第123話 ブレインの出現






 だが、ゴブリン兵の突撃も、クロスボウでの何度かの斉射で死体の山を作ったに過ぎない。

 またも簡単に撃退してやった。

 こちらの負傷者も軽傷程度で、戦闘行動に支障ない程度だ。

 そしてやはり次の日の昼間も攻撃はない。

 偵察兵は何回も見かけたが、兵を向かわせると直ぐに逃げて行く。


 昼間は偵察兵が来るだけで、夜になると突撃して直ぐに引いてしまう。

 グリフォンは一切攻撃を仕掛けて来ない。


 こうなるとなんか怪しくなってくる。

 何かあるんじゃないかと。


 それが四日も続くと少女らはそれに慣れてきてしまう。


「ゴブの偵察追っ払って来まーす。ああ、眠い~」


 マクロン伍長が眠そうに分隊を引き連れて門の外へと出ていく。

 分隊の少女兵のひとりが自分のクロスボウをバンバン叩いて、「私達に任せなさい」的なアピールをして来る。

 そいつはアカサだ。

 

 俺はシッシッと手で払う仕草で、「いいから早く行け」的なサインを送る。

 するとアカサが拗ねた顔をして見せる。


 いつもの日常だ。

 戦いの最中ではあるが、余裕のある日常。

 言葉を変えれば気が抜けている。


 だがどうも引っかかる。

 ゴブリンは何をしたいんだ?


 そしてまた夜が来るとゴブリンの突撃が始まる。

 ただ、今日は朝方に攻撃があった。

 今日は来ないのかと思ったがやはり攻めて来た。

 ただそれだけの違い。

 それぐらいで特に他に変化はない。

 そしていつも通りで、数十匹の遺体を残して撤退して行った。


 そしてゴブリンが撤退して一時間ほどしたところで陽が昇る。


 その時だった。


「森からグリフォンが飛び立ちます!」


 見張り塔にいた少女が叫んだ。


「遂に来るのか!」


 俺は慌てて見張り塔へと登って見る。

 グリフォンがこちらに向かって翼を羽ばたいていた。


「全員クロスボウ準備~、各分隊で固まれっ。敵は空から来るぞ!」


 俺はありったけの声で叫ぶと、仮眠中だったロー伍長が何事かと兵舎から飛び出して来た。

 

「ボルフ小隊長、何があったのじゃ!」


 俺は空を指差して言った。


「グリフォンが空から来る。迎撃態勢だ!」


 するとロー伍長。


「う~む。もうすぐ建設部隊が到着するんじゃがのう」


 そうか、そう言えば建設部隊が到着する時間か。

 ん、もしや……そうか、そう言うことか!


「ロー伍長、今すぐ馬で建設部隊を引き返すように言ってくれ。奴の狙いは移動中の建設部隊だ!」


「なんと、それはマズいのじゃ。わかった、行ってくるのじゃ」


 ロー伍長は直ぐに移動中の建設部隊へと馬を走らせた。


 しばらくすると案の定、グリフォンは俺達の頭上を飛び越えて、建設部隊へと向かって行く。


 グリフォンは結構高いところを飛んでいて、頭上を通る時のクロスボウ攻撃では届かなかった。


 ロー伍長が馬を走らせながら笛をピーピーと吹いている。

 さらに片手で空を指さす。


 それを理解した建設部隊は隊列を反転させて鉱山砦へと戻って行く。

 しかし鉱山砦に戻る前にグリフォンは追い付きそうである。


 馬車に積んだ荷物はその辺に投げ捨てながら、必死で逃げる建設部隊だったが、もう少しというところでグリフォンが襲い掛かった。


 ロックヒルから見るとグリフォンの大きさが際立って見える。

 人は豆粒ほどだ。

 グリフォンは何度も急降下を繰り返しては、隊列に襲い掛かっている。


 だがどうすることも出来ない。


 我々が次の標的になる前に戦闘の準備をするだけだ。

 恐らく次はここへ来る。

 俺は見張り塔から駆け降りて指示を出す。


「今のうちにありったけのボルトを用意しておけ。いいか、それから必ず分隊ごとに動く事。良し、急げ!」


 俺は急いで指示を出すと、少女らにも緊迫感が伝わったのか、あせった様子で作業を進めて行く。


 そこで見張り塔の少女が「こっちへ来ます!」と叫んだ。


 グリフォンがロックヒルに向かって飛び始めたのだ。


「密集隊形、ボルト装填!」


 俺の合図で四個分隊が密集隊形を取る。

 ソニア分隊だけは四つの見張り塔を守って貰っている。


「俺の合図があるまで撃つなよ~」


 グリフォンがグングン迫る。


 近くにあった建築資材が目に留まる。

 細い丸太だ。

 槍がないからこれで代用だ。


 あと少しでグリフォンが真上に来るというところで、見張り塔の少女が悲痛な叫び声を上げた。


「大変、大変ですっ。門が、門が燃やされてます!」


 何?

 ゴブリンの接近を見張りが見逃したのか?

 しかしそうではなかった。

 再び少女が叫ぶ。


「死体に生きてるゴブリン兵が潜んでます!」


 くそ、そういうことか。

 死体の山を築いたのはそういう意味があったのか。


 三回の夜襲で自分達の死体の山を作り、四回目の夜襲は朝方でその死体に伏兵を忍ばせた。

 そして早朝から今の今までジッと動かない様にしていたのか。

 そうなると俺達はグリフォンだけじゃなく、地上のゴブリン部隊も相手にしないといけない。


 なんと周到な作戦を立ててきやがった事か。

 これはゴブリン兵の中に“ブレイン”がいるな。


 ブレインとは頭脳。

 敵の中に他のゴブリンよりも、頭脳に長けた個体がいるようだ。 


 今対峙しているゴブリン部隊には、“ブレイン”なる頭の良い個体がいるのだろう。

 この手の込んだ作戦はそのブレインの指示に違いない。


 どこにいる、ブレインめ!

 そのブレインを真っ先に倒したいが、居所が分からないからなにも出来ない、


 いや、森か。

 きっと指揮官が居た森に違いない。


 だが今はグリフォンとゴブリン部隊が攻めて来る。

 どうにもならない状況だな。




 




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