第21話 sideツインズ

sideツインズ


ツインズ解散から7年。

映画の初日舞台挨拶を終えたレイは事務所に戻ってきた。社長室を尋ねると、電話中だったマイは勢いよく椅子から立ち上がってレイを出迎える。

「おかえり、レイ!お疲れ様!」

「ただいま。電話、大丈夫か?」

「悪ぃ、ちょっと待って…もしもし?レイが帰ってきました」

レイはソファに腰掛けて電話が終わるのを待つ。話し相手は社長のようだ。

マイは今、所属事務所だったアリスマジック芸能事務所の副社長として働いている。表舞台から降りて社長の元で働くうちに、マイはいつの間にか副社長というポジションにおさまっていた。社長は、ゆくゆくはマイに事務所を任せたいそうだ。

副社長として営業から所属タレントのマネージメントやケアまで行うマイは多忙だが、充実した日々を送っている。アイドル時代の繋がりやらを駆使して新たな仕事を取ってくるマイは事務所の成長にも大きく貢献していた。

マイとレイが地下アイドルをしていたころから比べると事務所の大きさも所属タレントの数も桁違いになっていた。

レイは俳優として仕事を着実に増やし、今や大きな役をもらえる程になった。主役を演じたこともある。事務所の稼ぎ頭だ。

「早速で悪いんだけど、社長から伝言。『舞台挨拶、よく喋れてた。次は連作映画の準主役よ!』だって。近々だけど来週から顔合わせ…スケジュールきつくなるけど、大丈夫そうか?」

「大丈夫だ。今はタクヤがいないから、家に帰れなくても問題ない」

驚くことに、レイとタクヤの同棲はまだ続いていた。最近は仕事ですれ違いばかりの生活だが、時間が合えばレイがタクヤの好物である茶色飯を作って提供している。レイの仕事が忙しくなるとタクヤから何時に帰るのか休みはいつかと鬼のように連絡が来る。仕事が忙しいことを喜んでいくらでも仕事は受けろと言うが、それとこれとは話が別らしい。休みが合う時はタクヤに予定をねじ込まれた。

今タクヤは海外でPVの撮影を行っている。レイはのびのびと一人暮らしを満喫していた。最近は後進の育成にも力を入れているが、本人もパフォーマンスがしたくて仕方がないらしい。トップの座を、まだ譲る気はないようだ。

マイは恐る恐るレイに尋ねる。

「んん…あの、レイ。タクヤとはやっぱり、その…どうなんだ?なんていうか、そのぉ…」

「マイは、マリアさんとどうなんだ?」

「ん"っんふっ、うんっ?…なんで、マリアさんが出てくるんだよ」

マイはあからさまに口ごもった。

マリアは変わらずヘアメイクを続けており、レイもお願いするようになった。事務所から料金を支払っているが、ツインズの頃と比べると恐ろしいほど値上がりした。というのも、ツインズの頃が破格すぎていたようだ。社長から聞いた話だが、ほとんど趣味でツインズにメイクしに来てるから、という理由で格安でヘアメイクを行ってくれていたそうだ。


後になって知ったことだが、マリアは国内外からも評価が高いメイクアップアーティストで、本来ツインズがヘアメイクをしてもらえるよな人ではなかった。しかし今は相当の金額を提示してもらい、改めて契約を結んでいる。レイ以外の所属タレントのヘアメイクやメイクを依頼することもあった。

そんなマリアとマイは今も公私に渡って交友があった。マリアは自身で事務所を構えている。職種は違えど経営者としての仕事の仕方や考え方など、マリアとの話はとても参考になった。マイが迷った時は、マリアが優しくアドバイスをしてくれる。メイクに限らず様々なことをマリアに相談していて、マリアはマイにとってのメンターのような存在でもある。

タクヤとレイほどではないが、時間を合わせづらい中、マリアは時間を作ってマイに会ってくれていた。マイもまたマリアのための時間は無理をしてでも空けるようにしている。守秘義務のある部分は伝えられないが、どんな仕事が取れたか、それがどれだけ大きく事務所に貢献できるか。そんな話を、マリアは優しく微笑んで聞いていてくれた。

マイは優しいマリアについ頼ってしまうが、マリアは笑って答える。

『頼ってくれていいよ、嬉しいから。最近はマイに頼りがいがありすぎて、置いていかれそうで、怖いんだけどね。頼ってもらえるように、アタシもまだまだ頑張るわ♡』

マリアはマイの成長を聞いて、時折寂しそうにする。しかしはるかに喜びが勝るようで、激しいスキンシップを繰り広げてくる。最初は驚いたが、今ではマリアに触れてもらわないと物足りなく感じるようになってしまった。これは良くないことでは?と思いつつ、マイはマリアに喜んでもらうためにも、仕事もプライベートもより成長できるよう邁進している。


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