第15話 二体の妖怪

 宣言によって掲げたカード二枚が手元から消失し、俺の目の前に二体の妖怪スペクターが姿を現した。


 一体は蒼い炎を身体に纏う大きな蜂の群れ、「道導の蜂ガイド・ビー」。


 もう一体は暗青色の着物に袖を通した鬼女、「三途の橋姫」。


 呼び出された二体は揃って後ろを振り返り、俺の目をじっと見つめる。そこにはあの時、センリが見せたのと同じ思いが秘められていた。


道導の蜂ガイド・ビーはセンリ、三途の橋姫はプラテアを援護して群餓鬼ゴブリンを倒せ!」


 二体は同時に動き出し、それぞれ俺が指示した方の援護へと向かう。


 センリの時もそうだったが、どうやら召喚した妖怪スペクターは召喚主である俺の命令を聞くまで勝手な行動を取らないらしい。これはデュエルDサモナーズS、いやトレーディングTカードCゲームGにおける前提を考慮すれば当然の話だ。


 妖怪スペクターの召喚、能力の使用、そして攻撃。それらは全てプレイヤーの指示によって行われる。召喚した妖怪スペクターが勝手に攻撃するなんてことは基本的にありえない。


 だからセンリもあの二体も、自分は何をするべきなのか、その目を通して俺に命令を促していたのだ。


 そして命令した通り、道導の蜂ガイド・ビーはその体格に見合った羽音を鳴らしてセンリを取り囲む群餓鬼ゴブリンへ攻撃を仕掛ける。


 空中から素早く接近し、群餓鬼ゴブリンからの反撃を掻い潜って毒針を差し込む。すると、刺された群餓鬼ゴブリンの身体が異様に膨らんでいく。


 ――グルォアァ……ァ。


 重苦の声を上げる群餓鬼ゴブリン


 内側から溢れる何かは勢いを落とすことなく群餓鬼ゴブリンの体内を荒らし、やがて全身から蒼い炎が噴き出した。


 最早自身の原型を保てなくなった群餓鬼ゴブリンはその全てが蒼き輝きの中に飲まれ、息絶えた。


 まだ頭の中に微かに残っていた夢気分も今ので完全に晴れた。俺の現実はなのだ。


 そのまま他の群餓鬼ゴブリンへと襲い掛かる道導の蜂ガイド・ビー


 そして道導の蜂ガイド・ビーに敵対し、隙を見せた群餓鬼ゴブリンを狩るセンリ。


 両者に囲まれた群餓鬼ゴブリン達は逃げることも出来ず、ただ藻掻く様にその手を振り続けるのだった。


   * * * 


 ――グルルァ! 

 

 一方、向こうの群餓鬼ゴブリン達はプラテアへの集中攻撃を続けている。


 プラテアの援護に向かわせた三途の橋姫はというと、群餓鬼ゴブリン達に見向きもされていなかった。


「クッ……! このっ!!!」


 一心に斧を振り続けるプラテア。だが、やはり足元が覚束ない。振り下ろした後に確かな隙を見せてしまう。


 そこに伸びるゴブリンの魔の手。悪辣な笑顔を翳して次々と斧を持つ手へ掴みかかる。


 だが、突如として現れた水の壁によってその手はプラテアには届かない。


 それでも群餓鬼ゴブリンはどうにか手を届かせようと水壁をひたすらに殴りつける。



 その言葉と共に水の刃が飛来する。刃の通り道に伸びた群餓鬼ゴブリンの腕は残らず真二つに斬られ、各々が苦悶の叫びを上げて刃の来し方を睨む。


「然り。我を見よ。我を感ぜよ。他の誰にもあらぬ、我こそを」


 そう話す橋姫の目は歓びで満ちており、自分の元へ向かってくる群餓鬼ゴブリンを真っ向から迎え撃った。


 橋姫は戦闘の最中でも優雅な振る舞いを忘れず、自らが生み出した水を踊る様に召している。この水が攻撃にも防御にも用いられるのだ。


 時に鋭く首を刎ね、時に攻撃を覆い防ぎ、時に顔を塞いで呼吸を奪う。


 変幻自在の攻防、そして彼女の異質な様子に気圧された群餓鬼ゴブリン達は攻撃の手を欠き、そこからはプラテアと橋姫による一方的な勝負ワンサイドゲームが繰り広げられた。



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