第69話 鉱山畑






 声がしたのは畑の方からだが、背丈が人の倍以上ある野菜で、叫んだ声の主が見えやしない。


 取りあえず畑の中へと分け入って見ると、そこには野菜のつるに捕まった少女が宙づり状態でぶら下がっていた。

 少女の身体にはつるがグルグル巻き。


 近づいて行くと少女は俺の存在に気が付いたようだ。


「あっ、ボルフ隊長~。助けてください~」


「誰かと思えばアカサじゃねえか。また新しい遊びを覚えやがって。遊んでないで、ちゃんと仕事しろ」


 つるに巻き付かれていたのはアカサだった。


「遊んでるんじゃないです~。食べられちゃう、見てないで早く助けてくださいよっ」


 必死のところを見ると、本当に捕まっているようだ。

 ということはこの植物、魔物ってことになる。


 よく見れば花の所に消化器官が見える。

 あそこに捕らえた獲物を持って行って養分を吸い取るんだろう。


「なあアカサ、これの種はどこから持って来たんだ?」


「そんな質疑応答してる場合じゃないですって。死んじゃうから、食べられちゃうからっ!」


「しかし、なんともエロ――」


「腕組んで見てないで、は・や・く・た・す・け・ろっ!」


「そうか、それじゃあちょっと待ってろ。今からつるを切るからな」


 俺は手斧を取り出して、つるを叩き切っていく。

 数本のつるを切ったところで、アカサがドスンと音を立てて地面に落ちた。


「痛たたたた。お尻打った……」


 俺はアカサの怪我の心配よりも、魔物の発生のほうが心配だ。

 なぜこんなところで突然魔物植物が発生したのかという事。


 地面を手でいじりながらふと思った。


「この土って、鉱山の土だよな……」


「もう、ボルフ隊長、私の心配してくださいよ!」


 そこでやっとアカサの声を聞いた少女らが数人、この場所を見つけて集まって来た。


 この畑はちょっとしたジャングルみたいになっている。

 中に入ったら見つけるのも大変みたいだ。

 そうはいっても範囲は十メートル四方しかないが、その一角だけがジャングルだ。


「どうしたの、アカサ?」

「ちょっと何があったのよ」


 ここにいる少女は畑が担当みたいで、実家が畑関係の仕事だった少女達だ。

 アカサも農家の娘だったはずだ。


「なあ皆、この土を見てくれ。ちょっと変じゃないか?」


 少女らが俺の言葉に土をいじり始める。


「かなり良い土、だと思うんですけど……」


 一人の少女がそう答えた。


 畑に関しては俺はよく解からん。

 だから良い土かどうかも解からん。

 しかしだ。

 土に魔力が入っているかくらいは判断できる。

 ここの土には魔力がこもっている。

 考えられる事は魔石鉱山だ。


「この土は魔力を帯びているみたいだ。考えられるのはここが魔石鉱山の上だってことだ。推測でしかないが、魔石からにじみ出た魔力が土に移ったのかもしれないな」


 アカサが尻をさすりながら起き上がって言った。


「つまりこの植物は全部、魔物ってこと?」


「ああ、そう言う事だ」


「ええ~、それじゃあ食べられないってこと~。お豆が食べられるはずだったのに~」


「いいや、恐らく食べられる。魔物といっても多少狂暴になっただけのただの野菜だ」


 俺は戦場でこのたぐいの植物魔物をよく食べたが、普通の野菜の味だったからな。


「え、食べられるなら、逆に魔物化して量が増えてラッキーじゃない?」


「そうなるな、気を付けないといけないのが、安全な種類の魔物とそうでない魔物がいるってことだ。植える植物に気を付けないと大変なことになるぞ」


「そっか。新しい野菜を育てる時は実験が必要だね。あ、そういえば、サリダンの熱烈な希望でジンニンも育ててるんだけど……」


 ああ、あのオレンジ色の根っこの根菜だな。

 人族の子供の不人気ナンバーワン野菜だ。

 馬とかうさぎが良く食べるあの野菜だな。


 確認のため見に行って見ると、特に巨大化はしていない。

 一見、普通の野菜っぽい。


 だが、よくよく見るとなんか違和感を感じる。


 近くまで寄ってしゃがんでジーっと観察していると、微妙に動く気配がする。

 いや、実際に地中部分でモゾモゾ動いている。


「なんか動いてるっぽい気がしないか?」


「ええっ、うっそー、そんな訳ないじゃん……」

「あ、ほんとだ。今ちょっと動いたよ」

「え〜、まじで〜」


 俺はおもむろに葉っぱの部分をつかんで引っこ抜いた。


『ギャアアアアア~~ッ!』


 するとジンニンが突然、叫び声を上げ始めた。

 それはそれは不快な声で。

 根っこの部分が人型をしていて、それが叫び声を上げて、足らしい部位をバタバタしている。


 気が狂いそうなほどに精神を病む声。

 

 「くそ、マンドレイクか!!」


 俺は慌ててそれを投げ捨てた。


 砦中では今のマンドレイクの叫び声で少女らが大騒ぎだ。

 一緒にいた少女三人は気を失っているし。


 投げ捨てたマンドレイクはというと、自力で畑の土の中へと葉っぱだけ残して潜り込んだ。

 そして何事も無かったかのようにしている。


 これはヤバイもんが育っちまったな。

 でも金にはなりそうだ。


 マンドレイクは各種ポーションの材料になるって聞いたことがある。

 ただし毒系統のポーションだが。


 取りあえず気絶した三人を起こし、武器を持って集まって来た少女らにも説明する。

 鉱山の上で育てると魔物化する事。

 今ある野菜がどんな魔物に変化しているのか。

 それに関しての注意点などだ。


 後ほど特に分隊長や下士官クラスの少女兵には、厳重に注意監視するように伝えた。


 そう言えば元は豆の植物だって言ってたな。

 ならば豆が収穫できたら柵に合わせて豆を埋めていけば、植物系魔物の防御柵ができあがる。

 これは我ながら良い案だろう。

 魔物壁が出来上がれば、防御力が一気に上がる。

 しかも食べられる!


 これは色々実験も必要だな。







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