第70話 人族が敵に
数日が経つと早くも魔物植物から豆の収穫があった。
しかしデカい。
豆一粒が俺の
二粒も食べれば少女らはお腹一杯になる。
若干例外の野良ネコ娘もいるが、これで食料事情が一気に改善した。
ただ味が今一つなんだがな、残念。
そして早速、収穫した豆を柵に沿って埋めていき、あとは芽が出るのを待つだけとなった。
防御として使えるし食料は実るしで、我ながら中々良い考えだと思う。
だが、
「うにゃああっ、身動きできないにゃ。誰か助けてにゃぁっ」
おい、だから勝手に畑に入るなってのに!
絶対つまみ食いしようとしたよな?
こうして我々鉱山砦は順調に防備を固めていった。
特に大きな戦いも起こらず、せいぜい小規模の偵察部隊が近隣に現れたくらいだ。
軽い接触戦闘はあったものの、お互いに負傷兵もでずに終わっている。
こっちもそうだが、敵も戦闘は避けている感じだ。
魔石鉱山の調子も良く資金に余裕が出来て、見張り台の四か所に小型バリスタも設置した。
その他に台車に設置して移動できるようにした小型バリスタも手に入れた。
これで大型魔物にも対抗できる。
気が付けば、たった一個小隊とゴブリン捕虜だけのこの鉱山砦だが、堅強な砦へと変貌していた……と思う、いや、そう信じたい。
ゴブリンの捕虜も初めは警戒していたんだが、思った以上に従順だったのは驚いた。
もっと反抗的かと思えば、そんな事は全くなかった。
士官クラスがいるとまた全然違うらしいが、ここにいる捕虜の中には士官クラスはいない。
そんなある日、偵察に出ていた部隊が変な動きをする味方部隊を見つけたと報告があった。
部隊旗も掲げずに森を移動する約一個小隊の歩兵だ。
その小隊はバリスタを二基運んでいたという。
さらにその小隊の中に、パシ・ニッカリ士爵がいたのも確認したという。
あまりにも怪しすぎる。
この砦に攻撃を仕掛けて来るつもりじゃないかと少女らは心配そうだ。
だが攻撃を仕掛けて来るにしては兵士の数が少なすぎる。
バリスタ二基ぐらいじゃ脅しにもならん。
もしかしてバリスタだけ先に運んでおいて、後から別動隊が来るっていうことか。
もしくは小部隊でバラバラに動いているのか。
どっちにしろ、ただ事じゃないな。
「ロー伍長、分隊長全員を会議室に集めろ。緊急会議をする」
現状把握と想定できる事態に対処するための会議だ。
一応皆の意見も聞きたい。
だが、皆の意見はほぼ同じだった。
戦闘に備えようと。
怪しい行動をしているなら、それが魔族だろうが人族だろうが戦う準備はしておこうと。
ここは私達の土地、絶対に守り抜くんだと。
戦う気満々だ。
だが彼女らの気持ちも解からんではない。
ここは苦楽を共にした小隊の仲間との地だ。
このボロボロだった砦を再生し、駐屯地として宿舎も作り畑も作った。
ここでは俺の方針もあってか、少女らは結構自由に生活している。
街からは遠く離れ、貴族と平民のしがらみもない。
彼女らにとっては楽園なのかもしれない。
守るべき場所があって守るべき友がいる。
良いじゃないか。
理想郷じゃないか。
そんな場所が怪しい奴らに脅かされているんだ。
そりゃあ、追っ払いたくもなるよな。
俺も同じ気持ちだ。
「よし、分かった。皆の意見は理解した。だが一応だがな、下士官以外の兵卒らの意見も聞かないといけないからな。ここにいる全員とは違う意見の者もいるかもしれないからな。下手したら戦闘になるからな」
そこまで説明したところで会議室の扉の外から声が聞こえた。
『ダメ、ダメだって。押さないで、押さないで!』
声が聞こえたと思ったら扉が開き、ドサドサっという具合に少女らが室内へと倒れ込んできた。
「おい、貴様ら、何してる!」
俺は立ち上がって怒鳴りつけた。
そこには十数人の少女らが廊下まで一杯にいるのが見えた。
聞いてやがったのか。
さらに窓の外からも顔を
そして部屋に倒れ込んだ少女らの一人が口を開く。
アカサだ。
その後ろにはこっそりとメイケの姿も見える。
「すいません、ずっと聞いてました……でも、ここにいる皆と私達も同じ意見です。この場所、それと仲間を守るためなら戦います。それが、その相手が“人”であってもです」
そうなのだ、場合によっては味方の部隊と闘う事になる。
そうなれば敵は魔族ではなく“人族”となる。
他の少女達からも声が上がる。
「そうよ、ここは私達の家よ!」
「絶対に踏み込ませないわよ」
「パシリなんか
パシ・ニッカリの
心配なのは人族と対峙したときに、クロスボウの引き金を引けるのかということ。
人間相手に剣を振り下ろせるのかということ。
彼女らは今までに魔族や魔物とは幾度となく戦ってきたが、人間相手の戦いはない。
今まで過酷な戦いを経験して来たといえども、相手が人族となると話は別だ。
せめて今までに野盗くらいと戦闘があったならば違っていたんだが、それさえない連中だ。
相手側の兵士も同じだろうが、男兵士には歴戦の
まともにやって勝てるとは思えない。
こっちはクロスボウ兵ばかりの兵科だから、接近戦では勝ち目がないだろう。
せめて砦の外での遠距離戦で終わってくれれば良いんだが。
「お前らの意気込みは良くわかった。さて、それじゃあな、この中で人間相手に命のやり取りをしたことがある者、いたら手を挙げてくれるか」
誰も居ない。
いや、背が低くて見えなかったが、幼女が手を挙げている。
こいつ、人を
フェイ・ロー伍長は手を挙げながら、もう片方の手で剣を握りしめている。
ああ、あの魔剣に魂を吸わせたってことか。
一個小隊、五十人の兵士の中にたった一人だけだ。
俺を入れて二人か。
それ以外はいざ戦闘となったら二の足を踏むだろう。
プレッシャーが魔物の比ではないということ。
急に黙り込む少女達。
そこで沈黙を破る声が室内に響いた。
「はーい、はーい、私も人を斬ったことあるよ~。三人だけどね」
全員が声の主の方へ視線を移す。
そこには外から窓を
あっけらかんと三人斬ったと申告している。
こういう性格なんだろうけど、一切悪びれた様子もなく人を斬ったと言い切れるこの少女。
こういう性格の人物が一番恐ろしい。
やっぱり不良士官だった。
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