第17話 外を目指して

「…………おぇっ……」


 俺は今、最悪の気分だ。


 センリ、プラテア、そして召喚した妖怪スペクター達と協力して群餓鬼ゴブリンを倒したまでは良かった。


 だが、倒した後のことまで頭が回っていなかった。


 周囲に飛び散る群餓鬼ゴブリンの残骸。そこらかしこに付着する血痕。


 何よりもセンリや道導の蜂ガイド・ビーが燃やした奴らから漂う悪臭。これが何よりもキツかった。


 鼻を塞いでも尚侵入してくるその臭いに思わず涙が出てくる。人肉を燃やすと酷い臭いがすると聞いたことはあるが、これ程キツイとは思わなかった。


 しかもここは地下にある遺跡の中。空気が換気されないどころか、酸素が薄くなって頭痛すらしてきた。


 急いでこの場を離れ、奥へと進む。


 ついでに道中、置き忘れた荷物を回収しようと俺とスリィブが最初に会った場所へ戻ってきたのだが……。


「あぁ……あぁあ…………!」


 群餓鬼ゴブリンに踏まれまくって原型を失ったリュックサックを見て、スリィブが膝から崩れ落ちた。


 あれだけ自慢げに紹介してた新品の装備達が見る影もない。彼女曰く高かったポーションとやらも瓶が割れて中身が外に漏れ出ている。


 それでもスリィブはリュックに駆け寄ると中を隈なく確認し、一つでも無事な物がないか必死になって探し始めた。


 その後ろ姿は見ているだけでも物悲しくて、掛ける言葉が見つからなかった。


 けど、ただじっと待っているだけなのも落ち着かない。


「プラテア、ちょっと」


「はい、どうかしましたか?」


 俺の手招きに気付いたプラテアが寄ってくる。


「初めてこの世界に来た時、ここで目が覚めたんだけどさ。なんで俺、宝箱の中に入れられてたんだ?」


「…………ゑ?」


 プラテアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして俺の方を見てくる。


「宝箱の中、ですか?」


「うん、この中で」


 入っていた宝箱を指差すとプラテアは暫し考え込み、やがてハッとした表情を浮かべた。


「すみません、私のミスです……。本当は地上にある村の近くに送るはずだったのに……ごめんなさい」


 そう言って神様は俺に頭を下げる。


 何をどう間違えた結果なのか皆目見当もつかないが、無事に生き返れたのは事実だし、俺も文句を言いたい訳ではなかったので頭を上げてもらう。


 俺達が話をしている間に、スリィブが涙を流して戻ってきた。

 

 予想はしていたが、やはり使えるものはほとんど残っていなかったらしい。


「せっかく……せっかく苦労して集めたのに……こんなのって……」


「本当に何も残ってなかったのか?」


「……ううん。辛うじて、食料が少しだけ……」


「そうか。え~……っと、まぁ、全滅してなかっただけ良かったな」


「そうニャそうニャ、元気出すニャ」


「ほら、センリもこう言ってるし……って何食べてるんだ?」


「果物ニャ」


「いや見たら分かるけどさ、ここに果物なんて置いてあったか?」


「…………それ、私の」


「スリィブの……ってことは、それリュックに残ってた食料かよ!!!」


「もらったニャ♪」


「決め顔で可愛くキメても許されねぇよ! ただでさえ殆どが踏まれて使い物にならねぇのに、唯一残った食料まで奪うとか鬼畜かお前! 見てみろ! スリィブの奴、しおしおになっちゃったじゃねぇか!」


「いえ、もういいんです……。私、昔から運が悪いのでこういうことには慣れてるんですよ……へへ、へへへへへ」


「ほら、こいつもこう言ってるニャ」


「これは自棄になってるだけだ! ……いいから返してやれ。ナイーブになりすぎて口調まで変わってきてる」


「ちぇ~ニャ」


 渋々齧っていた果物をスリィブに渡す。


「わぁい果物。私果物だぁいすきぃ」


 駄目だ。目が完全に虚ろになってやがる。


「あの……元気出してください、ね……」


「思えばこの迷宮ダンジョンに入ってからも罠は全部踏むし魔物には追われるし、ようやく見つけた念願の宝箱はカラ。必死に集めた装備も使えずじまいって……神様、私が一体何をしたっていうんですか……」


「えっ! いやっ、あのぉ…………」


 ……これはいよいよ、収拾がつかなくなってきたぞ。


 一先ずこれ以上こいつらをこのまま放っておく訳にはいかないので、スリィブは俺が強引に引っ張ってでも脱出を目指すことにしたのだった。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る