第50話 ケーブスパイダー
バリスタを
そもそもゴブリン軍がバリスタを使う事が珍しい。
ゴブリン製の大型投石機は良く目にするが、槍も石も飛ばせる投射兵器はほとんど見ない。
ということは奴らの新兵器かと思ったら、良く見れば人族製のバリスタに
いや、違うな。そのまんま人族製のバリスタだ。
人族から奪ったんだろうか。
だがそうなると危険だ。
人族製のバリスタならば性能が高いはずだ。
それにあの茶色のスパイダー系の魔物。
確かケーブスパイダーとか言ったかと思う。
洞穴の棲む
単体ではそれほど強くはないが、すばしっこい。
毒牙を持っているが噛まれなければどうということはない。
バリスタだけ気を付ければなんとかなりそうか。
毒牙と同じ考えで言えば、バリスタも当たらなければどうということはない。
後方から誰かが大声で話し掛けてくる。
声からしてエリク軍曹だろう。
あの魔物は無理だから下がって来いと言っているようだ。
だが放って置いたら最終陣地をあのバリスタで遠距離から壊されてしまう。
そんな事はさせない。
二匹というのが厄介だが倒さないと犠牲者が増える。
ここでやらなくて誰がやると言うのだ。
見張り塔から声援が聞こえる。
「ボルフ曹長~、いてこましたれ~~~~」
「キャー、ボルフそ~ちょ~、がんばってぇ~!」
「兄を御願いします~~」
「……がんば」
少女らの声援が凄いな。
ってゆうか、まだ見張り塔にいたのかよ!
最終陣地へ退避しろよ!
ま、この雨で火攻めが使えないから見張り塔の上でも安全か。
だけど男共が俺を白い目で見るんだが。
そういう変な目で見るな、これは戦友同士の声援だから。
「ボルフ曹長、カッコいいっ!」
アカサめ、ふざけすぎだ。
すると男共の中から小声で何かが聞こえた。
誰だ、小さい声で「爆せろ」とか言ったのは!
俺は少女らに軽く敬礼で返し、男共の声の方へひと
だが走り寄る前に周囲のゴブリン兵が俺の行く手を邪魔する。
「ああ
その戦闘の最中、バリスタ
槍ではなく石を飛ばしてきたのだ。
しかもただの石ではなく、小石を詰めた袋をだ。
袋は射出されて直ぐに空中で破れて、中身の小石が散らばった。
「ちっ」
俺は舌打ちしながら近くのゴブリンを盾にして身をかがめる。
だがそれですべての石を防ぎきることは出来なかった。
盾にしたゴブリン兵はあっという間にズタズタになり、隠しきれなかった俺の身体のあちこちに痛みが走る。
ついでに周囲にいたゴブリン兵らも一掃してくれた。
味方も関係なしってところがゴブリンらしいじゃねえか。
だがこのままここでモタモタしてはいられない。
なんせ、
盾にした肉の塊を捨てて、痛みを押し殺して立ち上がり、直ぐに横っ飛びに地面を転がる。
そこへもう一匹が放った石弾の雨が降り注ぐ。
石の雨は広範囲へと降り注ぐ為、そのすべては回避しきれない。
せめて直撃さえ避けられれば。
雨と泥と血でグチャグチャになった地面を転がった。
俺はきっと凄い恰好をしているんだと思う。
だがそんな考えも痛みで吹っ飛んだ。
「があああっ!」
痛みで出た言葉ではなく、痛みに耐えるための言葉が漏れた。
小石の一つが左腕に当たったらしい。
それでも回転した勢いで俺は立ち上がる。
左腕がダランと垂れ下がったまま上がらない。
左腕が
よく見れば、血と一緒に白いモノが皮膚から突き出している。
「やってくれるじゃねえか」
思わず出た言葉だ。
俺はゆっくりと歩き出す。
大丈夫だ。右腕があれば剣は振るえる。
バリスタは射撃準備に時間が掛かる。
一回発射したら装填にかなり時間が掛かる。
この間にも正面門からは次々にゴブリン兵が入って来る。
入って来たゴブリン兵に一匹が、俺を指さして何か騒いでいる。
どうやら俺の事を知っているらしい。
時折、こちらをチラチラ見ている。
その表情は恐怖で染まっていた。
空がパッと光り、一瞬だけ周囲が明るく照らし出される。
そして雷鳴が辺りに
どうやら単なる雨は雷雨に変わったようだ。
俺は雷鳴が響く中を
その歩幅は徐々に広げられ、遂には走りだす。
「おおおおおおぉぉっ!」
俺は叫び声を上げて
二匹いれば負けないと思ったんだろうか。
一匹がその毒牙を俺に向けてくる。
近くで見ると牙は意外と小さい。
確かに早い動きとは思う。
だがそれくらいで俺に勝てるとでも思ったのか?
だが俺の目はしっかりとそれを
タイミングを合わせて剣を左から右へと振り抜き、
そのまま一回転してもう片方の前脚も叩き斬る。
手ごたえで言えば意外と柔らかい。
一瞬で二本の前脚を切り飛ばされた
殺気を感じて振り向けば、後ろからもう一匹の
その
いや違う、毒牙が近づいていた。
俺はその毒牙と俺の頭の間に剣を滑り込ませる。
ギリギリだった。
だが片手では抑えきれない。
このままだと倒される。
ついでに
そう思った時にはすでに身体が動いていた。
動かなかったはずの左腕を
厳密に言えば腕からはみ出していた『自分の骨を突き刺していた』だ。
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