6:キンソウギョ

列車が止まった。どうやらナナシの言う安全なところに着いたらしい。

操縦室からナナシが戻ってくる。

「着きました。ここならしばらく安全でしょう。」

「どこに着いたの?」

「軍の基地です。ここなら安全性の他に色々なこともできると考えました。」

「そこまで考えてたんだ。」

「はい。イズ様達のサポート役として当然のことです」

「・・・頼もしいな。」

そう言い、列車の扉に歩き出した。


「おお!」

まず最初に聞こえたのはラウルの驚きの声だった。

「すごい、なにこれ!」

ラウルがそう言いながら目の前にある戦車を触っている。

どうやらここは陸軍の基地だったらしく、辺りにはさまざまな車が散らばっている。当然戦車もだ。

「イズ様、私は少し用があるので先にあの方向に行っておいてください。」

後ろからナナシがそんな言葉がくる。

「分かった。」

「では。」

ナナシが列車に戻っていった。

「・・・ラウル、気になるのは悪いことじゃないけど今は危ないから早く行こ。」

いつまでも敵にバレバレの場所にいてはまずいと思ったのでラウルに声をかける。

「これ、中どうやって入るのかな。」

だが全然私の声はラウルに聞こえていなかった。

・・・はあ

仕方なくラウルの方へ向かう。

「あ、開いた!ここが入口なんだ、入ってみよ。」

ラウルが戦車の中に入っていった。

「あ、ラウル・・・」

足を止める。

・・・先行ってよ、多分ラウル1人でも着いてこれるよね。

少々面倒くさくなってしまったので、もう1人で行ってしまおうと思い足を後ろに進めようとした。

だが足を進めるより先にハプニングが起きてしまった。

突如として戦車から音が聞こえる、まるで今まで眠っていたものが起き上がるような音が。

・・・ラウル、まさか起動したの。まずい、敵はこういうのを探知してくる。早く止めないと。

このままでは大変なことになると思い、戦車とは反対側に出していた足を戻し戦車に向かって走る。

だがその足もすぐに止まった。耳を割るような音が戦車の大砲から聞こえ、私の目の前に着弾する。

「うっ、」

咄嗟に耳を手で閉じたが、間に合わず耳に直撃した。

は、早く止めないと・・・

耳を押さえる手をどかし、またラウルが乗っている戦車に向かおうとしたところ、戦車からやわい棒状のなにかが私の腕と足を拘束され地面に倒れる。

これは、拘束道具?どうして・・・

ガチャ

疑問に思っていたところ、戦車の入り口が開きラウルが出てきた。

「イズ!大丈夫!?」

まず開口に聞いてきたのは私の心配だった。

「・・・一応、大丈夫。」

そう答えた。

「よ、良かったー。ごめん、止め方が分からなくて色々なところ押してたらこうなっちゃって・・・」

私の前で頭を下げてことの経緯を説明してくれた。

「・・・ならまずこれ外してくれない?解除するやつも中にあると思うし。」

「あ、そうだった。ちょっと待ってて。」

ラウルが戦車の中に戻って行った。

それから数分後、まるで糸が切れたかのようにいきなり拘束器具が外れた。

「ごめん。探すのに少し時間かかっちゃった。」

「別にいいよ。早く行こ。」

「うん!」

「あ」

後ろに向き直り、元の目的地に行こうとした。

だが、どうやらもうその必要はなくなったみたい。目の前にナナシがいる。

「・・・早く行きますよ。」

身構えるようにナナシの言葉を待っていたが、予想外の言葉が返ってきた。

・・・ナナシはラウルが戦車を起動させたのに気づいてない?

そう頭で解釈すると私は一瞬浮遊感を覚える。安心して少し腰が抜けたみたい。

そんな私を後ろでラウルが体を支えてくれた。

「イズ、大丈夫?」

「ちょっと安心して腰が抜けただけ。」

「イズはそんなにナナシさんにバレるのが嫌だったの?」

「うん、ナナシにくれぐれも機械を起動させるなって言われてたから。」

「・・・なんかごめん。」

「別にいいよ、ラウルは知らなかったわけだし。」

「ちなみに機械を起動させるとどんなことが起きるの?」

「ナナシが言うには敵は音とかにも敏感だから探知されるんだって。」

「そ、そうなんだ・・・」

ラウルがそれを聞いてモジモジとしている。

「だから別に気にしなくて、大丈夫。」

「で、でも・・・ん。」

なにか言おうとするラウルの口を人差し指で止める。

「しつこい。ほら、早く行こ。」

「・・・」

その後、ナナシと合流するまでラウルはなにも言わなかったが、私も言わなかった。


「・・・ナナシ、ここが目的地?」

歩いて数十分、目の前に大きな建物が見えてきたのでナナシに聞いてみる。

「そうです。あそこが目的地です。」

それから数分歩き、大きな建物の前に着く。

ナナシがそれに近づきドアを蹴りで開ける。

「入りましょう。」

「・・・こわ。」

そんなことをつい口走ってしまったが2人に聞こえることはなかった。


建物の中心と思われる広いホールに出ると、ホールの中心でナナシが止まった。

「ここからは別行動にしましょう。」

「・・・どうして?」

「イズ様とラウル様ではやるべき事が違うからです。」

「どういうこと?」

「イズ様にはその足や手、目を使いこなすために訓練が必要です。そしてラウル様は知識が乏しすぎます。」

「「うっ」」

2人ともナナシに痛いところをつかれてつい声が漏れてしまう。

「・・・もしかしてこれもここにした理由の1つ、なの。」

「そうです。」

やられた、と心の中で思った。

だが

「ラウル様はあちらに向かってください。そして突き当たりを右に曲がると図書室があります。そこでこの世界の知識を学んでください。おそらく軍なので機密な情報も沢山ありますよ。」

それを聞いた途端ラウルの目が輝きに変わった。

「行きます!」

そう言い残しラウルはナナシの言った方向に走り出した。

「イズ様は私に付いてきてください。それを使いこなすまでには私が必要不可欠なので。」

「・・・分かった。」

「では付いてきてください。」

ナナシがラウルとは逆方向に歩き出す。しぶしぶそれに私は付いて行った。

このあと、地獄の日々が続くとも知らずに。

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