第20話 宝箱

 背中も軽くなったことで、今度は彼女に先導してもらって宿へと向かう。


 脇道は薄暗くて少々不気味だったが、幸い特に何事もなく目的の場所へと辿り着けた。


 外観は多少整っているが、それ以外は他の建物と大して変わらない。それよりも気になるのは立地だ。こんな町の隅で営業して客は来るのだろうか。


 そんな事を思ってる間にもスリィブが宿の扉を開いて中へと入っていった。俺達も連れられて中に入る。


 宿の内装は綺麗だが至ってシンプル。正面には宿主がいるカウンター、一角にはテーブルと椅子が幾つか置かれており、二階にはおそらくだが宿泊者用の部屋があるのだろう。


 宿としての機能はきちんと満たしているが、逆にそれ以外は何もない。飾り気のない宿だった。


「――おう、帰って来たか。おかえり」


 カウンターで肘をついていた中年の宿主がこちら……というより、スリィブを見てその強面の表情を崩す。

 

「……ただいま。ちょっと部屋借りるね」


「おう、いいぞ」


 宿主の許可も貰い、俺達はスリィブの泊まる部屋へと入る。


 中は思ったよりも片付いているというか、そもそも物があまり置かれていなかった。


 取り敢えず部屋に備えられている椅子と、それだけでは足りないので半分はベッドに腰掛けて話をすることにした。


「それで、さっきのことだけど……疫病神ってのは?」


「私が皆からそう呼ばれてるの。剣も魔法も上手く使えないし、ドジだからパーティの足を引っ張るって」


「さっきの人達も似た事を言っていましたね」


「だからって、あんなに毛嫌いされるか? 相性だってあるだろうし、偶々そいつらとは馬が合わなかっただけって可能性もあるだろ?」


 俺の返答にスリィブは頷く。が、その表情は依然暗い。


「実力や相性だけの問題ならまだ良かったんだけど……私、昔から運が悪くて、いつも厄介事を招いちゃうところがあるみたいなの」


「「「あぁ…………」」」

 

 何となく察しがついた。


 一緒にいるだけで大量のゴブリンに追い回されたり、大量の罠が襲ってくるような奴がパーティにいればそりゃ何をするにしても邪魔になるって訳か。


「そこまで来ると、お前もう冒険者向いてないんじゃないか?」


 その一言を口にした瞬間、机に手を置く音がバンと部屋中に響き渡った。


「……向いてないのは分かってる。これまで何度も何度も、聞き飽きるくらい同じことを言われてきたもの」


「――けど、それを承知で私は冒険者になったの! ……冒険者になって、を手に入れる為に」


 宝箱って、俺が入れられてたアレのことか。


「その宝箱って、本来は何が入ってたんだ? 財宝?」


「中身は決まってないわ。財宝が入っていることもあれば、魔物が入ってることもある」


「そして宝箱の中には『開けた人が望んだ物』が入ってる宝箱があるらしいの。――私は、それが欲しい」


「宝箱を手に入れて、馬鹿にしてきた奴らを見返して、私は私の望む物を手に入れるの! その為にも、まずはあの迷宮ダンジョンを攻略しないと……」


 そう語るスリィブの眼には強い意志が宿っていた。



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