第80話 角兎との対決







 そう言えばペルル小隊と言う少女小隊の名称なんだが、鉱山砦に配属となり上司もロミー准尉になったことで変更になった。

 第一ワルキューレ小隊という名称になった。

 噂で流れていた名称そのままで採用された。

 

 そして新しくこの鉱山砦に配属になった少女小隊もそれにならって、第二ワルキューレ小隊という名称が付いた。

 エルッコ・タルヤ准尉に聞くと「うん、出来れば~、可愛いのがいいけどぉ、何でもいいよ」と返って来たので勝手に変えさせてもらった。


 そう言えばこの鉱山砦だが、二個小隊百人以上の兵士がいるのに士官がいない。

 士官見習いの准尉が二人だけだ。

 普通なら中尉以上の階級の士官がいるものなんだがな。

 まあ俺には関係ないか。


 それで早速だがこの辺りの土地勘を覚えてもらう為にも、新兵を率いて偵察兼お店の宣伝に行くことになった。


 取りあえずは必要な荷物をワゴン車に積んで、馬二頭で引かせて出かけた。

 目指すは建設中の砦、同行するのは第二ワルキューレ小隊の少女らとエルッコ・タルヤ准尉とその侍女。

 だけど一個小隊といっても新兵ばかり。

 さすがに新兵を連れて最前線地帯を行軍するのは心配だ。

 念の為、ラムラ伍長の分隊も同行している。


 というのも、実はラムラ分隊のルッツ村への移動は取りやめになったからだ。

 先日の戦いっぷりで、まだ前線での勤務続行可能と俺は判断した。


 それから例によって、アカサとメイケの両名が勇敢にも偵察志願してきたんだが、今回は苦汁を飲んで居残って貰おうと思ったんだが、急遽きゅうきょその趣向しゅこうが変わった。


 鉱山砦に新しく出来た酒場兼食堂の宣伝のためだ。

 この店を砦建築の作業員や兵士に利用してもらおうという考えだ。

 周りには店は一切ないし、店を開けるような安全な場所はこの鉱山砦しかない。

 となれば独占なんだが、店があることを認知されていなければ意味がない。

 そこで宣伝となった。


 メイケは性格さえ目をつぶれば、間違い無く鉱山砦での容姿ナンバーワンだ。


 アカサはというと雑貨屋で買ったらしい化粧道具で結構な仕上がりになった。

 それで連れて行く決断をした。

 まあ、俺判断なんだがな。

 男なんて若い女に弱い。

 化粧した少女を見せて『鉱山食堂』を宣伝すれば、きっと男共が押し寄せて来て、お店は大繁盛というロミー准尉の策略だ。


 しかし二人とも毎回志願するとは、頭が上がらないな。

 二人はお互いにライバル視しているようで、切磋琢磨せっさたくまして良い傾向だ。

 きっと良い兵士に育つはずだ。


 それとパシ・ニッカリがこの世から去って、少女らはつっかえていたものが取れた感じだ。

 中央部からはパシ・ニッカリについて何も言ってこないから、ロミー准尉は何のおおとがめなしとなりそうだ。

 何だかもみ消された感もある。


 お陰でラムラ伍長も元のラムラ伍長になりつつあり、これにはパシ・ニッカリを仕置きしてくれてた、ロミー准尉に感謝しなくてはいけない。

 今回の件で少女らのロミー准尉への評価は急上昇だった。



 *  *  *



「二列縦隊~!」


 第二ワルキューレ小隊の少女軍曹の掛け声のもと、新兵少女達がワタワタと隊列を組んでいく。

 もちろんラムラ分隊はとっくに整列完了している。


「ぜんたーい、進め!」


 二列縦隊の隊列を組み、六十名以上の少女ばかりの部隊の行軍が始まる。

 先頭には気力を大分取り戻したラムラ分隊と、化粧をしたアカサとメイケ、そして俺が位置する。


 中央には馬車を配置した。


 小隊長であるタルヤ准尉も当然のことながら同行している。

 鉱山砦の代表として、貴族はどうしても挨拶あいさつに必要だからだ。

 

 嫌がるタルヤ准尉を説得するのに大変だった。

 パシ・ニッカリが使っていた馬車を使う事で、渋々ながら了承りょうしょうを得た。


 だが出発して一時間もしないうちに「やっぱ帰るわ~」とか言い出す始末。

 こいつは人間としてダメだろ。


 なんとかなだめて行軍を進めていくと、最初の障害が小隊に立ち塞(ふさ)がる。


 先頭を行くラムラ分隊が何かを発見したようだ。


 『前方につの兎の群れがいます』とのこと。

 十匹ほどのつの兎が草を食べていて、それが道をふさいでいるという。


 これは新兵少女らのお手並み拝見かな。


 つの兎は魔物ではあるが低ランク魔物であり、作物を荒らす害獣でもあり、それでいてその肉は食用にも向いている。

 その為、人族にとっては狩りの対象でしかない。


「第二ワルキューレ小隊、二列横隊~。前列はひざ撃ち、後列は立ち撃ち用意!」


 小隊本部付きの少女軍曹が叫んだ。

 予想はしていたけど、タルヤ准尉はノータッチらしい。

 

「ボルトつがえ~~っ」


 横隊を組みクロスボウに各々がボルトをつがえる。

 少女兵らは周囲を確認しながら次の行動を取っている感じか。

 まあ、その手つきのたどたどしいこと。

 それに遅い!


つの兎に照準っ、全隊構え~っ――撃てっ!」


 そして一列目と二列目が一斉射撃。

 

 この時点で命中は恐らく四か五だ。

 ちょっとひどいな、まあ良い。

 それよりも発射速度が遅いのが問題だ。

 

 通常のクロスボウならば、一分間に二射出来るはずなのに、彼女らは二分で三射くらいじゃないだろうか。

 下手したらもっと遅いかもしれない。


 訓練が足りないな。

 

 一射した結果、つの兎を四匹射止めた。

 ボルトを五十本撃ち込んでこれだ。

 

 残りのつの兎は逃走かと思えば、果敢かかんにも少女らに向かって来た。

 その数役六匹。


 少女軍曹が慌てて指示を出す。


「あっ、さ、再装填っ!」


 どうなるかと見物していたんだが、当然のことながら新兵少女らのボルトのつがえる準備は遅い。

 よって第二射の準備は間に合わない。

 

 新兵少女らは何も出来ないまま、あっと言う間につの兎が隊列に突っ込んだ。

 

 キャーキャーと悲鳴が響き、逃げ惑う新兵少女達。

 少女軍曹も同じだった。


「やだっ、来ないでっ」


 つの兎でこれか。

 先が思いやられるな。


「ラムラ分隊、抜剣!」


 さて、ラムラ分隊がどこまで立ち直ったか見せてもらおうか。





 

 

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