第23話 ループに入ります

「えぇーーーーーーッ!!??」


 背後でスリィブが驚愕の声を上げる。


 鋼人形ゴーレムも咄嗟の出来事に驚いたのか、振り上げていた拳を俺に叩きつけることなく元の位置に下ろした。


「よし、これで手筈は整ったな」


「それじゃ、ここからループの説明に入ります」


「「「……ループ?」」」


 センリ以外の三人が同時に首を傾げた。


「『ビビり弾』、コイツは場に他の妖怪スペクターがいるとその時点で破壊されます。そして場の『看取り図』は自身の妖怪スペクターが破壊された時に山札からカードを一枚引くことが出来、更に墓場の妖怪スペクターを一体回収する代わりに手札のカードを一枚墓場に送ります。この能力で『ビビり弾』を墓場から回収し、再度召喚。これを山札が二枚になるまで繰り返します」

 

「……なぁ、さっきから奴は何を言っているのだ? あんなに早口で……」


「…………さぁ?」


 鋼人形ゴーレムとスリィブが顔を合わせて困惑した表情を浮かべる中、俺は手順通りカードを使用して山札をひたすら墓場に送っていく。


 といっても、墓場に送られるカードは自動で消滅するし、回収する際も対象のカードを思い浮かべるだけでいい。


「そして山札が二枚、手札に『遥か遠き道 リンネ』がある状態で『ビビり弾』を召喚し、爆散。『看取り図』の効果で山札からカードを一枚引き、『ビビり弾』を回収。代わりに『遥か遠き道 リンネ』を墓場に送ります。『遥か遠き道 リンネ』は墓場に送られると自身を含めた墓場にある全てのカードを山札に戻してシャッフルする効果を持っているので、これで最初の盤面に戻ります。これで俺はむげん回墓地にカードを送れるようになりました」


「……それが何だというのだ? ただただ己の手下を無意味に死なせているだけではないか」


「いや、無意味なんかじゃない」


 こうして話している間も『ビビり弾』は爆発四散を繰り返し、カードを墓場に送っている。このが何よりも重要なのだ。


「場に出している『怨恨の小剣士』は妖怪スペクターが場から墓場に送られる度、攻撃力が700上がるという能力を持っている。つまり――」


「「つまり?」」


「『怨恨の小剣士』はむげんの攻撃力を手に入れた――ってことだ! 行け!」


 俺の召喚した幼い剣士は不釣り合いな剣を引き摺りながら鋼人形ゴーレムへと近づく。


「フン。お前がどの様な小細工を弄していたか知らないが、この我の鉄壁なる体に傷を付けることなど出来る訳が――」


 ――ビリィ!!!


 年若い剣士の袖が突如として弾け飛んだ。


 そして筋肉の波が勢いよく押し寄せ、ボディビルダーの如きムッキムキの腕が姿を現した。


 この変貌には流石の俺も予想外過ぎて言葉が出ない。てっきり何か強そうなオーラとか纏うものかと思っていたのに、まさか物理的に成長するとは。しかも片腕だけという。


 だが、この様子からして『怨恨の小剣士』の能力はちゃんと機能している。これなら、あのゴーレムも倒せるはずだ。


「え、『怨恨の小剣士』の攻撃! ――怨衝苦斬えんしょうくざん!」


 俺の命令を受けた『怨恨の小剣士』は拳と比べて豆粒サイズになってしまった己の剣を何とか鞘へ納めると、目標となる鋼人形ゴーレムをその目で捉え、再びその剣身を抜き放った。


 剣身は見事な放物線を描き、鋼人形ゴーレムへと迫る。


 が、剣が鋼人形ゴーレムの体を捉えることはなかった。


 ……だって、剣より拳の方が何十倍もデカいんだもん。


「――お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!??」


 鋼人形ゴーレムは『怨恨の小剣士』による斬撃を食らうより先に、その限界まで発達した筋肉の餌食になり、迷宮ダンジョン全体を揺るがす衝撃と共に壁面へと叩きつけられてしまった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る