第3話 近衛兵と模擬戦







「試合開始!」


 俺の開始の合図と同時に動いたのはミイニャだ。

 その初動は圧倒的ともいえる早さだ。

 自分の反射神経の凄さを十二分に活用している。


 ミイニャが大きく振りかぶって頭上から木剣を振り下ろす。


「これでどうにゃっ」


 確かに素早さはあるが無駄に振りが大きすぎるんだよな。

 あれじゃ、ラムラに避けられる。


「そんな大振りでっ」


 案の定、ラムラはそれをバックステップで逃げる。


 だが、ミイニャはそれで終わりではなかった。


「これならどうにゃぁ」


 素人とは思えない早さで右に左にと木剣で連撃する。


「くっ、早い!」


 さすがにすべて避け切れいならしく、ラムラはそれを木剣で受けていく。


 訓練所に激しい木剣のぶつかり合う音が響く。


 いつの間にか、他の訓練生や教官までが注目していた。


 その注目する人々の中に、際立って目立つ人達が目に入った。


「うわ、近衛兵じゃねえか……」


 思わず言葉が漏れてしまった。

 数名の近衛兵が訓練所の中にまで入って来ていたらしい。

 兜に立派な羽飾りをつけた人物も見える。

 ありゃあ、隊長だな。

 これまた厄介な。


 訓練所は門の近くにある為、木剣の打ち合う音につられて覗きにでも来たんだろう。

 別にやましい事をしているわけじゃないんだが、近衛兵はすべて貴族だ。

 だから緊張はする。


 周囲の訓練生も近衛兵に気が付いて視線を送る。

 模擬戦中のミイニャにも、近衛兵の集団が視界に入ったらしい。

 一瞬だけ視線がそちらに向く。


 そこで近衛兵に気をとられたミイニャに隙が出来た。

 

 それをラムラは見逃すはずもなく、ミイニャの頭に木剣がバシッと当たる。


「ふにゃあっ!」


 その途端、ミイニャの口から炎が吐き出された。


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 俺は今、訓練所の談話室にいる。

 説教部屋とも言う。

 

 俺はテーブルの前に直立不動の姿勢で立ち、テーブルを挟んだ向こう側には近衛兵の一人が椅子に座っている。

 テーブルの上に置かれた兜には綺麗な装飾を施された羽飾りがあり、そこに座っているのが近衛兵の隊長であることを物語っている。


 その隊長様は俺に向かって言った。


「どういうことだ?」


 この瞬間「人生終わった」と思った。

 貴族様相手にこうなったらおしまいだ。

 下級平民出の俺なんか、この場で首を飛ばされかねない。


 男爵の「どういうことだ?」という質問に、お俺は何を答えていいか悩む。


 新兵が訓練中に魔法を使ったってことだろうか。

 はたまた、口から炎を吐く少女が珍しいからか。

 それとも、魔法少女を囲っていたことを黙っていたからなのか。

 あれ、もしかして全部じゃねえのか。


 考えれば考えるほど返答する言葉に迷う。

 しかもこの談話室、通称“説教部屋”には隊長を含めた近衛兵6名と俺しかいない。

 完全にアウェイの中での戦いだ。

 訓練所と言うホームの中にいるのにアウェイって何だよ……


「そ、それはですね……」


 沈黙はまずいと思い、何かを言い掛けた時、扉をノックする音が聞こえる。


 入って来たのは訓練所のポケラ隊長だ。


「どういうことだ。おっと、失礼。ここの責任者をしているアーロン・ポケラ子爵だ」


 さすが隊長だな。

 自己紹介に軍での階級でなく爵位を言った。

 近衛兵の隊長クラスはせいぜい男爵まで。

 それを知って最初から爵位を言って、話を有利に持って行こうと考えているんだろうな。

 それにポケラ家はそこそこ有力貴族だし。


 ポケラ隊長が子爵と名乗った途端、近衛兵の隊長は慌てて椅子から立ち上がり自己紹介する。


「これはポケラ子爵殿、私は近衛隊長をしておりますペペ・バレンチ男爵と言います。ちょっと近くを通りかかりまして……」


 貴族の事はあまり分らんが、バレンチ家など聞いたことが無い。

 多分、弱小貴族だな。


「能書きは良いから要件を言いたまえ」


 おっと隊長、強気に出たな。

 いいぞ、もっとやれ。


「は、はい。訓練生の中に口から炎を吐く少女を見かけまして。そういった特殊能力者は伯爵直轄の……」


「小うるさい奴だな。我々の訓練所では新編成部隊の実験をしている。言うなれば実験部隊だ。それは領主様の許可も頂いている。文句があるならサンバー伯爵に話を通すがどうだ?」


 伯爵の名を出したところでこの話は終わった。

 すごすごと近衛兵達は説教部屋から出て行った。


 それを見送った後、隊長は俺の目の前に立って睨みつける。


 俺は慌てて姿勢を正す。

 くそ、一件落着と思ったが終わってはいなかったか。


 その後、小一時間ほど説教を喰らう事となった。


 この事件以来、ミイニャには魔法制御の首輪、つまり隷属の首輪を着けることになった。

 つまり奴隷用の魔法の首輪だ。

 ちょっと高価な品なんだがな。


 本人には魔法制御の首輪としか説明していないがな。

 そういえばこいつ“野良猫”とか皆から呼ばれていたりする。

 首輪を着けたらまるで飼い猫だが。


 ミイニャが首輪を着けて首をぐるぐる回して着け心地を確かめている。

 その姿はまるで猫だ。


「ミイニャ、着け心地はどうだ?」


 俺が聞くとミイニャ。


「そうだにゃ、悪くはないにゃ。なんか落ち着く気がするにゃ」


「そうか、そうか、それは良かったな」


 俺は心の中でほくそ笑む。


「でもボルフ軍曹、これどうやって外すんだにゃ?」


 う、聞かれたくない質問だな。


「お、おう。そん時は俺のとこ来い。ややこしい外し方だから、ミイニャには

無理だろうと思うぞ。あ、そろそろ夕食の時間だろ。遅れるぞ」


「それは大変にゃ、急いで行くにゃ」


 そう言って4つ脚で走り去るミイニャの後姿を見ながら俺は思う。


 チョロいな。



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