第22話 紅い光の鉄仮面

 装備の調達が済んだ俺達は再び迷宮ダンジョンの入口へと足を踏み入れた。


 とはいえ、一度は出る為に通った道だ。内部の構造は粗方種が割れているし、逃げる際にスリィブが罠の殆どに引っ掛かっていたこともあってか、その企みも完全に露見している。


 あれだけちょっかいをかけてきた群餓鬼ゴブリン達も今のところ鳴りを潜めているし、他に何かが襲いかかってくる気配もない。攻略は想定よりも遥かに順調だった。


「けどこの迷宮ダンジョン、厄介なのがあの群餓鬼ゴブリンと罠だけなら既に誰かが踏破しててもおかしくないよな」


「えぇ。ゴブリンや罠だけなら、ある程度実力のある冒険者パーティなら簡単に攻略できたと思うわ」


「ということは、何か他にも問題があるのですか?」


 プラテアの問いに対し、スリィブはその首を縦に振って答える。


「この迷宮ダンジョンの最深部には、鋼人形ゴーレムがいるの」


鋼人形ゴーレム……って言うと、土や鉱石で出来ている、人間を模した人形ってイメージが強いが……合ってるか?」


「えぇ。……けど、ここにいる鋼人形ゴーレムは普通じゃないらしいの」


「と、いうと?」


「武器も魔法も通用しない、何をやっても傷一つつかない鋼人形ゴーレム。そう噂されているのよ」


 無敵……だと?


「――話はそこまでにするニャ」


 先頭を歩くセンリが尻尾で前方を指し示す。


 大きく開けた空間の中央、艶やかな光沢を放つ金属の身体を持った巨影が片膝をついているのが見える。


「あれが、鋼人形ゴーレム……」


 遠く離れたここからでも十分に伝わる圧倒的存在感。正しくこの迷宮ダンジョンのボスといった感じの雰囲気だ。


「――よし、行くぞ」


 意を決し、俺達は開けた空間へと足を踏み入れる。


 ――ピカッ!


 足が床に触れた瞬間、その鋼の肉体に命が吹き込まれた。


 重厚な肉体が意思を持って動き出し、影の差していた鉄仮面にも紅い光が灯る。


「我、迷宮の番人なり。命惜しくば、くこの場から失せよ」


 立ち上がった鋼人形ゴーレムは俺達を上から見下ろし、赤い眼差しをこちらへと向ける。


 その圧たるや、これまで感じたことのないものだった。


 これは正真正銘、互いの全身全霊を掛けた命がけの決闘デュエル


 こちらもその覚悟は既に済ませている。それに、戦わずに負けを認めるなんて絶対にありえない。


 俺の意思を態度から察したのか、鋼人形ゴーレムは隕石の如き握り拳をこちらへと繰り出した。


 拳は俺の身体スレスレを通過し、激しい風と衝撃を伴って迷宮ダンジョンの床を粉砕する。


 反射的に後ろへと飛んだのが功を奏した。ちょっとでも躊躇したら今頃あの世行きだった。 


「ちょ……、ちょっと待ってよ……。こんなの、一体どうやって倒したら……」


 鋼人形ゴーレムの強さを目の当たりにしたせいか、スリィブの顔色が段々と青ざめていく。


 プラテアやセンリの表情も強張り、場に緊張が走る。


「お前より、そこの娘の方が幾らかは力の差を弁えているようだ。我も背を向ける相手に拳を向ける気は無し。お前もく娘と共に――」


「今のパンチでお前のターンは終了か?」


 相手の攻撃が終われば、次に回ってくるのは――。


「なら、ここから先はだ」


 俺が念じた瞬間、腰に着けたポーチから五枚、一枚と紙が飛び出して手の中へ収まる。


 このハンド(※1)なら……いける。


「――俺は『怨恨の小剣士』を召喚し、魔法マジックカード『看取り図』を発動!」


 俺の宣言によって掲げた二枚のカードが眩い光に包まれて消滅し、地中から『怨恨の小剣士』が、空中から『看取り図』が場に召喚される。


「……ほう、屍術師ネクロマンサーか。だが、その軟弱な手下共で我を倒せるとは思わないことだ」


「そ、そうよ! あの鋼人形ゴーレム相手じゃ……!」


 スリィブの懸念は正しい。『怨恨の小剣士』の攻撃力は通常で200。到底敵うはずがない。


 だが、カードゲームとは総じて、単純なステータスで勝敗が決する程単純じゃない。


「更に『ビビり弾』を召喚!」


「流石にこれだけではなかったか。だが幾ら手下を束ねようとも、我が渾身の一撃で葬ってくれよう!」


 そうして鋼人形ゴーレムは拳を振り上げる。


「――いや、コイツは」


 『ビビり弾』は場に出た途端、自身の体を急速に膨張させる。


「ただの自爆要員だから」


 そして限界まで体を膨らませた『ビビり弾』は派手な爆発と共に木っ端微塵となった。


 


【注釈】


 ※以下は本作における各単語の意味を掲載するものであり、本来の用途とは異なる場合があります。


(※1)「ハンド」→手札のこと。手札にあるカードが強い時には「ハンドが強い」等と表現することもある。



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