第16話 戻らない妖怪

 最初は通路を埋め尽くす程の数だった群餓鬼ゴブリンもセンリとプラテア、そして召喚した妖怪スペクター達によって半壊まで追い込まれ、残った者も蜘蛛の子を散らす様に迷宮の奥へと姿を消していった。


「……何とかなった、のか」


「そうね。あれだけ叩けば、群餓鬼ゴブリン達ももう襲ってこないと思うわ」


 寝かせていたスリィブが起き上がり、頭を押さえている。


 戦闘している間に一人で立てる位には回復したようだ。


「それにしても、貴方たちって強いのね……。ビックリしたわ」


「ま、まぁな……」


 俺は殆ど何もしていないのだが、口を挟むと話が拗れそうなので止めておく。


 ただ、皆が予想以上に強いというスリィブの意見には同意する。


 俺が召喚した「悪戯な仙狸」、「道導の蜂ガイド・ビー」、「三途の橋姫」、この三体は特別強い妖怪スペクターという訳ではない。


 一番攻撃力の高い「三途の橋姫」でも攻撃力1000、「悪戯な仙狸」に至っては100しかないにも関わらず、あのゴブリン達を見事に圧倒していた。


 それに元のカードに記されていない能力や攻撃だって使っていたし、もしかするとカードに書かれていた数値やテキストはあまり当てにならないのだろうか。


 ——ズボッ!


「うわっ!?」


 服と背中の間に突如差し込まれるモップの様な感触に変な声が漏れる。


 後ろを振り向くとニヤついた表情で尻尾を動かすセンリの姿が。


 止めろ動かすな。めっちゃモフモフしてるからまた変な声が漏れそうになる。


「ほらほら、誠心誠意働いたニャーに何か掛ける言葉があるはずニャ」


「あ、あぁ……助かった。ありがとな、センリ」


 今の言葉で満足したのか、センリは自身の尻尾を背中から引き抜く。


「お前らもありがとう。助かったよ」


 他の二体にも礼を述べると、道導の蜂ガイド・ビー達は各々遺跡中を飛び回び喜びを露わにする。


「礼には及ばず。我等は命じられたままに行いしまで」


 橋姫も凛とした表情で言葉を返す。


 だが、彼女は未だに戦闘態勢を解いていなかった。


「然し、賛辞もまたに」


 橋姫の表情に一瞬の曇りが見える。


 彼女が睨みを利かせる先は俺ではない。その更に後ろだった。


「…………」


 振り返るとセンリもまた先程の明るい様子から一転、警戒心を剝き出しにして睨み返していた。


 正に一触即発といった雰囲気が俺達の周囲に重く圧し掛かる。口を開くことすら憚られる。


 だが、このまま何もしなかったらそれこそ仲間割れをしかねない。確か、召喚した妖怪スペクターを戻す時は念じればいいんだよな?


 ――戻れ……戻れ……戻れ…………。


「「「!」」」


 俺が念じると妖怪スペクター達の身体が光になって宙に散り、カードの姿に戻って俺の手元に帰ってきた。


 妖怪スペクター達の衝突を避けられて一安心した俺は手元のカードを確認する。


 先程使用した道導の蜂ガイド・ビー、三途の橋姫は戻ってきたのだが、やはり一枚足りない。


 センリだけが「悪戯な仙狸」に戻ることなく、依然としてこの場に留まっている。


「やはりおかしいですね。本来はあの娘もドロウさんが念じればカードに戻るはずなのですが……」


 神である彼女プラテアでもお手上げなら、力を授かっただけの俺にはどうすることも出来ないレベルの問題ということになる。


 まぁ問題と言っても、今のところセンリを召喚したままによる悪影響は見られない。


 それに一人くらい一緒にいてくれた方が俺としても心強いし、暫くはこのままでもいいだろう。


「さぁ、群餓鬼ゴブリンは倒したんだ。早くここを出ようぜ!」


 そうして俺達は群餓鬼ゴブリンの屍を越え、出口を目指すのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る