第126話 王様の贈り物







 マクロン伍長に話を聞くと、パトリシアは昨日辺りから回復傾向が見られ、俺が帰って来る一時間前には一人で食事が出来るまでになったという。

 ただ、生死の境をさまよったのは確からしい。


 パトリシアを見に行くと、うつ伏せで眠りに落ちていた。

 背中の傷の為に仰向けでは眠れないんだろう。

 可哀そうに。


 しかし安らかな寝息を聞いて安心した。

 





 翌日になると、ほとんどの少女達がぐったりしている。

 それに動き出せばまるで操り人形のような動き。


 ロー伍長に何かあったのか聞くと「ウサギ飛びの自己鍛錬らしいのじゃ」と返ってきた。

 

 そうか、忘れていた。


 今日の午前中の偵察担当はサリサ分隊なんだが、分隊の半数が昨日のどっきりとか言う芝居に加担していたようで、整列はしているが操り人形のような動きの少女ばかりだな。


 先頭に立つサリサ伍長など酷いもので、相当足が痛いみたいだ。

 筋肉痛ってやつか。


 そしてサリサ伍長が俺の前へと足を引きずる様にやって来て言った。


「ボルフ小隊長、本日の偵察任務なんですが、その~、ミイニャ分隊と交代してもよろしいでしょうか」


 はは~ん、足腰が痛くて偵察どころじゃないか。

 しょうがないな。


「わかった、そうしろ」


 まあ若いから直ぐに良くなるだろう。

 その後、ミイニャ分隊が颯爽さっそうと偵察へと出かけて行った。


 俺はというと、やることがあった。


 建設部隊とのすり合わせ。

 この間に頼んだ矢避けの盾に関してだ。


 試作が出来たらしい。


 見せられたものは高さ百センチほどの板で、地面に立てるためのつっかえ棒が付いているだけの代物。

 少女がしゃがめば十分に隠れられる大きさだ。

 一応だが裏面には補強材が付いているし、持ち運びやすいように取っ手も取り付けてある。


 これに革でも張ればかなりの強度にはなるが、俺はそこまでは求めていない。

 それよりも数がほしい、質より量。

 革張りするとなると大量の革と時間が掛かる。

 それならば革が無しの直ぐに出来る方を選ぶ。


「親方、これで頼みます。これを最低でも五十個お願いします」


「そうだな、一日で十個くらいならここの建設をしながら作れるが、それでも良いか」


 俺はそれでOKした。


 使い方は簡単だ。

 少女クロスボウ兵の前面にこの盾を置いて、敵からの矢や投石を防ぐ。

 そして安全な盾の後ろから少女らがクロスボウ射撃をするって作戦だ。

 これは他の部隊でも時々使っている手でもある。

 俺達もそれを導入して、少しでも負傷者を少なくしようと考えている。


 一日十個なら、五日もすれば分隊兵士全員分が完成することになる。

 それを実践投入するには訓練も必要になるか。


 そんな話をしていると、伝令の少女が俺に走り寄って来る。

 相変わらずのろい走りだが。


「ボルフ小隊長、ペルル男爵がこちらに向かっているとの連絡が入りました」


 ペルル男爵がわざわざここに来る?

 普通なら平民の俺を呼び寄せるのが普通なんだがな。


「要件とか聞いているか?」


「いえ、伝書にはただこちらに来るとだけ書いてありましたので、理由まではわかりません」


「そうか、なら来るまで待つとするか」


 ペール村からだと三日ほどで到着だな。

 料理の得意なメイケあたりに何か作ってもらう準備でもしておくか。


 そして三日後の夕方にペルル男爵は到着した。

 俺は門で下士官らと共にペルル男爵を迎えた。


 相変わらず質素な馬車と護衛も少なめ。

 もうかっているんだから、もう少し贅沢ぜいたくしても良いと思うんだがな。


 鉱山砦の魔石鉱山を所有し、しかもそこで採れる魔物植物は高値で売れている。

 それにもうかっている証拠に、兵士をどんどん増やしている。

 まあ、少女兵ばっかりだがな。

 ペール村も徐々に人が増えて繁栄はんえいしてきているみたいだし。

 もう少しそれらしい恰好をした方が良いのではないだろうか。


「ボルフ兵曹長、元気にしてるかい?」


 俺は不動の姿勢を取って敬礼して答える。


「はっ、相変わらず元気だけはありますっ」


 今日のペルル男爵は私服だ。

 という事は領主としてここに来ていることになる。

 

「早速なんだけどね、あまり長くは居られなくてね。最近仕事が忙しんだよ――よいしょっと」


 ペルル男爵は馬車の中から自ら箱を取り出した。

 一メートル以上はある長い木箱。


 それを地面に置くと、その木箱を開け始めた。


 すると中には布に包まれた物が入っている。


 そしてそれが現れたところでペルル男爵は言った。


「前に欲しいものは特にないけど、えて言うなら“魔剣”が欲しいって言ってたよね」


 そう言えば王都でアルホー子爵を引き渡した時、欲しいものを聞かれたんだっけ。

 何て答えたかはもう覚えてないんだがな。


「えっと、そんなことありましたか。あまり覚えていません」


 ん、待てよ。

 話の流れ的にいくと、もしかしてこれ魔剣?


「ボルフ兵曹長、これは王様から君へのプレゼントだよ」


 きた~~!

 本当に魔剣が手に入るのか!


「さ、触ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、もちろんだよ。それに僕達は怖くて触れないよ。触って呪われたくはないからね」


 呪われるんかい!

 それは魔剣じゃなくて、呪いの剣じゃねえか。


 取りあえず俺は直接手で触れない様に布を外す。


 俺はそれを一目見て魔剣と解かった。


 どす黒いオーラをただよわせるそれは、まさしく魔剣以外ではありえなかった。








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