第11話 sideマイ
side マイ
社長に呼び出されたのは謹慎から一ヶ月が経ったときだった。再来月、復帰のステージ行う。それまでにダンスと歌を仕上げるようにという社長命令が下された。久しぶりに、マイとレイは顔を合わせた。事務所の応接室で二人は向かい合って座っていた。
「最近どうだ?その…元気だったか?」
「久しぶりに再会したお父さんか」
「んん…ごめんな、やっぱ色んな噂が気になっちゃって…ほら、タクヤと、その…」
「俺はただの居候で茶色飯とか言われる関係だ。それ以上でも以下でもない」
「茶色…?なんかわかんないけど、大丈夫なんだな?」
「むかついたから土下座してもらった」
「どげっ…大丈夫なのか?colorSのタクヤだぞ?大丈夫な関係か?それ」
「大丈夫だ。若干喜んでいた」
それは大丈夫な関係ではないとマイは思った。やはり二人は噂の通りお付き合いしているのではないか。お付き合いどころかとんでもないプレイを共有している関係なのではないのだろうか。これ以上深堀りすると良くない気がするので、マイは話題を変えることにした。
「次のステージ、どうする?女装で出る、でいいよな?」
「当然だ。歌とダンスのレッスンも予定を合わせよう」
どの歌をどの順番で歌うのか、二人はいくつか案を出す。しばらく話し合い、あれこれと案を出していった。久しぶりのステージのことを考え、お互い沢山の意見が出た。レイも次のステージを楽しみにしていたようだ。やはり、ファンと触れ合えるあの空間に立てると思うと、お互い高揚してしまう。
「あのさ、俺、メイクの先生ができたんだ。レイも会わないか?」
しばらく話し合ったあと、マイはマリアのことをレイに提案した。マイはあれから何度かマリアの元を訪れていた。最初よりも艶っぽいメイクから笑いを誘うようなメイクまで。マリアはぜひレイもメイクをしてみたいと言っていた。実際にメイクをしてもらい、次のステージに生かしたいと思っていた。
「それは、ぜひお会いしたい。メイクを教えてほしい」
「良かった。マリアさん、て言うんだけど、予定聞いてみるよ」
レイは前のめりになって答えた。雑誌や動画でメイクの練習をしてみたが、男が女装をするとなると似合うメイクがどんなものか正解がわからなかった。それはレイも同じだったようだ。レイはメイクなしでも女性と見間違えるくらい儚げで綺麗な顔だ。しかしマリアの手が加わればもっと美しく女性らしくなるはずだ。想像しただけでマイはワクワクと心躍った。早くマリアに会わせたい。マリアの手で変身していく驚きと楽しさは自分が経験済みだ。
「レイさん、そろそろ」
「はい」
ノックのあと、見知らぬ男性が応接室に顔を出し、すぐに姿を消した。
「タクヤの事務所の人だ。もう帰らないと…また連絡する。メイクの件、絶対だぞ」
レイは念を押して応接室を出ていった。マイは早速マリアに連絡を入れた。
マイはマリアに呼ばれてスタジオに来ていた。ドラマの撮影現場だそうだ。アイドル仕事の参考になるかもしれないとマリアが招いてくれた。助手として現場に入れてくれるそうだ。メイクだけでなく色々と気にかけてくれるマリアに、マイはすっかり懐いていた。どうしてこんなに良くしてくれるのか。聞いてみたら、頑張ってる若い子は応援したくなる、と微笑んでくれた。優しいマリアにマイはすっかり心酔してしまっていた。今日はレイのことも相談するつもりなので、前日から気分が上がってしまっている。
「マリアさ、ん…」
今日はマリアのアシスタントということで、女装をしてメイクも自分で施して来た。マリアに教えられた少し甘めのメイクだ。待ち合わせ場所に立つマリアに駆け寄ると、マリアは目を丸くしていた。マリアはカツラをとった短い髪と、薄いメイクにジャケットにパンツ姿だった。マリアは女装の時も、そうでない時もある。この姿を見たのは初めてではないが、女装ではないマリアにマイは青ざめた。
「ど、どうっすかね、このメイク」
「…どうしましょ、とっても、とぉっても、可愛いわぁ…」
マリアは口元を両手で抑えて目を潤ませて震えていた。本当に感動している時のマリアの仕草だ。
「でも、マリアさん、女の人の格好じゃないんですね…まずいっすよね、俺がこの格好じゃ…どっかで、着替えて」
マイはマリアが女装で来ていると思い込んでいた。それなら自分も女装で行ったほうがいいだろうと思ったのだがとんだ誤算だった。マリアが男装しているなら、アシスタントのマイも同じように男の格好をするべきだと思う。この格好で、マリアの仕事場で迷惑はかけられない。
慌てて踵を返すマイの腰を、マリアの腕が捉えた。マイが振り返って見上げると、マリアは優しく笑った。
「大丈夫。俺と一緒なら、可愛い女の子にしか見えないよ」
女装をしていないけど、笑顔はいつものマリアだ。確かに体格の良いマリアといれば、マイが女の子に見えなくもないかもしれない。マリアに手を取られ、マイは赤くなってうつむいた。
(今更だけどマリアさん…めっちゃイケメン?)
マイはマリアにエスコートされつつ、スタジオに入った。
スタジオの中には様々なセットが組まれていた。いくつかの部屋が、壁を隔てて設えられている光景に、マイは圧倒されてしまった。
「今日のクライアント様は…」
「お、マリオ~今日は女装じゃねぇの?」
マリアが辺りを見回すと、男に声をかけられた。チャラくて軽いその声の持ち主は、レイと同棲しているcolorSのタクヤだった。
「マリオじゃねぇっつってんでしょ」
「男の格好だからマリオっしょ~楽屋あっちな」
マリアとマイはタクヤについて歩く。謹慎前のネット番組の撮影現場で会っているが、タクヤはマイを忘れてしまっているようだ。すぐにタクヤの楽屋についた。
「…マイ?」
「えっ、レイ!?なんでここに…つか、大丈夫か!?」
タクヤに連れられて部屋に入ると、中には青い顔でソファに横たわるレイがいた。レイは大きな目を丸くしてマイを見ていた。
「タクヤに、連れてこられて」
「スタジオにビビって腰抜かしたんだよな。こっちがビビったっつーの。すごいすごいってキョロキョロしてんなーと思ったら突然カクーンって…ここまでくんの、苦労したわぁ…つか、お前、レイの知り合い?」
「あらあら、やだぁ!こんなところでお姫様抱っこ?また色々書かれちゃうんじゃなぁい?」
「姫抱っこできるわけねーだろ!細いけどコイツ、俺と身長変わんねぇし…ガチムチのお前と一緒にすんじゃねぇよ、ゴリマッチョ」
「だれがゴリマッチョだクソガキ」
マイはマリアとタクヤのやり取りを見守った。二人はかなり親しい間柄のようだ。レイは二人を見ることもなく、ひたすらマイを見つめ続けている。
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