第124話 グリフォン








 ゴブリンが放った火は、徐々に煙を立ち昇らせながら、簡易で作った門の扉を燃やしていく。

 このまま放って置くと火が他に燃え移ってしまう。


「くそ、ミイニャ分隊、火が燃え移る前に扉を押し倒せ!」


 簡易で作ってもらった扉だから、倒すのは簡単だ。


 少女ら十人がかりで押し倒すと、その向こう側ではゴブリンン部隊が見えた。

 火を放った奴らだ。

 しかし門の上に陣取っている少女のクロスボウで、次々に射殺されていく。


 さらに森の方へ目をやると、ゴブリンの指揮官が潜んでいたところからゴブリン部隊が侵攻して来るのが見えた。

 ゴブリン本隊も動き出したか。

 

 そこでサリサ伍長が急かすように言った。


「グ、グリフォンが急降下してきますって!」


「落ち着け、グリフォンに飛び道具はない。こっちが有利だ」


 そう少女らに言い聞かせたが、俺もビビっている。

 過去の嫌な思い出が頭の中を過ぎる。

 クロスボウがどれだけ効くのか想像もつかないが、今はやるしかない。


 グリフォンはグングンと下降して距離を縮めて来る。

 外からのゴブリン部隊による襲撃、そして空からのグリフォンによる同時襲撃。

 くそ、大ピンチじゃねえか!


「外のゴブリン部隊はソニア分隊に任せておけ。他は全員でグリフォンに当たるぞ」


 そうだ、まずはグリフォンを追っ払う。

 俺は続けて出来るだけ落ち着いた口調で言った。


「クロスボウ構え~、まだ撃つな、引き付けてからだぞ――」


 少女兵の何人かから「無理無理」とか「ひ~」とか声が聞こえてくる。


 グリフォンが迫る。


 そして貯めに貯めて俺は大声で叫ぶ。


「てっ~~~!」


 四個分隊、四十人の少女兵のクロスボウから一斉にボルトが空に放たれた。


 降下する速度も相まって、クロスボウの威力は相当なはず。

 そのボルトがグリフォンを襲った。


 俺達の数十メートル上空だろうか、グリフォンが急激に降下を止めて見張り塔すれすれぐらいを通過していく。


「よおし! 防いだぞ。皆良くよった。また来るぞ。再装填、急げ!」


 緊張の為、その場でヘナヘナとしゃがみこむ少女を仲間が起こしている姿が目に映る。

 だが全員の命が掛かっている。

 一人でもサボらせるわけにはいかない。

 厳しいようだが、怪我してようがクロスボウを扱えるなら全員が参加してもらう。


「ボルフにゃん、ボルトは刺さったのかにゃ?」


 ミイニャ伍長の目にはとらえられなかったようだが、確かにボルトはグリフォンの身体に何本も突き刺さった。

 だが、急降下を止めて翼をバタバタとはためかせた時、ボルトが何本も落下しているのが見えた。


 つまり、刺さっても浅い。

 深くは刺さらなかった可能性が高い。

 となるとクロスボウでは威力が足りないってこと。

 だが少しでも効果があるなら使うまで。

 それに今、俺達が対抗できる武器はこれしかない。


「再装填急げ! また来るぞ!」


 今度は低い高さでこちらに飛んで来る。


 外のゴブリン部隊は門へ集中突撃して来ているらしい。

 逐次ちくじ、門の上の少女兵が大声で状況を説明してくれているが、その声はすでに泣き声に変わっている。


 外のゴブリンを蹴散らしたいが、空のグリフォンから目を離す訳にはいかない。

 くそ、ロー伍長を外に出したのは失策だったか。

 小隊をまとめられる兵が、俺以外に居なくなってしまった。


「構え~!」


 ロックヒルに近づいた辺りでグリフォンが上昇。


 そして再び急降下を始める。


「て~~~っ!」


 二度目の一斉射撃。


 グリフォンの身体にボルトが吸い込まれていく。


 だが今度は逃げずに俺達に攻撃を仕掛けて来た。

 大きなカギ爪の様な前脚を突き出してくる。

 前脚はわしの爪をしているが、それはあまりに大きい。


「退避~!」


 少女らが一斉に身を伏せる。


 すると俺の周りに視界が広がる。


 今、立っているのは俺一人。

 迎撃用に供えていた細い丸太を手に持った。


 急降下して来たグリフォンは、後ろ足を一旦地上に着き、前足の爪で俺を襲う。


 その時、「キャー」という少女の悲鳴が聞こえる。

 何人かの少女がグリフォンの後ろ脚に踏まれたようだ。

 だが今は構ってられない。


 俺は長い丸太をグリフォンの胸を目掛けて突いた。


 狙うは突き刺さっているボルト。


「どうだ!」


 見事ボルトの柄尻をとらえて、より深く突き刺してやった。


 しかし。


「ぐわっ!!」


 俺は飛ばされた。


 数メートル後方の地面に背中から転がる。


 さすがに体重差があるだけの事はある。


 突いた俺が飛ばされた。


 だが、その一撃は効いたようだ。


 グリフォンが悲鳴を上げながら後ろ足で走りだし、再び上空へ舞い上がろうとする。


「させるか!」


 俺は手斧を投げつける。


 手斧はクルクルと回転しながらグリフォンの後半身のライオンに突き刺さる。


 ――浅い。


 しかしその一撃がグリフォンを空に舞い上がらせるのを一瞬だけ遅らせた。


 その瞬間を逃さない少女がいた。


「にゃあああ!」


 ミイニャ伍長がその武器を振るった。


 曲刀の槍だ。


 陽の光を浴びて一瞬だけキラリと光ったその刃が、グリフォンの腰の部分を切り裂いた。


 鮮血が舞う。


 グリフォンはなおも後ろ足で地面を何度も蹴りながら羽ばたく。


 地面が砂埃すなぼこりを舞い上げる。


 その砂埃すなぼこりが視界をふせぐ。


 どうやらグリフォンは勢いを付けなければ、空に舞い上がれないようだ。


 翼を羽ばたかせながら防護壁の中を走り回るグリフォン。

 防護壁内は兵舎とか建築資材が多くあるから、結構狭い敷地だ。

 助走できる場所などない。


「勝てるぞ、起き上がって再装填しろ!」


 チャンスと思った俺は少女らを奮い立たせる。


 だがグリフォンは門に向かって進んで行く。

 そこへ門を目指して来たゴブリン部隊とぶつかった。

 グリフォンは味方であるゴブリン部隊を踏み潰して門の外を走る。


 ゴブリン部隊は一瞬でパニックだ。


「門の前で隊列を組むぞ!」


 俺は門の外へと走り出て、門前で隊列を組ませる。


 狙うはゴブリン部隊。







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