第56話 奴隷兵
メイケとアカサに近づき作戦を伝える。
「いいか、良く聞け。俺が敵陣へ忍び込んで投石機一基ずつに細工していく。お前たちはここで待機していろ。俺が見つかったらクロスボウで二回射撃したらあっちへ走れ。俺の方へは来るなよ。落ち合う場所は来る途中にあった岩のところだ、いいな?」
するとアカサが「でも……」と何か言いかけるが、俺が「俺の命令は絶対だよな」の一言で黙ってしまう。
付いてくる時に俺が出した条件だ。
何か言いたそうな二人だったが、渋々だが首を縦に振った。
接近戦になったら多分こいつらはまともに戦えない。
だったら俺が敵を引き付けた方が上手くいく。
二人を守りながら多勢と闘うなんて無理だ。
これはあくまでも見つかったらの場合だ。
もちろん、見つからない様にはするつもりだ。
敵情を観察すると十基ある投石機の内、すでに半分は設置が完了している。
中々に早い作業だな。
それもそのはずで、設置作業にはホブゴブリンが使われていた。
人族の背丈とあまり変わらないのに筋力は人族よりも大きく上回るから、そりゃゴブリンなんかよりも仕事は早い。
全部で二十匹はいる。
だが、そのホブゴブリンの全部の足には
つまり奴隷か。
もしかして罪人なのかもしれないが、どっちにしろ一緒だ。
あれなら武器を持たせての戦闘には参加させないとは思う。
せいぜいこういった土木作業や投石用の石運びとかだろう。
それなら脅威とならない。
少し安心した。
そのホブゴブリンの周囲にはそれを見張るゴブリン兵が十匹ほど。
それに十匹ほどのゴブリンの工兵もいる。
こう見ると近寄れるのか不安になる。
近寄った途端に見つかるのではと心配になる。
だがここまで来たんだからやるしかない。
覚悟を決めて俺は「行ってくる」と言って二人と別れた。
かなり接近しているが、雨音のおかげで音が聞こえず気づかれない。
これは好都合だ。
ただ、地面の
まずは最初の一基目だ。
見張りがいないのを期待したがそれは甘かった。
くそ、ちゃんと見張りを置いてやがる。
と思ったら
その
奴隷に見張りをやらせているようだ。
こいつらも兵隊不足みたいだな。
取りあえず兵として最低限使える奴らを連れて来たってところか。
だから直ぐに攻めてこなかったのか。
となるとかなりの奴隷兵士がいるかもしれないな。
だがこいつら奴隷兵士には一斉の武器を持たせていないようだ。
本当に見張りだけの為の奴隷兵なのだな。
これは出来るか分からないが交渉してみるか。
俺は静かに近づき、ゴブリンの奴隷兵3匹のいる足元へと小石を投げる。
すると座り込んでいた三匹が一斉に立ち上がりこちらを見た。
俺を見た途端に叫び声を上げそうになるが、それは直ぐにやめた。
俺が口に人差し指で声を出すなと伝えたからだ。
一瞬キョトンとするゴブリン奴隷兵三匹だが、俺が手ぶり身振りで足枷を剣で叩き割ると伝えれば、三匹はお互い少し話し込み始める。
お、これはいけるかもしれないな。
ま、ダメだったら突撃するが。
しばらくして一匹のゴブリンが“来い”と手招きする。
どうやら交渉成立のようだ。
俺は姿勢を低くしたままゴブリン奴隷兵に近づく。
奴らは声は上げない、大丈夫なようだ。
まあ、声を上げれば斬られるってことくらいは分かってるんだろう。
近づくと早速ゴブリン奴隷兵の
音で敵に気が付かれるかと心配したが、投石機の設置音と雨音がかき消してくれた。
なんだ、礼の言葉も無しか。
ああ、そうか、人族の常識で考えちゃいけなかったか。
そして最後に一匹だけは直ぐに解放せずに腕を掴み、俺は隣の投石機のゴブリン奴隷兵を指さす。
あっちのゴブリン奴隷兵も開放するから話を通せってことだ。
通じたようで、渋々ながらも隣のゴブリンにも話し掛けた。
もちろんあっさりと交渉成立。
俺は誰も居なくなった投石機を組んでいる柱のロープに、次々に短剣で切れ込みを入れていく。
四基目にも細工をしたところで、森が騒がしくなる。
笛の音が響いている。
くそ、バレたか!
森の中から「ギギャー!」と悲鳴が聞こえた。
奴隷ゴブリンが森の見張り兵に見つかったのか?
そうなると、投石機の確認の為にここに来るってことだ。
少しすると森のあちこちから笛の音が聞こえ始める。
ヤバい雰囲気になってきたな。
これは強行手段で脱出するか。
俺が走りだそうと森の方へと視線を移す。
その途端、俺は身体が硬直した。
少女が二人、こちらへと歩いてくる姿が映ったからだ。
一人は怪我をしているのか、もう一人の少女に肩を借りながら、必死にこちらに向かって来る。
走っているんだろうが、それは歩いているのと変わらない速度。
怪我をしている?
よく見れば肩を借りている少女の背中に矢が刺さっている。
「アカサ、メイケっ!!」
俺は敵の目も気にせず走りだした。
すると森から、そして敵陣地からも矢が飛んでくる。
俺の肩を矢が当たるも革鎧で弾く。
俺の太ももへ矢が
腰辺りに矢が刺さるのを感じる。
こんなのかすり傷。
あともう少し。
見えてきた。
矢が刺さっているのはアカサ。
またアカサだ。
肩を貸しているのはメイケだった。
メイケが必死の形相でアカサを引っ張っている。
味方の砦方向でなく、俺の方へと向かって来る。
あと数メートル。
もう目の前。
俺は二人を抱き止めた。
だがアカサは俺の胸の中で苦しそうな表情で笑って見せた。
そしてアカサが俺に何か言おうと口を開きかけた時。
森の方から射られた矢が、アカサの背中にトスンと音を立てて突き刺さった。
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