第25話 命を注いだ一撃

 一人飛び出したセンリは俺の命令通り、持ち前の素早さを活かして鋼人形ゴーレムを翻弄する。


「小癪なッ!!!」


 鋼人形ゴーレムの攻撃、その破壊力は恐るべきものだ。


 だが、それも当たらなければどうということはない。


 あの巨大な獲物で床や壁を縦横無尽に駆けるセンリの体を正確に捉えるのは、その巨体も相まって流石に一筋縄ではいかないだろう。


 こちらへ向かって飛んでくる攻撃については引き続きプラテアに引き受けてもらうとして、このまま二人が上手く時間を稼いでくれることを願って俺は手元に視線を移す。


 「俺も、やれる事をやらないとな」


 そうして俺は手元に残った一枚のカードを使用した。


 その瞬間、俺の身体に稲妻の如き衝撃が走る。


「グウッ……アッ……!」


「ちょっと! どうしたの!?」


「な……、何でもない。いいから、そっちは魔法の準備を頼む!」


 何でもない、というのは全くの嘘。


 たった今発動した呪いのカードによる代償が俺の身体を蝕んだせいで、思わず声に出てしまった。


 息を吸えば酸素と共に残留する痛みが全身を巡る。心臓の鼓動すら、今の俺にとっては爆発と同じだ。


 もしかしたらと予想はしていたが、やっぱりこうなったか。けど、どっちみちもう後には引けない。


 俺は俺の全力を以て、この決闘デュエルに勝利する!


「――準備完了ニャ! ご主人!」


 痛みでぼやける視界の奥、鋼人形ゴーレムの周囲を駆け回っていたセンリがこちらに合図を送ってくる。


「スリィブ、そっちはどうだ……!?」


「いけるわ!」


 なら、これで全ての準備は整った。

 

「よし――いくぞ! 魔法マジック発動!」


「貴様、また何か企んでいるな! そうはさせ――ヌゥア!!?」


 俺の宣言と共に鋼人形ゴーレム周辺の地面が一斉に爆ぜる。


魔法マジックカード、『新兵殺しの地雷ニュービー・トラップ』……。相手の攻撃力1500以下の妖怪スペクターを全て破壊するカードだ」


「どこまでも、小癪な……。だが、これしきの威力では我には通じぬ!」


 そんなことは分かってる。コイツの攻撃力は確実に1500以上はあるだろうからな。

 

「だから、この魔法マジックはお前に向けたものじゃない……」


 迷宮ダンジョンの床を粉砕する威力を持つパンチ。そして第二形態と言わんばかりの巨大剣による衝撃波。


 迷宮の番人にしては、アイツは守る対象を随分雑に扱っていた。


 巨大剣を取り出す時も床をぶち抜いていたし、極めつけはセンリを倒そうと何度も何度も自分の周りに攻撃を叩きつけていた。


 そんなに自慢の高火力を集中させれば、当然場にはが待っている。


 ――それこそ、俺達の狙い。


「この魔法マジックが破壊するのは、お前自身のフィールドだ!」


 鋼人形ゴーレムの周囲一帯を巻き込んだ爆破により、相手の場は地響きを上げる。


 床の罅は別の罅へと繋がり、やがて大きな割れ目となってまた別の割れ目と繋がっていく。


 そうして訪れる崩壊の波はあっという間に鋼人形ゴーレムを取り囲み、ヤツが立っている為のフィールドを完全に破壊した。


「――グォアァァァァァ!!?」


 崩壊した床に足を取られ、鋼人形ゴーレムの下半身が完全に床下へと埋まる。


 それでも何とか脱出を試みるが、ご自慢の鉄壁ボディと大剣のせいで思う様に身動きが取れないでいた。


 これで相手の動きは完全に封じた。反撃はない。


 これで俺にやれる事は全部やった。


「後は任せたぞ、スリィブ!」


 呪いの影響で薄れつつある意識をかき集め、望みを託す。


「――分かったわ!」


 そうして発射態勢に入った彼女の手には水の塊が生み出される。


 やがてそれは両の手のひらでは覆いきれない程の大きさまで膨張した。


 出した本人も驚いていたが、無理もない。何せ、俺のを注いだ一撃なのだから。


「――水穿の槍アクア・ハスタ!」


 そうして生み出された全身全霊の一撃は身動き一つ出来ないでいた鋼人形ゴーレムのコアを見事撃ち抜き、完全に破壊した。



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