第19話 約束された安寧

 彼らに案内されながら森や草原を歩き、俺達は念願の町に辿り着いた。


 活気づく町々。当たり前に行われる人の営み。約束された安寧。


 人が暮らしているというだけでこれだけの安心感を得ることなんて普通はないだろう。


 ただ、それを含めても俺の気分は今すこぶる悪い。


「俺達は用があるから案内はここまでだ。一応忠告しておくが、ソイツと組む気なら止めといた方がいいぜ。じゃあな」


 そう言い残し、冒険者達は先に町の中へと入っていった。


「……何だアイツら」


 本人が聞いていないのをいい事に寄って集って陰口叩いて馬鹿にするとか、性格悪すぎだろ。


 そういう奴がいるっていうのはどこの世界でも変わらないもんなんだな。


 ――ギュッ!


 背中から首元に回された腕がいつの間にか俺の服を強く握りしめている。

 

「……いつから聞いてた?」


「……おぶってくれた時から……」


「最初からじゃねぇかよ」


 人の服をそんなに濡らしやがって。


 道案内してもらう立場だから黙って聞いてたけど、こんなことなら引っ叩いてでも止めれば良かったな。


「それで、疫病神って結局何ニャ?」


 どう切り出そうか悩んでいるところを横からセンリがズバッと切り込んだ。


 一見無神経な様にも思えるが、あれだけ目の前で話をされておいて興味を持たない方が不自然というものだ。変に話題を避けて腫れ物扱いすれば、彼女を余計に傷つけるかもしれない。


 センリはそこまで考えて……いや、それは流石に考え過ぎか。


「まずはゆっくり腰を下ろせる場所を探そう。話はそれからだ」


「……それなら、近くに私が泊まってる宿があるから、そこで」


「分かった。二人もそれでいいな?」


 センリとプラテアは同じ様に首を縦に振る。


「よし、それじゃ行くか」


 改めてスリィブを背負い直す。


「私、もう歩けるから降ろしてくれても……」


「降り落とされない様にしっかり掴まってろよ。くらいにな」


「…………うん、分かった」


 そうして俺達は町の中へと入り、スリィブの借りている宿に向かった。

 

   * * * 


 初めて訪れる町。ついつい周囲を見渡してしまう。


 如何にも中世ヨーロッパっぽい雰囲気を漂わせる建物の間を現代の街中ではまず見かける事のない荷馬車が通っていく。


 明らかに文明自体は元の世界より劣っているが、一周回って何だか目新しさを感じる町並みだ。


 生活している人達の服装もシンプルで実用的な物が多く、ファッション社会となっている現代とは大きな違いを感じさせる。


 そうして見渡している間にもスリィブの案内の元、どんどん街中へと進んでいく。


 宿は町の大通りから少し離れた場所に位置しているらしく、今は比較的人の少ない通りを歩いている。


「そこの脇道に入って少し歩けば宿よ。ここからはちゃんと歩くわ」


「そうか」


 声色も元に戻ってきてる。少しは落ち着いたらしい。


 彼女の要望に応えるべく、身を屈めて足を地面に付けてやる。


「……さっきは、ありがと」


 背中から離れる直前、彼女はそう言い残していった。



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