第46話 鉱山砦の防衛







 これで捕虜は解放できたが、追手に追い付かれることなく逃げおおせるとは思えない。

 弱り切ったあの身体で、そんな体力はないだろう。

 それならここで助けを待つのが良いと考えた。

 

 だが、わざわざ捕虜になっていた兵士を助け出す為だけに、こんな敵地に部隊を派遣してくれるはずもない。


 そこでまずやるべき事が、ペルル中尉に伝令を出すこと。

 『敵の魔石鉱山を奪った』という緊急連絡だ。


 『現在は捕虜だった味方兵士を解放して、鉱山は完全に掌握しょうあくしているので、今のうちに産出した魔石を運び出したい』といった内容を伝えてもらう。


 ポイントは“魔石を運び出す”っていうとこだ。


 この言葉があれば普通の貴族は動くはず。

 なんせ、金になる話だからな。


 恐らくペルル中尉は近隣の領主かサンバー伯爵に援助を頼むことだろう。

 そうなれば大儲けしてやろうと、護衛兵士を引き連れて多くの荷馬車が来るはずだ。


 ただ、魔石がどれくらいの量あるのかとかは伝えない。

 実はこの鉱山には、魔石はほとんど残っていない。

 それがわかれば来てくれないからな。

 魔石も一応あることはあるのだが、それは少量でしかない。

 すでにゴブリン軍に持ち去られていたからな。


 それが上手くいったとして、部隊がここへ来るまでの間、この鉱山砦を守らないといけないという問題もある。

 それ以外にも、この話に乗って来ない場合もあるし、そもそも伝令が届かない場合だってある。


 でも今の俺達にはこれしか方法が思いつかないからやるしかない。


 伝令にはミイニャ伍長に行ってもらう。

 素早さと歩く速度では獣人の彼女が適役だろう。

 サリサ兵長でも良かったんだが、持久力でミイニャ伍長を選択した。


 伝令が行って味方部隊が来るまでには、恐らく一週間以上はかかる。

 その間にこの鉱山砦をなんとしても死守する。

 

 先ほどの戦闘ですでに負傷者が出ている。

 今後は死傷者も出るだろう。

 それを極力少なくするために、ここの砦を守りながら修繕しなくてはいけない。


 捕虜代表のベール中尉が話を理解してくれたようで、テキパキと捕虜達に指示を出していく。


 武器を集め、残った食糧の量を計算して毎食の量を調整してくれるようだ。

 

 その間にも周囲の監視をおこたらない。

 

 そんな中、ゴブリン兵の生き残りが倉庫に隠れているのを発見。

 元捕虜だった男達は皆殺しにしようと言ってきたが、労働力に使えると思って男らを説得し捕虜にした。

 だが後になって言葉が通じないから作業させるにも苦労することになる。

 まあ、捕まえたゴブリンを入れておく場所は、ここなら幾らでもあるし。


 それと柵の外へ攻撃できるようにするためのハシゴの作成。

 さらに柵の内部へ入られた時の事も考えて、倉庫だったところを拠点にしてバリケードを作る。

 やることは多い。


 作業しながら男達と話をしたんだが、話題は誰もが少女達のことばかりだ。

 最前線に女性兵士がいることを彼らは知らないからな。

 ましてや、少女だけで部隊を創った事すらも知らない。

 

 それにまさか少女兵が助けに来るとは、夢にも思っていないから驚いたそうだ。

 男兵らの視線は常に少女らを追っている。

 だがその視線は物珍しいというより、彼女らを女として見てる視線だ。

 戦いが終わり、心にゆとりが出てきたようだ。

 そういえばこいつら、人族の女性を見るのも久しぶりな奴らばかりだよな。

 あ、危険な香りがしてきた。


 ここでまたしてもいつもの会話を始めるアカサ。


「いや~、さすが“魔を狩る者”のボルグ曹長ですねえ。少女5人で見事に敵の鉱山要塞を落としてしまいましたね。今更ですけど、さすが“魔を狩る者”ですよね~」


 その話を聞いた男達が一斉に俺を見る。

 そして誰かがポロリと言った。


「ま、まさか、あんたがあの“魔を狩る者”なのか」


 その言葉で男達が一斉に一歩後ずさった。


 そうか、こいつらの中に昔の俺をしっている奴らがいるようだな。

 ってゆうか、皆知ってるみたいだよな、この反応は。

 何だかこのリアクションが懐かしく感じる。

 かつての俺の立ち位置を思い出すな。


 昔は俺を恐れて誰も近づきもしなかったってのに、今じゃ少女らが俺に食い物をおごらせようとたかって来る。

 でも嫌じゃないのな、またこれが。


 まあそれは今は良い。

 とりあえずいつものセリフを言わないと。


「そうだ、確かに俺は“魔を狩る者”とか言われていたな。そうそう、俺のハーレムには手を出すんじゃねえぞ、生きて故郷に帰りたいだろ?」


 この言葉に男達がさらに一歩後ずさった。

 これでもう大丈夫だろう。


 ふとベール中尉と目が合った。

 それは恐怖の感情がこもった目。

 そしてベール中尉が震える声で言った。


「俺は知ってるぞ、“魔を狩る者”がゴブリンの村を一人で全滅させたのを……村に火を放って一人斬り込んでいった男を俺は見たんだ。それで一時間したら炎を上げて燃える村からその男と若い女性二人の三人だけが生きて出て来た……その男が“魔を狩る者”だったんだ……」


 うーん、少し勘違いしているようなんだが。

 

 確かにそういった事があったよ。

 だが火を放ったのは俺じゃなくて弓兵部隊だし。

 それにその燃える村に入って行ったのは、村に置き忘れたクロスボウを取りに行くためだし。

 女二人っていうのは、たまたまゴブリンに捕まっていた女性がいただけだし。

 そもそも俺が村に入って行った時には、ゴブリンはすでにいなかったし。


 まあ言い訳するのも面倒臭い。

 このまま俺を恐れていてくれれば、少女らに手出しはしないだろうしな。


 その後、少女らは男共から露骨に避けられるようになった。

 もっとひどいのは「俺は魔物か」と突っ込みたくなるような扱いを受けたことだ。

 なんだよ「ひっ」とか言って驚くリアクションは!


 俺ってそんなに恐れられていたのかと、ちょっとだけ落ち込んだ。


 そんな感じで作業に従事していると、早速ゴブリンの偵察部隊を発見したと見張りから連絡がきた。

 ゴブリンライダーが五匹だ。


 だが塔の上からクロスボウで威嚇射撃をしたら、すぐに撤退していった。

 追っ払ったのは良いが、これでこの鉱山を奪ったことがバレたから、次はもっと大きな部隊で攻めてくるだろう。


 俺の予想では二日か三日ほどしたら来る。


 そして予想通り敵の部隊は三日後に来た。

 

「敵部隊、隊列を組んでこちらに向かって来ます!」


 敵を発見した見張りの兵士が叫ぶと、鉱山砦の中の兵士らは一斉に決められた配置へと走る。


 しかしながら三日間の猶予ゆうよがあったおかげで、捕虜だった男たちの体力は大分回復していた。

 それでも弱って痩せ細った体や筋力は、二日や三日では戻らない。

 それと残念ながら、負傷兵が数人帰らぬ人となった。

 ここを占領した時の負傷兵だ。

 体力が衰えている彼らにとって軽傷も重傷に値するということだ。


 ひとつは倒壊させたので、残りの三つの見張り塔だが、二つは敵から奪った短弓を装備させた男兵士を各々配置、もうひとつはクロスボウの少女だけを配置させた。

 飛び道具は全てこの三つの塔に集めた訳だ。

 

 ゴブリン兵は鉱山砦の正面に布陣し始めている。

 その数はざっと見て二百匹はいる。

 ほとんどが歩兵だが、十匹ほどのゴブリンライダーもいる。


 どうやら正面門を突破するつもりのようで、森で木を切り倒しているのが見える。

 丸太を正面門にぶち当てて突破する作戦か。

 

 正面門の見張り塔は倒壊してないから、門の敵へ射れる見張り塔はない。

 どの見張り塔からも、ちょうど死角になって飛び道具が射れないのだ。

 見張り塔は柵の中への監視の為に作られたもので、外への監視へは死角が

多いようだ。


 ベール中尉が正面門の直ぐの所に男達を集めて隊列を組み始めた。

 密集隊形だ。

 門を破って入って来た敵に備えているのだ。

 

 そしてゴブリン兵達が切り倒した丸太を持って正面門へと近づいて来た。


 


 



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