第18話 外の明かり

 何が起きるか分からない脅威と共に進み続けること数時間。足も心もボロボロになってきたその時、周囲の壁や床が僅かにだが見やすくなってきたことに気づいた。


 間違いない。外の明かりだ。


 懐かしさすら覚える温かみを目指して気力を振り絞り、ようやく拝んだ太陽の恵みを全身で感じるべく地上へと飛び出す。


 その瞬間、頬を撫でる爽やかな風と仄かに香る草木の臭いが俺を刺激する。閉塞感で締め付けられる迷宮ダンジョンの中とは大違いの開放感だ。


「やっと外に出られたぁ!」

 

 背負っていたスリィブを降ろして俺も緑の床に寝転ぶ。


「もう当分は歩きたくない……。このまま大地と同化していたい……」


 本当に心も身体も限界に近かったのだと実感した。


「けどご主人、陽が出ている間に町を探した方がいいと思うニャ」


 伏せる俺の枕元でしゃがみこみ、顔を覗き込むセンリ。


 てか、今さらっと俺のこと「ご主人」って呼んでくれたよな?


 今更ながら、こうして妖怪スペクターとの夢にまで見た交流が出来ているという実感が湧いてくる。


「それはそうだけどさ、ちょっとだけでいいから休憩させてくれ……」


 過度な運動で早まった鼓動を落ち着かせるべく、力を抜いて身体を休ませる。


 こうして寝転んでいると、身体を動かさない分五感が研ぎ澄まされていく気がする。俺たちから遠く離れた草花を踏む音だって耳に届くくらいだ。


「……足音?」


 確かに今、何者かの足音が聞こえた。それも複数。


「あちらの方から、誰か歩いてきますね」


 プラテアが示す先、生い茂る木々の隙間を縫う様にして人影が姿を現した。


「いやー、大量大量!」


 見たところ、群餓鬼ゴブリンみたいな化け物ではなさそうだ。


 人数は三人。それぞれが大剣、弓、杖を装備している。


「どうやら冒険者の方みたいですね」


 冒険者。なるほど、言われてみればファンタジーの世界からそのまま飛び出してきたみたいな様相だな。


 全員が中身の入った大きな袋を抱えている点を見るに、何かの狩りか何かの帰りだろうか。


 だが、こうして地元の人間に出会えたのは町へ向かうまたとない好機だ。


「おーい! そこの人ー!」


「んぁ?」


 俺の声に気づいたのか、三人はこっちに近づいてくる。


「何だ? 何か用か?」


「最寄りの町か村を探しているんだけど、この辺りの地理には詳しくないんだ。よかったら案内してくれないか?」


「案内? まぁ、それくらいなら別に構わないが……」


「本当か!? 助かる!」


 もっともっと休んでいたいという正直な気持ちを押し殺し、何とか立ち上がる。


 スリィブはいつの間にか寝てしまったので、また俺が運ぶことになった。


「ん? 後ろに背負ってるのって、スリィブの奴じゃねぇか。何処にいたんだ?」


「そこの迷宮ダンジョンの中で偶々……知り合いなのか?」


 俺がそう尋ねると、三人は腹を抱えて笑い始めた。


「だから止めとけって言ったじゃねぇか! お前一人じゃ無理だってぇ! ははははは!」


「何をそんなに笑ってるんだニャ?」


 センリの疑問に俺も頷く。


「お前ら知らないで一緒にいたのか? そいつだぜ?」


「疫病神?」


 何やら不吉な言葉を口にする冒険者達。


「パーティ内の連携を乱すわ、魔法は一種類しか使えないわ、おまけに魔物や罠をとことん呼び寄せやがるから一度パーティに入れればどんな依頼でも確実に失敗するってここらでは専らの噂になってるんだぜ」


「……そうなんだ。知らなかった」


「お前らもパーティ組んでたんだろ? どうせ碌でもない目に遭ったんだろうさ」


「組むならもっとマシな奴にしとけよ」


「ちげぇねぇ!」


 そうして町に着くまでの間、冒険者達は延々とスリィブを笑い種にして馬鹿みたいに騒ぎまくっていた。



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