第81話 新兵少女達の実力






「ラムラ伍長、後は任せたぞ。新兵に先任としての実力を見せてやれ」


 俺の言葉にラムラ伍長は大きくうなずき、自分の分隊に力強く命令する。


「ラムラ分隊、前進!」


 少女達は綺麗な隊列を組んだまま、混乱する新兵少女の中へと小剣を構えて進んで行く。

 我が物顔で暴れまわっていたつの兎は、新たな敵と判断したのかラムラ分隊へとその矛先を向けた。


 六匹のつの兎がラムラ分隊の真正面から襲い掛かる。


「一匹も逃すなっ、我ら分隊の力を見せつけてやれ!」


 ラムラ伍長の怒声どせいが飛ぶと、分隊の少女らがそれにこたえるように「やっちゃえ~」と声を上げてつの兎へと斬り込んだ。


 少女らの剣技っぷりは凄まじかった。

 

 はっきり言って「見てて恥ずかしい」レベル。

 そういう意味で凄まじい。


 しかしだ!

 

 ラムラ分隊は力業で倒せる弱者に、わざわざ包囲して仕留めていった。

 三十分ほど時間がかかったが、全て剣だけで仕留め、最後の一匹を追い詰めた。


 これは彼女らの成長だ……いや、前にゴブリン相手でもこれくらい楽勝だったよな?


 そして生き残った最後の一匹は、ラムラ分隊の少女に周囲を囲まれ、風前の灯火ともしび状態だ。


 ラムラ伍長が叫ぶ。


「もう逃げ道はないぞっ、観念しろ!」


 どうやらつの兎に話し掛けているらしい。

 ラムラ伍長よ、通じないぞ?

 それにつの兎は低レベル魔物だぞ?

 気取り過ぎじゃねえか?


 ラムラ伍長が剣を下段へと構え一言。


「来い!」


 すると角兎がアゴを引いて走りだす。

 つのによる必殺の突撃だ。


 さすがにこのつのの突撃を喰らうとかなり痛い。

 恐らく血が出る。

 でもその程度。


 つの兎は後ろ脚で地面を強く蹴り、つのを突き出す勢いでラムラ伍長に飛びかかった。


 そこへ絶妙なタイミングでラムラ伍長の小剣が、下段からすくい上げる様に斬り上げた。


 血吹雪が舞う。


 そして地面には首が斬り飛ばされたつの兎が転がっていた。


 ラムラ伍長は小剣に付いた血を振り払うと、チンッと音を立てて鞘にしまう。


 すると新兵少女らから大歓声が沸き起こった。


 新兵少女らに背を向けたラムラ伍長がつぶやく。


「ふん、たわいもない」


 すると新兵少女らの間からは「お姉様~」という言葉が聞こえてくる。


 俺は笑いをこらえるのに必死だ。


 普通の兵士ならつの兎程度に引けを取らない。

 だいたい、ラムラ分隊はちょっと前にはゴブリン相手でも勝ってたけどな。

 ま、えて言わないけが。


「よおし、つの兎を回収しろ。そいつは食えるからな。ほら、新兵ども、ボーっとしてないで、動け、動け!」


 俺が急かすと、慌てて少女軍曹が新兵少女らに指示を出し始めた。


 そんな光景を黙って馬車の荷台から見ていたメイケとアカサ、懐かしそうな表情をしている。

 新兵だった頃の自分達を思い出しているんだろう。


 俺はラムラ伍長に近づいて小声で聞いてみた。


「おい、今の戦いの茶番は何だ。わざわざ取り囲んで仕留めるほどの相手じゃないだろ」


 するとラムラ伍長。


「何を言ってるんですか。先任小隊としての実力差を見せてやったんですよ」


 そう言われると何も言えん。

 でもまあ、新兵少女らも戦い方の勉強になった事だろうし、良しとするか。

 それにラムラ分隊のリハビリってのもあるしな。


 取りあえずここで休憩をとることにした。

 

 建築中の砦までは歩いて半日かかる。

 俺達にとっては楽な道中でも、新兵少女らにとっては長い道のりだ。

 いつもよりも多めの休憩をとるつもりだ。


 この道中で新兵少女の実力を知ろうかと思っていたんだが、出発間もないが早くもその実力が分かってしまった。


 戦いは全くの素人。

 クロスボウの扱いも素人。

 体力も素人。

 

 新兵訓練所を出たばかりの新兵そのものだった。


 新兵少女はラムラ伍長達、下士官に任せるつもりだったんだが、それが今ここにきて揺らぐ。

 やはり俺が訓練すべきか……いやいや、下士官にまかせるといったんだ、最後までやらせよう。

 人に教えることは自分の勉強にもなる。


 とりあえず皆から少し離れた所にある岩に腰を掛ける。


 するとササっとアカサとメイケが近づいて来て、サササっと俺の両隣に座った。


 二人ともいつもと感じが違う。

 それは宣伝の為に化粧をしているからだ。

 

 メイケは元々の作りが良いから、化粧なんかしたら、そりゃもう凄いことになっている。

 恥ずかしくて直視できねえ!


 アカサは元々幼い感じで、いかにも田舎娘っぽかったんだが、化粧をした途端とたんに綺麗になった。

 誰が描いたんだろうか。

 名画だな――あ、化粧だから違うか。


「あ、あの……わ、わたし……どう、です…か?」


 急にメイケが俺に聞いてきた。

 いつものように顔は真っ赤だ。


「なんだメイケ、どうって何がどうなんだ?」


 意味が解らず聞き返すと、そこでアカサが口を出してきた。


「ボルフ隊長っ、質問に質問で返さないでくださいよ~」


「そんなこと言われても質問の意味が解らんのに、答えようがないだろうが」


「だ~か~ら~、私達ですよ~、私達。年頃の女の子がお化粧してるんですよ~。なんか気の利いた言葉ないんですか、キュンキュンさせてくださいよ~」


「きゅんきゅん? よく解からんが。気の利いた言葉だな、良し――」


 俺が言葉を考えていると、アカサとメイケが何だか期待する目で俺を見つめてくる。

 おいおい、やめてくれよ。

 俺にそんなの期待するなって!

 くそ、何か気の利いた言葉はないか。

 んん……お、思いついた!


「二人とも、中々の出来だ。その戦化粧いくさけしょうなら敵も恐れをなして逃げて行く――」


 二人の表情が急変した。

 ヤバい。


「――そ、そして野営地へ戻って仲間にこう言うんだ。“ワルキューレの美少女”が攻めて来たと!」


 二人の顔がパッと笑顔になる。


 あっぶねえ~~!


「ボルフ隊長はやっぱり素敵です~、大好き~」

「……わ、私も……」


 そこへ第三者が乱入。


「は~~~い、そこ、終了~~~~~っ。出発ですから。なあに、いちゃいちゃしてるのよ。まだ作戦中ですよ、ったく」


 突然割り込んできたのはラムラ伍長だった。


 どうやら休憩は終わりの様だ。

 準備出来ていないのは俺達だけだったみたいだな。

 あれ、ってことは、今の全部聞かれてたのか!

 

 周囲を見まわせば、新兵少女らがこっちを見てニヤニヤしてやがった。







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