルフだが、何用だっ!」


 すると即座に返答があった。


「我は星風流の師範、ローベルト・チーキン騎士爵なり。お目通り願いたし!」


 げっ。

 また刺客ってゆうか、決闘の申し込みのながれじゃねえか。

 それに爵位持ちとは面倒臭い。

 それに今度は水系の剣術じゃないぞ、どういう訳だ?


「言っておきますが、決闘は受けませんのでっ!」


「とにかく門を開けてもらいたい!」


 俺はペルル男爵を見る。

 するとペルル男爵は、両手の平を空に向けてお手上げのポーズを見せてきた。


 貴族じゃしょうがない、中に入れるか。


「門兵、扉を開けてやれっ」


 門が開くと、そこには門兵が言っていた通り、汚らしい恰好の髭面ひげづらおっさんが立っていた。


 扉が開くなり、俺に向かって歩いて来る。

 そして俺の目の前で立ち止まると口を開いた。


「星風流の師範、ローベルト・チーキン騎士爵。お主が“魔を狩る者”だな」


 何で俺だと分かったんだよ。


如何いかにも、私がその“魔を狩る者”と呼ばれる者ですが、何か御用でもありますでしょうか」


 するとチーキン騎士はペルル男爵の存在に気が付き、一旦そっちに目を向けて言った。


「そちらは貴族の方ですな。お初にお目にかかります。ローベルト・チーキン騎士爵と言います」


「僕はここの領主のルッツ・ペルル男爵と言います。よろしくお願いします。それで僕の部下に何の用があるんだい」


 やった、ペルル男爵が間に入ってくれた。

 これで面倒臭い決闘から逃れられるな。


「はい、“魔を狩る者”との決闘をお許し願いたい」


 あああ、言っちゃったよ、こいつ。


「良いだろう、僕が見届け人になりましょう」


 え?

 え?

 えええ!


「かたじけない。お手数おかげ致す」


 俺が唖然あぜんとする中、ロー伍長が俺に小声で言ってきた。


「ボルフ兵曹長や、これは魔剣のデビューとしては申し分ない相手なのじゃ。剣の性能を確かめるついでに、軽くいなして帰してしまえば良いのじゃ」


 いや、簡単に言うけど、相手は師範だぞ。

 しかも星風流とか言う聞いた事もない流派。

 新たに敵を作りそうなんだが。


 だが相手のチーキン騎士は俺の返事など聞かないうちに、勝手に決闘の準備を進めているんだが。


「ほら、ボルフ兵曹長も早く準備をしてあげなよ」


 ペルル男爵は何勝手な事言ってるんだか。

 だが平民の俺に文句など言えるはずもなく、すべての反論は飲み込んだ。


「わかりました。それではルールはどういたしますか」

 

 俺が聞くとチーキン騎士は一言「ルールなど無用」。


 それは好都合だ。


 どれどれ、それでは魔剣とやらを試してみましょうか。


 






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