第47話 正面門を守り抜け
俺は頃合いを見計らって大声で叫ぶ。
「投石始め~!」
敵の数は五十匹といったところか。
作成した二十脚のハシゴを使い、高さ三メートルの柵の上から男兵士が顔を出し、門に向かって来るゴブリン兵へと投石を始めた。
矢やボルトは数に限りがあるが、石ならば幾らでもある。
一人がひたすらハシゴの上から投石を繰り返し、すぐ下には投石用の石を補充する兵士が控えている。
時々交代もしながらひたすら投石を繰り返す。
原始的な攻撃だが鎧が無いところに当たれば、命を脅かすほどの威力がある。
安上がりで地味に厄介な攻撃なのだ。
ゴブリン兵は門を打ち破るべく巨大な丸太を抱えている数十匹の兵士らと、それを護衛する兵士達がいるのだが、当然のことながら丸太を持つ兵士は無防備だ。
投石が当たれば痛いじゃ済まない。
護衛のゴブリン兵は盾を持っているが、丸太を持つ兵士を守れば自分が投石を受ける。
結局、丸太を持つゴブリン兵は防御出来ないまま投石をまともに受けた。
ゴブリンの悲鳴がいくつも聞こえ、門に到達する前に丸太は地面へとドスンと転がった。
そして遂にゴブリン兵は一目散で逃げ出す。
「投石やめ~!」
とりあえず第一陣は
今度はもっと多くを引き連れて来るだろう。
門の前には負傷して逃げられなくなったゴブリン兵が数匹いる。
もちろんそれを助けに来るような奴らではない。
時間と共にそいつらは元気がなくなり、一時間もしたらほとんどのゴブリン兵が動かなくなった。
そして最初の攻撃から一時間半ほど経っただろうか。
再び攻撃が再開された。
「来るぞ、戦闘準備!」
またしても正面門突破のようだ。
しかし今度は数が多い。
その数ざっと約百五十匹くらいか。
さきほどの三倍の戦力、ほぼ総戦力での攻撃だ。
もちろん正面門へと殺到した。
護衛の兵士が多くなって、向こうも投石を始めた。
弓兵はいないみたいだな。
それは助かる。
だがこう敵の数が多いと、飛んでくる投石の数が物凄い。
とてもハシゴを使っての味方の数では太刀打ちできない。
顔を出すのも厳しいほどだ。
そうなると、あっという間に門まで接近されて、先ほどの丸太を使って門を破壊しようという動きになった。
三十匹ほどのゴブリン兵が丸太を持って、勢いをつけて門に打ちつけ始めた。
そこでベール中尉が大声で命令する。
「門を開け~!」
壊されるよりも前に門を開く作戦、第二段階に移行するということだ。
突然開かれた門の扉に、勢い余ったゴブリン兵達は、丸太を抱えたまま前倒しに倒れていく。
「
そして今度は門の扉を閉じる準備だ。
中へと入って来たゴブリン兵は、ベール中尉の率いる密集隊形の兵士が相手取り、その隙に丸太をどかして門の扉を閉じる作戦だ。
だが、そう上手くいかない。
開いた門に敵兵は殺到する。
そこで門の両際に陣取っていた別部隊の味方兵士が、侵入してきたゴブリン兵へと躍り出た。
だがそれは敵兵を寸断する為。
門の扉を閉じる為だ。
俺もその部隊に加わった。
柵の隙間から見ているだけじゃ面白くない。
やっと戦いに加われるな。
「どけどけどけどけっ!」
俺は味方兵士を
ちょうど俺が出た真ん前には革鎧を着こんだゴブリン兵がいた。
やつも俺に気が付いたようで、牙を剥き出しにして何やら叫びながら突っ込んできた。
こいつらは全員革鎧を着こんでいやがる。
ということは二戦級とは違う、まともな兵士達ってことだ。
これは味方に負傷兵が出るかもしれない。
ゴブリン兵が突き出した槍を剣で払い除け、左手の手斧をそいつの頭上に落とす。
直ぐに視線を変えて左側から襲い掛かって来るゴブリン兵の顔面に、俺の足の裏を合わせる。
「ギュエ」と良くわからない声を漏らして、鼻血を噴き出しながら仰向けに倒れるゴブリン兵。
鼻血を出しながらも立ち上がろうとするので、そいつの顔面を踏み台にして飛び上がり、一メートルほど離れたところの別のゴブリンの肩口へと、俺の剣を食い込ませた。
さらに近くにいた別のゴブリン兵二、三匹を黙らせる。
突如現れて、あっと言う間に仲間を倒されたゴブリン兵は、そこでピタリと門からの進入をやめた。
そして門の前でゴブリン兵達が俺と対峙した形で距離を取り始めた。
俺が前へと出るとゴブリン兵達は、俺との距離を保つように後ろへと下がる。
一応だがゴブリン兵共は、下がりながらも手に持った槍で俺を
そして俺はまた一歩前へと出る。
するとゴブリン兵達の集団はニ歩後ろへと下がる。
「うーん」と唸りながら今度は三歩ほど前へと出てみた。
すると奴らはザザザっと大きく後ろへと下がる。
そこで俺は「今だ、閉じろ!」と叫ぶ。
俺の言葉に直ぐに味方兵士が反応した。
門の両側の柵際に控えていた兵士が扉を一気に閉じていく。
だが俺が門の近くに立っているから奴らは進んでは来ない。
そして扉は閉められた。
となると、残る面倒臭い奴らはというと、鉱山砦の中に今いるゴブリン兵達だけとなった訳だ。
俺がくるりと後ろに振り返れば、そこではベール中尉の率いる集団が最初に侵入したゴブリン兵達と、猛烈な戦いを繰り広げていた。
俺は思わず笑みを漏らし、直ぐにその集団へと向きを変える。
密集隊形をとるベール中尉部隊に対し、ゴブリン兵も密集隊形を取っている。
味方の槍はゴブリンから奪った物だから、敵味方同じ槍を使用している。
その為、武器のリーチは同じ。しかし人族の方が腕の長さ長い分、若干有利ではある。
それでも体力で
人数的には同じくらいなんだが。
まあ良い。
俺がそれをひっくり返す。
そのゴブリン部隊の隊列の後ろから俺は突っ込んだ。
戦いなんてものは士気が非常に重要だ。
特に密集隊形のような兵士同士が近い部隊などは、恐怖の伝染が早い。
一人が逃げ出せばすぐに周囲も同じ行動を始める。
これはゴブリン族だからという訳ではなく、人族でも同じ現象が起こる。
それが今、俺の目の前で起こっている。
俺が斬り倒したゴブリン兵の周囲からそれは広まった。
ものの数秒で密集隊形は総崩れとなり、ゴブリン兵が四方に逃げ出した。
パニックの連鎖だ。
とはいっても逃げれる場所などない。
なんせ門の扉は閉じているから。
そこでゴブリン兵も気が付いたようだ。
逃げれる場所は正面門しかないということを。
となると逃げ場を失ったゴブリン兵が、再び門の所へと集まって来る。
だけどそこにはベール中尉の部隊もいるし俺もいる。
どう考えても袋のネズミって状態だ。
恐らく実戦経験もあるゴブリン正規兵だったようだが、こうなっては見る姿はない。
一匹、また一匹と確実に倒されていく。
そして残り十匹ほどを取り囲んだところでそいつらは降伏した。
これでまた捕虜が増えてしまった。
敵の動向はというと、数が減ってしまったから待機しているようだ。
恐らく応援を呼ぶだろう。
それまでに味方の部隊が来てくれることを祈ろう。
「負傷者の治療を急げ!」
俺の言葉に手空きの兵士が反応して動き出す。
見渡せば、結構な負傷兵が出ている。
戦闘なんて無理っていうような者まで戦いに参加しているのだ。
それに敵は正規兵ときたら負傷者くらいは出るだろう。
さらに戦死者も出てしまった。
五人がやられた。
これで今戦えるのは七十人ほどになった。
捕虜は百人近くいた訳だから、三十人が負傷や戦死をしたことになる。
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