第78話 捕虜の取り扱い






 戦場跡には沢山の戦利品が落ちていた。

 もちろん敵の物資や装備だ。


 人族武器や装備は品質が良いから高く売れる。

 それに沢山の食料と荷運び用の馬、加えてニッカリが使っていた二頭立ての小さな馬車。

 馬は貴重である。

 ワゴン車やカートと一緒に馬が手に入ったのは凄いことだ。

 

 さらにニッカリの所持品からヒールポーションも見つかった。

 そこまで高い品ではないが、少なくても俺達が使うものよりも高級品だ。


 それと多数の捕虜。

 敵兵の大多数が森の中へ逃げたんだが、気絶したり地面にうずくまっていた兵が何人もいた。


 貴族の捕虜の場合は身代金との交換で有意義なのだが、平民の捕虜なんてどうするんだか。

 戦時なんちゃらっていう条約だと、平民の捕虜の交換とかの取り決めはない。


 残念ながら俺達が確保した捕虜の全員が下士官以下の平民だ。

 ロミー准尉が平民の捕虜でも利用価値があるって言ってたけどな。


 と思っていたら「やつらは捕虜じゃないからね、野盗だからさ」とロミー准尉が言ってきた。


「どういうことですかね?」


「今回の戦いは正式なもんじゃないからね。人族同士での戦いはね、それ相応の理由を書いた書状を相手に叩きつけるのが貴族同士の習わしなんだよ。でもさ、今回はそれがないんだよね。だからね、今回の戦いは貴族同士が認知していない戦いになるんだよ」


「あの~、すみませんが、俺にも解かるように話してもらえますか?」


「ああ、そうだね。結論から言うとね、今回の戦いは“野盗が鉱山砦に攻めて来た”ってことになるのかな。これが公式見解でまかり通るよ」


「えっと……ということは。捕虜じゃなく、犯罪者集団を捕らえたってことですか?」


 俺の導き出した答えに「正解!」と返すロミー准尉。

 そしてさらに話を進める。


「だから犯罪者に対してはその土地の自治権にゆだねらられるってことね」


「それじゃあ、死罪ですか!」


「いやいや、ボルフ曹長。そこで死罪にしたら牢屋にぶち込んでいる意味がないでしょ。ここは鉱山砦で人手が足りてないんだよ?」


「働かせるんですか」


「そだね」


 そこでやっと捕虜の使い道を理解した。

 あ、捕虜じゃないか。

 犯罪者だから囚役しゅうえき者とか、囚人と呼んだ方が良いかな。


 数は三十人くらいだが、人族なら言葉も通じるからやってもらえることはたくさんある。

 

 そんな話をしていると、後ろから俺をつつく者がいる。

 誰かと振り返るとロー伍長だ。


「何か用か、ロー伍長」


 俺が平然とした態度で言うと、フェイ・ロー伍長は言葉を荒立てる。


「“何か用か”じゃないじゃろっ。貸した私の魔剣を返さぬか!」


 あ忘れてた!


「ああ、すまん、すまん。すっかり忘れていたよ。なんかこう、手に馴染むもんでな」


 そう言いつつも魔剣を返す。

 すると手放して感づいたことがある。

 左手の違和感が魔剣を持っていたら無くなっていたことに。

 ロー伍長に魔剣を返した途端に左手の違和感の感覚が戻ってきた。


 思わず「うわっ?」と声を出す。


「どうしたんじゃ?」


 とロー伍長。


「ああ、何でもない。ただその魔剣、凄いな……」


 とごまかす俺。


「これで私が爵位を捨てた訳がわかったじゃろう?」


 と聞いてくるが、何となく分かったような分からないような。

 魔剣を所持することが爵位を捨てるほどのことかと疑問に思うが、一応はうなずいてはおいた。


 それで鉱山砦に駆け付けようとした少女兵部隊なんだが、囚人に尋問したところ、お互いにほぼ同時に発見して戦闘になり、少女部隊はかなりの被害をだして撤退したという。


 それは本当だったようで、ペルル男爵から「援軍に出した少女部隊が襲われて退却して来た」という連絡があった。

 それによると戦死者八名、負傷二十名だという。

 物資を置いて退却したからこれで済んだらしい。

 全滅じゃなかったのは救いか。


 ただ、鉱山砦の少女らの怒りは、囚人となった元兵士らに向けられている。

 気を付けないと囚人に対してのリンチとかあるかもしれない。

 そこで少女らのリンチする姿を想像するが――リンチはなさそうだな。

 そのかわり陰険な手口を使いそう。


『三回まわってニャンと言うにゃっ』

『食事は没収にゃっ』

『これで十個アゲパン買って来るにゃっ』

 

 命に別状はなさそうだ。


 ああ、でもこうなったら後方からの物資輸送に結構な人員を省くことになる。

 また輸送途中に襲われたらたまらない。


 しかし物資の補充が送られてこないと鉱山運営が成り立たない。

 一応、新たな物資の輸送部隊を送る計画はしているらしい。

 ただ、三、四日は掛かるという。


「ああ、そうそう。聞き忘れるとこだったよ。ボルフ曹長は何でマンドレイクの叫び声を聞いても大丈夫なの?」


 ロミー准尉の質問だ。

 うーん、返答に困るな。


「ええっと、何でって言われてもですね。わかりませんよ。ただ、耐えられる程度ですかね、あれくらいは」


「魔物かっ?」


 嫌な突っ込みはやめてほしい。




  *  *  *




 それから一週間近く経ってからだった。

 補給物資と共に、新しい少女小隊がここ、鉱山砦に到着した。


 それからペルル男爵から新しい情報が入った。

 この鉱山砦の近くに新たに砦が築かれるらしい。


 近くと言っても歩くと半日くらいは掛かる距離だ。

 馬車なら半日で往復できる。

 これは俺達にとっては近い距離に入る。

 なんせ一番近い人族の所、つまりルッツ村まで馬車で二日近く掛かるからな。


 その砦はサンバー伯爵が築くということで、ペルル男爵にとっては懇意こんいにしているお貴族様なので、困ったことが合った時には助けを求められるからちょっと安心感がある。


 しかし何故こんな僻地へきちの何もないところに砦を築くのかというと、

それにはちゃんとした理由があった。

 この辺一帯の土地は魔素が濃い土を多く含んでいるとかで、作物が良く育つらしい。


 早い話、作物が魔物化することが多い。

 この鉱山砦ほどではないが、10本植えた内の一本ほどが魔物化する。

 それを刈り取れば食べられる量も多い。

 食料不足のこの状況の中で、魔物化してはいるが食べる所が多くなる作物は、危険を考慮しても利用価値は高いとみたらしい。


 そこで危険な土地ではあるが、城塞都市の建設を考えたそうだ。

 しかし城塞都市建設は時間が掛かる。

 ならば砦を築いて近くに村を作れば良いということになった。

 軌道に乗れば徐々にそれらを大きくすれば良いという訳だ。


 そうなるとこの砦も一気に景気が上がる。

 なんたって半日で来れる場所にここはあるのだ。

 それを利用しない手はないと、そう言ったのはロミー准尉。


 何をする気なんだろうか。


 




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