5:ピンガベラ

僕は少し見誤っていたかもしれない。てっきり、洞窟から地下世界に行くと思っていたのに、まさかのドリルで掘りながら進むとは思ってもいなかった。

「・・・すごいね。この、なんとか号にドリルまで付いているなんて。」

窓から目を離し、イズに話しかける。

「ノイズ号だよ。」

「そうそれ。それと本当に不思議だね。列車が線路の上を走行してないなんて。」

「これもパレスチウムが出す無限のエネルギーのおかげなんだよ。エネルギーが線路の形を作ってそれの上をノイズ号が走っているの。だから空を走ることが可能なの。」

「すごいなぁ。」

また窓の外に目を向ける。

「・・・ねえラウル。」

「ん、どうしたの。イズ。」

「・・・飽きないの?」

「全然飽きないよ!だって初めて列車に乗ったんだもん。」

「そう・・・でもナナシから聞いてほしいことがあるんだって。」

「そうなの?」

「うん。だから一旦こっちに向いて。」

「分かった。」

イズとナナシの方に向き直る。

「ナナシ、話していいよ。」

「分かりました。では自律型AI24の自己防衛機能についてお話ししようと思います。」

「・・・ちょっと待って。」

「どうしました?イズ様。」

「なんであなたが自己防衛機能のこと知ってるの。」

「それは自己防衛機能の存在、もしくは自己防衛機能の内容、どちらのことを言っておりますか?」

「どっちも。」

「前者は簡単なことです。私は博士にデータを送られたからです。」

「・・・」

黙っているイズの方を見てみる。なんだか誰かを恨んでいるような顔だった。

「後者は自律型AI試作24の自己防衛機能と繋がるので話しながら説明しようと思います。」

「そもそも、自律型AI試作24は実体を持っていませんでした。ですがどういうわけか研究所の制御室を乗っ取り、研究所自体を自身の体にしたんです。なんで自律型AI試作24は研究所の自己防衛機能の使用しているので知っているというわけです。」

「・・・」

依然として黙っているイズをもう一度見てみる。なんかもう呆れている顔をしていた。

「研究所の自己防衛機能は12体存在しており、その12体はそれぞれ強力な能力を持っています、ですがそれぞれの能力は知りません。そして12体にはそれぞれの領域があります。」

「本体を中心とし、円形にジェヘナ、ヘヴン、キラ、ディータ、ボルクス、ホト、ピース、オルソ、カルク、コクウ、コルツァ、アガテとなっています。」

「おそらく地下世界に降りるとそこはアガテの領域になっていると思われます。」

「・・・」

「理解しましたか?ラウル様。」

「え、あっはい!分かりました。」

本当は分かってないけど・・・多分大丈夫なはず。

その時だった。

ピーンポーンパーンポーン

上からチャイムが鳴った。

「まもなく到着致します。」

「どうやらもうそろそろですね。」

ナナシさんがそう言う。

「あ、あの。ナナシさん。」

「どうかされましたか?」

「そういえばずっと聞いてなかったことがあって、地下世界ってどんなふうになっているんですか?」

僕のその疑問をナナシさんが聞いた時、ナナシさんは瞬時にイズの方を向いた。

「・・・イズ様、まさかなにも教えていないのですか。」

イズが顔を横にする。

「・・・私、話すの苦手。」

小さな声でそう返ってきた。

「・・・はあ。」

ナナシさんが僕の方に向き直る。

「すみません、イズ様が不器用なまでに。」

「い、いえ、今更聞いた僕が悪いんですから。」

ピーンポーンパーンポーン

またチャイムが鳴る。

「到着1分前です。」

「・・・教えるより実際に見てもらった方早そうですね。ラウル様。」

「あ、はい。」

「外をよく見ててください。」

「分かりました。」

ナナシさんに言われた通り窓から外を見る。

「まもなくです。」

ガガガガガーーーーー

ドリルの掘削音止まった。


最初に見えた光景はまるで星空のようにたくさんの光が暗闇の中に散らばっていた光景だった。

だがその光景も長く続かない、ノイズ号が光を発し、全貌が見えた。

それはこの世のものとは思えない光景だった。

四角く長い建物が地面と天井一面に建っている。

「・・・」

言葉がなにも出ない。

「これが地下世界です。」

なにも喋れない僕に配慮したのかナナシさんが説明をしてくれる。

「この星はほとんどが海で出来ており、人々が住める土地があまりありませんでした。ですので、空に第2の地面を作り、新しい土地を手に入れたのです。ですが、地上世界建設にあたって第2の土地の上の建築は邪魔だと判断し、潰されてしまいましたが・・・」

僕はナナシさんの声がほとんど届いてなかった。

なにせこんな光景、一度も見たことがなかったから。

けれど、それも長くは続かなかった。

ベチャッ

「わっ!」

僕の見ていた窓の外からなにかがぶつかる音がした。

「どうやら自己防衛機能No.12、アガテのようです。」

倒れた腰を上げてもう一度外を見てみる。窓になにか赤黒いものが付いていた。

「あれはマグマですね。ということはアガテの能力はマグマですか。」

「まぐま?」

「はい、触れば火傷どころではすまないほど熱い物質です。」

「とりあえずここは一旦逃げ」

ピーンポーンパーンポーン

上からチャイムが鳴る。

「車体が攻撃されました。車体が攻撃されました。プロテクションモードに移行します。」

そんな声が聞こえたと思ったら外が一瞬光った。

「な、なに。」

「保護結界を張ったようです。外を見てみてください。」

言われるがまま外を見てみる。するとマグマが空中で止まっていた。

「す、すごい。」

「ですがこの保護結界も一時的なものでしょう。」

ナナシさんが列車の前へ走っていく。

「すぐに安全なところへ行けるよう設定してきます。イズ様とラウル様はそこでお待ちください。」

ナナシさんはそう言い、ここを離れた。

それから数分後、列車が動き出した。

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