第67話 新任少女士官
ペルル男爵からの連絡で新しい指揮官が来ることが伝えられ、砦では急ピッチで指揮官迎え入れの準備が進められていた。
簡単に言えば掃除だ。
指揮官用の部屋は空き部屋として、皆の荷物置き場と化していた。
それで大慌てで片付けているという訳だ。
ルッツ村から一日半から二日で来れる道のりなんだが、三日経っても来ない。
これは魔族に襲われたか、魔物に遭遇したか、何かトラブルがあったかもしれない。
それはマズい。
「よし、捜索隊を編成するぞ」
そう俺が指示を出そうとした時、「行軍が近づいてきます」との報告があった。
旗印は『ペルル家の紋章』だ。
四日目にしてやっとの到着だった。
貴族相手にはやはりフェイ・ロー伍長が必要だ。
俺はロー伍長と一緒に正面門で、新しく配属された指揮官を迎えた。
門が開くと貴族仕様の二頭だての馬車と護衛の兵士が十人ほど、そしてロバに引かれたカートが一両、行列をなして門から入って来た。
驚いたことに護衛の兵士全員が少女だ。
これがペルル男爵の手紙にあった、新しく守備隊として迎え入れた新兵少女なんだろう。
この一団の中で男は唯一、御者だけだ。
ただし老人だ。
砦の中へと入ると馬車は止まり、中から一人の女性が出て来た。
フェイ・ロー伍長が頭を下げたので、俺もそれにならって頭を下げる。
「ああ、お尻が痛い。これはないわー。長時間は無理だわ~」
尻をさすりながら出て来たのは、どう見ても十代半ばくらいの少女。
ここにいる少女らと年齢はあまり変わらないだろう。
サイドポニーにしたちょっと生意気そうな少女だ。
そして一緒に馬車から出て来たのは侍女らしきお付きの人。
そしてこれまた同じくらいの年齢の少女だった。
ロー伍長が俺を
ああ、
「ええ~っと、長旅お疲れ様です。始めまして、俺――自分はここの守備隊の隊長代理をしていました、ボルフ曹長といいます。それからこっちが――」
おれが紹介しようとしたら、フェイ・ロー伍長が自ら自己紹介してくれた。
さすが元伯爵令嬢、助かるな。
「ペルル小隊の本部兵のフェイ・ロー伍長なのじゃ」
「はいはい、聞いてるよ。ボルフ曹長とロー伍長ね。私はロミー・ペルルよ。ペルル男爵家の三女だけど爵位は持ってないの。貴族出身なんで一応は士爵ってことになるけどね。でもね、そんなに固くならなくてもいいよ。気軽にいこうよ」
言葉遣いが平民っぽい。
なにより軽いというか、チャラい。
一応は女性士官用の軍服を着用してはいるのだが、なんかこう、だらしなく着ている感じがする。
まるで不良兵士、いや不良女学生みたいだ。
少尉ではなく准尉の階級章を付けているんだが、これもちょっと変だ。
入隊してから半年経つと聞いているが、士官学校は卒業しているはず。
ならば通常は少尉での任官だ。
それが何故か士官見習いの准尉の階級を付けている。
考えられることは士官学校でか、もしくは配属先で『何かやらかした』ってことだ。
そうか、こいつは問題児なんだな、きっと。
まあそこは聞けないがな。
「なあ、ペルル准尉。質問しても良いかのう」
突然のフェイ・ロー伍長からの質問だ。
「うん、いいけどさ、ロミーで頼むよ。ペルルだと兄貴と
「分かったのじゃ。それじゃあロミー准尉、なんで階級が少尉じゃないのじゃ」
うえっ、こいつストレートに聞きやがった!
うわああ、俺まで気まずいじゃねえか。
聞いてんじゃねえよ。
しかしロミー准尉はためらう素振りも見せずに、自分の階級章を指さしながら返答した。
「ああ、これね。士官学校でも問題児扱いされてたんだけどさあ、最初の配属先でね、ちょっとやらかしたんだよね」
「ん? やらかしたとは、何をしたのじゃ」
うわ、さらに聞くのかよ!
「上官を殴っちゃったんだよね、グーで。それも子爵の男大尉をね~。そしたら色々とあってさ、降格。なんか仲介とかでサンバー伯爵まで出て来ちゃってさ、大変だったんだよね~。そんな時にね、丁度ここの砦の話があってさ。まあルッツ兄に助けられたといっても良いのかな」
「なかなかやるのお、貴官は」
「でもここには上官がいないみたいだからね。自由に出来そうで私向きかも~、ははは」
フェイ・ロー伍長は感心しているんだが、俺は警戒でしかないぞ。
こいつは何かやらかしそうだ。
だけどお付きの侍女っぽい少女も苦労してそうだな。
軍服は着ていないから、個人的な世話係なんだろうか。
となると、この砦で唯一の民間人になる。
取りあえず部屋に案内する。
「マクロン伍長、ロミー准尉を部屋へ案内してくれ」
ロミー准尉は部屋へ向かう途中、思い出したように降り返って俺に向かって口を開く。
「ああ、そうだ。ボルフ曹長、私は戦いに関しては良く分からないから、ここの指揮は任せるんでよろしく!」
そう言って、二本指をこめかみに当てて敬礼の様な仕草をして行ってしまった。
なんだよ、結局は俺が小隊を見るのか。
それにこの分だと砦に関しても何もしてくれそうにない。
俺の仕事は減らなそうだな、これは。
そこでペルル男爵から届けられた『鉱山砦の指揮官を命じる』という辞令書を
思い出す。
この妹だから
士官である妹はお飾りか。
書類上は俺が指揮官になっているが、
だから一見、普通の指揮系統に見える。
上手い事考えたな。
確かにお貴族様がいないと厄介な事が起きたら大変だからな。
特に、ここ鉱山砦に目を付けている貴族が居るらしいから余計にだ。
なんか納得出来たような出来ないような……
だけどよく考えたらペルル中尉の時も俺が仕切ってたよな。
なら変わらないか。
それなら今まで通りやって行くか。
そう思ってた矢先、アーポ・アルホ子爵の
ペルル男爵が警戒しろと言っていた貴族の名だ。
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