第63話 鼓笛隊が奏でる音楽







 ガルグは両手で戦斧を振り上げた状態でなお、背筋を伸ばしさらに戦斧の高さを増す。


 ガルグもこれで勝負を付けようというつもりらしい。


 だがその長いモーションは命取りだ。


 俺は腰をひねる。

 すると腰に激痛が走る。


 俺の腰の中にはまだやじりが残っているからだ。

 ある一定の方向に腰を向けると激痛が走る。

 その激痛は咆哮ほうこうによる委縮いしゅく状態を解くには十分だった。

 

 委縮いしゅくから解放された俺は、最後の印を片手で組む。

 そしてマジックアローの劣化版のシャドウアローの魔法が槍に対して発動した。


 ガルグが驚いた表情で赤い眼光をカッと見開く。

 両手は上段に構えているから胸元がガラ空きだ。


 そこへ俺は手に持った槍を勢い付けて、投げる様に突き刺した。


「これで終わりだっ!」


 もちろん胸のど真ん中へだ。


 ガルグの胸に突き刺さった槍は、刺さった途端とたんに魔法の効果が表れる。


 一瞬槍が三本に増えるが、それも直ぐに粉が舞うように消えていく。


 そしてガルグの胸からは鮮血があふれ出した。


 戦斧を空高く振り上げたまま、自分の胸に刺さる槍を見つめるミノタウロスのガルグ。


 そして俺に視線を移すと、そのままゆっくりと仰向けに崩れていった。


 ズズーンと地響きを立てて倒れてもなお、胸は上下している。

 まだ息はあるようだ。

 だがその胸の上下に合わせる様に口から血が噴き出している。


 恐らくこいつの命の火も時間の問題だ。


 俺は一応警戒しながらガルグの横に立つ。


 するとガルグが通訳のゴブリンを呼びよせた。

 何か言いたいことがあるようだな。

 ゴブリンが通訳を始める。


「オマエ、ツヨイ、ガルグサマ、マケ、イッテル」


 どうやら負けを認めるらしい。


「ならば約束通りにここから立ち去るように仲間に伝えろ」


 すると俺の言葉に対してガルグは嫌な笑みを見せる。

 その答えをゴブリンが訳す。


「ガルグサマ、イッテル。マケル、ワレ、カエル、イッタ。ナカマ、シラナイ」


 何言ってやがる、こいつは!

 ミノタウロスもホブゴブリンもお前の手下だろうが。

 そう思って俺は文句を言おうとしたんだが、後方のガルグの配下の部隊を見て言葉を飲み込んだ。


 すでに戦闘の準備をしていやがる。


 もう何を言っても聞かない雰囲気だ。

 ガルグの復讐どうのこうのよりも、こいつらは戦いたがっている。

 

 だけどある意味俺と同類のような気がする。

 戦いの中でのみ、自分の生を感じる者たち。

 特にミノタウロスの戦士達、あいつらは間違いなくそういったたぐいだ。


 そうなると砦の五十人ちょっとで、ホブゴブリン二十匹とミノタウロス十匹、それにおまけでゴブリン奴隷が数十匹。

 こいつらを相手に戦わなければいけないのか。


 戦闘の準備が出来たのか、奴らは隊列を組み、こちらに向かって前進を始めた。

 

 俺の足元でガルグが笑いながら死んでいった。


 普通は大将やられたら退却だろ!


 こうなったら砦に取り付かれる前に俺がここで叩き斬る。

 俺は覚悟を決めて剣を引き抜いて構える。


 砦の方も状況が分かったようで騒いでいる。


 少女らが何か叫んでいるが、俺の耳にはもう入らない。

 目の前の敵に集中する。


 今の俺には守らなければいけないものがあるんだ。

 ここから先には行かせない!


 ミノタウロス十匹が目の前に迫って来た。

 全員が両手持ちの戦斧をたずさえている。


 さすがにミノタウロス十匹は迫力がある。


「さてと、ちょっと遊ぼうか――」


 その時、モリの奥から鼓笛隊こてきたいの音楽が聞こえてきた。

 それも聞き覚えのある音楽だ。

 

 敵が一斉にその音のする方を見る。


 俺も同じように視線を移した。


 次の瞬間、鉱山砦の方から大歓声が上がった。


「味方の増援部隊が来たぞー!」

「やった、助かったぞ!」

「奴らを蹴散けちらしてくれっ」


 味方の増援部隊が到着したのだ。


 それを見た敵部隊だが、それでもひるまない。


 だが矛先を鉱山砦ではなく、味方の増援部隊に向け前進し始めた。


 味方の増援部隊の中から突如、騎馬隊が飛び出した。

 その数は十二騎。


 貴重な騎馬隊なのに、それを十二騎も連れて来たのがまず驚く。

 それに歩兵部隊も一個中隊はいるか。

 馬車も多数引き連れている。


 本格的な部隊でお出ましだ。

 『魔石鉱山』のキーワードは効果抜群だったわけだ。

 ま、宝の山だから当然か。

 実際は枯れ鉱山なんだがな。


 十二騎の騎馬隊が敵部隊へ突撃していく。

 するとミノタウロスが前面に出てそれを迎え撃つらしい。


 だが、ミノタウロスの隊列が突如乱れ始めた。


 クロスボウの一斉射撃だ。

 ボルトがミノタウロスに次々に突き刺さっていく。


 馬車の荷台にクロスボウ部隊がいるらしい。


 そのでミノタウロスの雄叫びや味方の歓声で騒がしい中、聞き覚えのある声がハッキリと俺の耳に聞こえた。


「ボルフ曹長~~、味方を連れて来たにゃ~~!」


 ミイニャ伍長の声だ。

 味方の隊列の先頭の使役魔物がカートを引いている。

 そのカートに乗って手を振っているのが見えた。

 

 ああ、我が隊の使役魔物のカブトムシだ。

 名前は忘れた……


 



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