第66話 鉱山からの恵み






 ここ鉱山砦の名称は、兵士らが普段から呼んでいる『鉱山砦』がそのまま正式名称となった。

 そしてその砦の指揮官が俺だ。

 はっきり言ってペルル男爵が何を考えているのか解からん。

 平民で曹長の階級で指揮官っておかしいだろ。


 しかしこれは正式文書で辞令が下ったから冗談ではないようだ。

 とは言え、いつもとやることは変わらない。

 それにペルル男爵はここのお貴族様の指揮官を探しているって言うし、見つかるまでの辛抱だ。


 だけど何だな。

 今の俺の恰好だが、血が染みついたボロボロの革鎧に年季の入った特注の剣を持ち、そして腰には敵から奪った手斧が差してある。

 これに加えて時々大型のクロスボウを背負うこともある。

 どこから見ても盗賊か敗走兵だ。


 そろそろ新しいのに買い替えるかな。

 なんだか外見も気にするようになってしまった。

 こんな辺境の地へ誰が訪れるって訳でもないから、こんな格好でも問題ないとは思うが、ちょっとだけ気になり始めた。


 そのキッカケというのが少女らの言葉だ。


 マクロン伍長が俺に言ってきた。


「ボルフ曹長、ここの指揮官なんですから、少しはまともな恰好してくださいよ~。何で血の跡がこびり付いた鎧なんですか」


「いやな、戦いに次ぐ戦いで手入れする暇なんてなかったんだよ」


 俺の言い訳にフェイ・ロー伍長が反論。


「そんな言い訳をするか。良く思い出して見るのじゃ、平時から汚い恰好のままで過ごしている指揮官を見たことがあるのか?」


 うう、正論できたか。


「そ、そうなんだけどさ。俺をお貴族様と一緒にしないでくれ。だいたい指揮官って言っても小隊長だからな」


「小隊長ならそんな汚い恰好の者がおるのか。それに結構な昇格手当を貰えたんじゃろ?」


「ううむ、言い返せない……」


「それ見ろ、早く新しい鎧と服を買うのじゃ。士気にかかわるのじゃ。部下は上司を見て成長するのじゃからな」


 グウのも出ない。


「あ、でも買いに行く時間がないからな」


「なんだ、そんな事じゃったか。ならば、ここで採寸すれば良かろう。受注作成じゃよ」


 それは高い買い物になるやつだ。

 ダメなやつだ。


 何故か少女らが集まって来た。


「ダメですよ、ちゃんと綺麗な恰好しなくちゃ」

「ボルフ曹長、私達の指揮官がそれじゃ恥ずかしいじゃないですか」

「大人しく金を出せばよいにゃ」


 カツアゲと勘違いしてるドラネコが約一匹!


 ってゆうか、ミイニャ伍長も下士官なのにまだ鎧を購入してないんだよな。

 サリサ兵長はやっとサイズの手直しが終わって届くのが待ち遠しいって言ってな。

 鎧を着てないのは下士官でミイニャ伍長だけだ。


「おい、ミイニャ伍長、人の事言ってないで自分の鎧はどうしたんだ?」


 俺が反論した途端、少女らが一斉に俺を睨んで……


「「「話をらさないでください!」」」


 これだから女は怖い。


 

  *  *  *



 砦の再構築は順調に進んでいた。

 砦内部は新たな捕虜用の宿舎や兵士用の食堂や、いずれ来るであろう士官の個室が出来上がっている。

 それに鉱山脇の斜面に若干の畑も作り、そこには食用野菜を数種類ほど植えて、今じゃ芽が出始めている。

 

 特に予想外だったのが、魔石鉱山から思った以上に魔石が採れたことだろうか。

 これにより相当な利益も得ているようで、これで運営資金は問題ないとペルル男爵は大喜びだ。

 これでペルル家も大きな顔をできると、感謝の手紙まで送られてきた。


 それと金回りが良くなったせいか、伝書カラスが二匹も常駐するようになった。

 ルッツ村のペルル男爵とこの鉱山を繋ぐ連絡用だ。

 これを使えば一日で手紙が届く。

 

 そして俺が注文していた革鎧が遂に届いた。


 注文した鎧はお貴族様が着用するような“見せる”ものではない。

 あくまでも実用性に特化した品だから装飾はなく、地味に見えるかもしれない。

 だが特注だけあって、俺の我がまま満載の仕様になっている。


 ついでに魔石を埋め込んで、魔法の効果速度を上げている。


 全財産をつぎ込んだのだ。

 それがやっと届いた。


 それと同じ荷馬車でミイニャ伍長の革鎧も届いている。

 中古だが、逆にそれが強者っぽく見せている。


 ミイニャ伍長とお互いに新しい鎧を見せ合ってる時だった。


「ボルフ隊長、伝書カラスが来ていますよ」


 そういう連絡が入った。


 何かと思って早速中身を見てみると、ペルル男爵からの手紙に恐ろしい事が書かれていた。


 その内容というのが大きく分けて二つあり、一つ目は指揮官が見つかったってこと。

 しかしその指揮官というのが、ペルル男爵の妹でつまり女であった。

 入隊して半年ほどだが、後方での補給部隊にいたそうで、なんとか説得して呼び寄せたとか。


 そう、またしても女だった。


 それに最前線での女性士官は初めてじゃないのか。

 そもそも戦闘部隊の女性士官なんて、長い軍生活している俺でさえ聞いたことが無い。


 大丈夫なのか?

 そのペルル男爵の妹がその内こちらに到着するということだ。


 それから二つ目の手紙の内容だが、鉱山から魔石が豊富に採れたというのが原因なんだろう。

 鉱山砦の利権を狙う貴族が現れたらしい。

 利権と言われても俺には良くわからんが、この鉱山砦を奪おうとしているってことは理解した。


 その内、鉱山に直接何か手出しをしてくるだろうという警告だ。


 魔族が相手ならまだしも、人族でお貴族様ってのは非常に困る。

 武力で押し返せない相手じゃ、俺はお手上げなんだがな。





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