第20話 sideレイ

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レイは大学に通いながら、いくつか演技の仕事をもらうことができた。タクヤの口添えで小さな仕事をもらいつつ、そこで出会った監督やスタッフに気に入ってもらえたりと仕事の幅を広げていった。しかし、タクヤを経由して仕事をもらうのは、少し自尊心が傷ついて、重圧にもなった。彼に頼ってしまっていることと、下手をすればタクヤの評判を下げることになる。あんまりやりたくないと正直に告げると、タクヤは眉間にシワを寄せて口を尖らせた。

「俺はレイの話を出しただけで、実際起用しようとしてるのは監督だ。チャンスがあっても次に繋げられるかどうかはお前次第だろ。つか、やれ。『はい』以外聞かねぇからな」

フンと鼻息を吹いて、タクヤはそっぽを向いてしまった。仕事に対してレイが後ろ向きになると、タクヤは途端に嫌な態度を取ってくる。相変わらず子供のようで、面倒くさい男だ。

「わかった。俺のために、ありがとう」

こういうときは素直に礼を言ったほうが良い。タクヤと暮らす中で学んだ彼の扱い方だった。案の定、タクヤは満足気に笑ってレイに向き直る。

「どーいたしまして♡どーせぐちゃぐちゃ考えてヤダとか言ったんだろ?お見通しだっつの。俺に遠慮すんなよ。お前が失敗したとこでなんともなんねぇし。あとな、俺から仕事もらってるとか、卑屈なこと考えんな。演技に関しては、お前のことライバルだと思ってんだからな?」

どうやら扱い方を覚えたのはレイだけでなく、タクヤも同じらしい。レイの悩みは見抜かれていた。見抜いた上で、タクヤはレイの不安を取り去っていった。上機嫌なタクヤに、レイは耳まで熱くなった。あのタクヤにライバルと言ってもらえるなんて、思いもしなかった。そんな言い方はずるい。レイは柄にもなく舞い上がってしまった。

「…ほんとに、ありがとう。頑張る」

「お…おぉ…?」   

目が合わせられず顔を背けたままのレイは、改めて心からの礼を伝えた。


それからなんだかんだと理由をつけて同棲を解消させてもらえず、何度か引っ越しもしながらレイはタクヤと暮らしている。まだまだ経験は少ないが演技の仕事は楽しくて、レイは演技をもっともっと学びたかった。


二人の夢と今後を考えてのツインズの解散。マリアはもう少し推させてほしいとお願いされたが、二人の夢を語るとすぐに納得してくれた。

「若い子たちの夢…応援してあげないとね。嫌だわ、二人が成長して、嬉しいのに泣けてきちゃう。年取るって、やぁね」

マリアは本当に涙を流してマイとレイの解散を惜しみ、夢を応援してくれた。マイとレイは、本当に周囲の人間に恵まれた。

「手伝えることがあったら何でもいってちょうだい。お姉さん、いつでも力になるから」

泣きながら微笑むマリアに、レイは涙を滲ませて頷いた。真横から鼻を啜る音が聞こえて、見ると、マイは鼻水を垂らして号泣していた。

「おでっ…おで、マリアさんに、いっばい、頼っ、でっ…これからも、マリアさん、大事な、俺の先生、で、」

きっとマイはメイク以外の部分でもマリアを頼って信頼しているのだろう。レイも、優しくて包容力のあるマリアを信頼していた。

「あた、アタシ…俺も、マイのこと…なによりも、大切、よ。ずっと、ずっと…傍に、いさせて、ほしい…」

「っ…まっ、マリア、ざぁんっ…!」

マリアはマイを優しく抱きしめる。二人はきっと、メイクの先生と生徒以上の関係だ。これからも関係が続いていくといい。レイは二人を見て強く願った。レイはマイにティッシュを手渡しながら思った。

(俺、邪魔じゃないか…?)

気まずいレイは気配を消してティッシュを二人に渡し続けた。

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