10:ハーデンベルギア

「・・・さて、イズ様。いつまで気絶しているフリをしているのですか。」

ビクッ

驚いてしまい少しばかり体が動いてしまう。

「あの時は本当に気絶していたので見逃しましたが、まだフリを続けるなら容赦しませんよ。」

これはちゃんとやれっていう警告なのだろう。そして私はこの警告を無視すると大変なことになるとなんとなくだけど分かる。

なので仕方なくうつ伏せの体を起こした。

「・・・だってもう少し休みたかったんだもん。」

文句は言っておく。

「こっちには時間が無いのです。今は結界で何とかアガテから見つからないようにはしていますが、そのうちは気づいてしまいます。なので早く再開しますよ。」

ナナシのその声には強い信念が感じられる。

これは・・・拒否しても仕方ないか。

ため息をつきながら立つ。

「・・・それで、なにするの。また前回の続き?」

「はい。とにかくイズ様には早くに調整の技を覚えて貰いたいのでとりあえずはそれをします。」

調整、ナナシが言う私が今1番に覚えるべきの技。私の機械の両足と左腕、右目の出力を変えて意のままに使える技。

本当なら調整も丁寧にやる予定だったけど時間がないので避けの訓練と同時に行っている。

あの時のナナシの攻撃も調整を利用して威力と速さを通常の2倍にしたって聞いた。

そんな調整の技を私も使える、って思っていたけど案外習得方法は難しい。

何せ習得方法が自分で感覚を掴むしかないから。

おそらくここに人の身で調整が使える人がいたらもう少し簡単になっていたかもしれないけど、残念ながらナナシはアンドロイドで何も参考にならない。

だからずっと模索していたけど結局ほとんど何も掴めない。

けど、一つだけ感じたことがある。

それは、ラウルが来る前にナナシに気絶させられたあの攻撃の時。

微かにだけどそれは感じられた。

今思い返すとあの攻撃には殺気が込められていたと思う。思わず身がすくんでしまうような威圧感を感じたナナシのあの攻撃。

私は避けなければ終わると瞬時に感じ取り横に避けようとした。

けど間に合わないと思ったその時、まるで自分の足ではないのかと思うほど足が目に追えない速さで動き、ナナシの攻撃を避けた。

まあその後壁に思いっきりぶつかって気絶したけど。

あの時の攻撃をナナシにもう1回やってもらえば今度こそ感覚を掴めるかもしれない。そう思いナナシに聞いてみる。

「ナナシ、攻撃に殺気が込められたやつって出来る?」

「出来ますが、何をなさるつもりですか。」

「それを私にやって欲しい。」

「ダメです。危険過ぎます。」

「1回、だけ。」

「・・・はあ、1回だけですよ。」

「うん。」

ナナシはそう言うと私から数メートル離れていき、5メートル位のところで振り返る。

「いきますよ。」

「どうぞ。」

ナナシが右足を床に強く押し付け、こちらに飛んだ。そして拳を私のお腹に向けて放つ。

さあ、来て。

そう思いながら攻撃を避けた。

ゴリッ

だが聞こえたのは空を斬る音ではなく何かがめり込むような音だった。

そしてそのまま、後ろに私の体は飛んだ。


「う、ううん。あれ、私って・・・」

目が覚めると高い天井が見えた。

体を起こす。

「確か私は、」

「私にお腹を殴られて気絶していました。」

声が聞こえた方に瞬時に体を向ける。

そこには正座をしているナナシがいた。

「・・・私も知っていました。イズ様があの攻撃の時、僅かに調整が使えていたことに。ですがあれはおそらく無意識のうちに体が反応し、避けたものだと思います。」

てっきりナナシは気づいていないと思っていたけど知っていたみたい。

・・・だからやりたくなかったんだ。

「じゃあ、結局また振り出しに戻ったね。」

立とうとする、だが

ズキ

「う、」

腹部に激痛が走る。私はその痛みに驚き足がよろめき、倒れるところでナナシが私をつかまえた。

「殺気の乗る攻撃が制御が効きづらく、私が力を抑えられませんでした。すみません。」

ナナシがそう言う。

「幸い内臓のダメージは低く済んだのですが、骨は折れてしまいました。修復は終わっていますが、痛みは時間が経たない限り引かないためしばらくその痛みが続きます。」

「じゃあそれまでは休憩?」

「そうなります。」

「・・・ならラウルを手伝いに行ってくれないかな。どうせナナシがここにいてもやることないし。」

「ですが、」

「ナナシにもこれ以上はどうにも出来ないんでしょ。」

「・・・分かりました、そうしてきます。イズ様はくれぐれも危険な行動をしないでください。」

「うん。」

もう少し時間がかかると思っていたけど、やっぱりこういうところは機械なんだな。

ナナシが訓練場を出ていった。

・・・よし、私も訓練再開しよ。

体を起こす。

痛みにはかなり耐性があるから、このくらいならへっちゃら。もしナナシがここにいたら大丈夫でもやらせてくれないから、ラウルの方に行ってくれて助かった。

体を動かすために少しばかり走る。

うん、少しだけ力が入りにくいだけ。これならできそう。

準備運動をする。

さて、それなら体力の限界まで走ろう。

私は、調整が出来た場面を再現してみることにした。

あの時、私は本当に体力の限界で今にも倒れそうな状態だった。ならもう一度、限界の時に命に関わる攻撃が来たらまたできるかもしれない。そう思い始めたことだった。


「はあ、はあ、」

走り始めて1時間ほど、お腹の痛みにより、いつもより早く体力の限界がきた。

「はあ、これで、はあ、あの時の、はあ、はあ、状況が、はあ、出来た。」

ガクン

突如床が大きく揺れる。

なに?この床鉄製のはずーーー



ふんふーん、ジェヘナおじさんが地下からここに入れって言ってたけど本当に合ってるのかな。あ、光が見えた!おー、本当に人がいる、外から見た時はいなかったのに。やっぱりジェヘナおじさんってすごい!!それじゃあ、あーそぼ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る