第34話 巨人
見た目は俺が槍の一撃でウォーワゴンを破壊したような感じになってるが、あれはミイニャと俺で細工をしたからだ。
だがそれを知らない一般兵士は、大盛り上がりとなった。
「“魔を狩る者”がウォーワゴンを槍一本で破壊したぞ!」
誰かが叫んだ。
余計な事を!
すると近くにいた部隊全てが、俺の方を見ながら手に持った武器を打ち据え音を発し、同時に次々に歓声を上げた。
戦闘中だと言うのにやめてくれ。
この後が戦いにくくなる。
ウォーワゴンを四両とも撃破した俺達は、防御体制から前進に移行する。
前面に対峙するゴブリンの長槍歩兵部隊はじりじりと後退して行く。
俺達の小隊は十名ずつの五列横隊で、味方歩兵の部隊と部隊の間から射撃をしながら前進した。
これだと十名での斉射を一分間に十回出来る。
「構え~、てっ!」
斉射感覚が短く合図をする側も忙しいが、やりたそうにしていたフェイ・ロー伍長に振ったら心底嬉しそうに代わってくれた。
両翼の騎兵隊を見れば、左翼の味方騎兵は敵を打ち砕いたらしいが、右翼側は逆に戦線を突破されている。
その突破した右翼の敵は銀狼のチャリオット部隊だ。
二頭の銀狼に二輪のカートを引かせ、カートには二匹のゴブリンが乗り、短弓や槍で攻撃してくる。
車輪には刃が付けられていて、近づこうものなら回転する刃で斬られる。
味方の騎兵との戦闘で数は減っているが、後ろに回り込まれるのは厄介だ。
幸い左翼の敵騎獣兵を撃ち破った味方騎兵隊が、引き返してくれてチャリオットに対峙してくれるようだ。
俺達の後方では、敵のチャリオット部隊と味方騎兵部隊の戦闘が巻き起ころうとしている。
味方騎兵隊が負けたら大変な事になるが、今はそれどころではない。
目の前に身長が四、五メートル近くある巨人が二体迫っているのだ。
重装歩兵が盾を構えて長槍を突き出しているが、巨人のこん棒の一振りを盾の上から喰らっただけで、数人の兵士が隊列から吹っ飛ばされる。
防御するのが精一杯だ。
その隊列が乱れた隙をついて、ゴブリンの散兵がスリングでの投石や槍を投げ込む。
厄介な連中だ。
頼みの綱は『腐りかけ』だ。
その『腐りかけ』が巨人へと走り寄る。
近づくゴブリン兵程度は一触れで戦闘不能にしていく。
そこへ巨人が手に持ったこん棒が『腐りかけ』を襲う。
力のこもったこん棒は、素早い動きの『腐りかけ』には命中せず、物凄い衝撃を巻き散らして地面にメリ込んだ。
周囲に土と小石が跳ね飛ぶ。
それだけでも当たれば怪我をするレベルだ。
だが巨人の動きは遅い。
十二分に『腐りかけ』は対抗できている。
『腐りかけ』が接近して巨人のデカい足首に触れた。
途端にその足首が変色するが、巨人もじっとしてはいない。
巨人は体がデカい分、腐らすのにも時間が掛かるようだ。
かと言ってそんなに長時間触ったままでいられない。
それに巨人に対峙する重装歩兵がいくら精鋭部隊とは言っても、さすがに巨人には成す術がないように見える。
となれば、二体もいる巨人には対抗しきれない。
それに敵は巨人だけじゃない。
ゴブリン歩兵もいる。
ゴブリン歩兵が身体が隠れるくらいの大楯を前面に携えて、長槍を構えて前進して来る。
これで後方の味方騎兵が負ければ挟み撃ちになる。
せめて一体の巨人だけでもなんとかしたい。
「クロスボウ小隊、手前の巨人の顔を狙え。各個自由射撃用意――撃て~!」
俺は叫んだ。
ペルル少尉には悪いが勝手に命令は出させてもらう。
どうせペルル少尉はオロオロしてるだけだし。
少女50人のクロスボウが、俺達に近い方の巨人の顔目掛けて、次々にボルトが放たれる。
だがこの分だとボルトをその内に使い果たす。
「フェイ・ロー伍長、後は任せるぞ!」
そう言って俺は隊列から離れる。
「ああ、待て。私も――」
何かロー伍長が言いかけたようだが、俺は構わず一人走り出した。
チラリとロー伍長を見ると、「ぐぬぬ」とか言いながら自分の腰の魔剣を握りしめている。
放って置こう。
俺は腹に差し込んである手斧を右手で抜いて、クルっと回転させて左手に持ち代える。
そして腰に差してある剣を抜いて、柄の部分を確かめるように右手で握りしめる。
さあてと、楽しくなってきたな。
巨人は顔に集中するクロスボウ攻撃を嫌がって、両手で必死に顔を防御している。
顔を防ぐので足元に意識がいってない。
俺はその足を狙う。
「つああああっ!」
俺は気合と共に剣と手斧を巨人の脚へと叩きつけた。
確かに手ごたえはあったんだが、大して効いていないようだな。
しかし俺の攻撃を受けたその足を一歩下げた。
少しは効いてるか。
それならば……
「これでどうだっ!」
今度は反対の足首の裏、アキレス腱へ剣を叩き込んだ。
「がぁああああっ」
巨人が低い声で悲鳴を上げた。
相当に効いたようだ。
巨人がガクンと片膝を地面へと突く。
俺は少女らにもう一体の巨人へ攻撃するように合図する。
そこで巨人は防御していた両手を顔からどかす。するとこの巨人の顔には、無数のボルトが突き刺さっているのが見えた。
巨人の皮は分厚く硬いそうだが、さすがにこれは痛そうだ。
さて、可哀そうだが巨人は二体いるんでね。
さっさと終わらせてもらおうか。
俺は片膝を突く巨人の膝を踏み台にして飛んだ。
そして大きく振りかぶった剣をその首の横へと振り落とした。
確かそこには太い血管が走っているはずだ。
人型ならば巨人だろうがゴブリンだろうが、その辺りは変わらない。
骨にぶつかると斬れないが、その部分ならば深く刃を入れさえしなければ斬れる。
俺は一気に剣を振り切った。
巨人の首がパックリと割れる。
途端、大量の血が噴出した。
俺はそのまま地面へと転がるように着地。
巨人は慌てて首を抑えるが、こいつの命ももう時間の問題だ。
ならば放って置こう。
俺はもう一体の巨人へと走って行く。
だが『腐りかけ』がこれは俺の獲物とばかりに俺を制止した。
そう言う事なら喜んで譲るよ。
見れば巨人の足首がかなり腐っている。
立っているのも
これも時間の問題だな。
その頃になると、ペルル小隊の前方に味方重装歩兵部隊が出て、ゴブリンの長槍部隊と正面衝突していた。
他の場所でも歩兵同士による正面からの戦闘が起こっていた。
こうなると飛び道具の俺達部隊のやることがなくなる。
俺が隊列に戻るとフェイ・ロー伍長がぼそりと「自分だけずるいのじゃ」と言っていた。
取りあえず後方の味方騎兵部隊の
「隊列を変更。後方の味方騎兵を
若干一人、足を絡ませて倒れそうになる捨て猫がいるが、他は綺麗に隊列を組み直し、クロスボウをゴブリンのチャリオットへと向けた。
前線を背にして後方へ向けて隊列を組んだのだが、これほど背中が不安になることもないな。
背中を気にしつつ、号令はロー伍長に任せる。
あれ、そう言えば俺達の小隊は完全に独自行動を取っているよな。
サンバー伯爵直結大隊の場合は大隊長からの指示で俺達小隊は動くんだがな、今じゃ鼓笛隊の音色も聞こえない。
つまり指示が出ていないってこと。
俺は冷静に周囲を見まわす。
すると味方陣営の中で戦闘が起こっているのが見えた。
本部辺りだ。
「ペルル少尉、大隊本部で戦闘が行われています!」
敵の一部が突破して、俺達の大隊本部を強襲していたらしい。
くそ、気が付かなかった。
巨人やウォーワゴンに気を取られ過ぎた。
他にも強力の部隊がいたのか。
だが味方の騎兵隊も結構危ない状況だ。
放っては置けないが全員は無理だ。
「ペルル少尉、何人か借りて大隊の救援に向かいます」
「そ、そうか。ボルフ曹長、頼んだよ」
相変わらずキョドキョドして落ち着きがないペルル少尉だが、一応は許可は取った。
ならば。
「皆良く聞け。今から大隊本部の救援に向かう。敵は中央突破したくらいだ、手強いと思われる。そこで志願者を
俺が言い終わって小隊を見回すが誰も手を挙げない。
ならばと思い、俺はいつもの手段に訴える。
「ああ、それから言い忘れたがな、報酬は俺の秘蔵の
俺が言い終わらないうちに次々に手が上がる。
「はい、はい。絶対志願するにゃ!」
「行きます、行きます。ボルフ曹長、私が行きますって」
「あの…私…で、よければ……」
「私も志願します」
ミイニャ、ラムラ、メイケ、アカサの四人、いつものメンバーか。
「待て、私も行きたいのじゃが、ダメかのう?」
まさかのフェイ・ロー伍長が志願して来た。
だけどこいつは
魔剣を振り回したいだけだろう。
「もちろん構わない。一緒に戦おう。でも
「いや、それは欲しいぞ……」
そう言って、恥ずかしそうに視線を
お前もか!
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