第14話 カードを手に

 俺の指示を受けると同時に悪戯な仙狸、もといセンリは前方の群餓鬼ゴブリンの元へと飛び込んだ。


 当然群餓鬼ゴブリン達もセンリの攻撃を黙って受け入れる気はなく、各々が一斉に戦闘態勢を取り始める。


 だが、その時にはセンリの爪が先頭に立つ一匹の喉元に深く突き刺さっていた。


 人ならざる身体から噴き出す気色の悪い血飛沫。


 そのままセンリが爪を引き抜くと、支えを失った群餓鬼ゴブリンはそのまま自身の血溜まりの中へと沈んでいった。


 これが、妖怪スペクターの戦いなのか……。


 ――グルルルルアアアアア!!!!!


 怒り叫ぶゴブリン達。


 側にいる奴らは彼女の身体を引き裂こうと各々が手を伸ばすが、センリの人間離れした軽い身のこなしの前では捕まえることが出来ない。


 寧ろその圧倒的なまでの数が邪魔をして動きに繊細さが欠けているのか、その隙間を縫う様にして液体の如く攻撃を掻い潜ったセンリによって一匹ずつ着実に倒されていく。


 ――グルァ!


 センリが前方の敵を相手すると同時に背後の群餓鬼ゴブリンが拳を振り上げる。


 だが、それを事前に察知していたセンリは尻尾で振り払う。


 そのまま二つに分かれた尻尾をピタリと合わせると、彼女の背後に二輪の朱い花が現れる。


 何処かで見覚えがあると思ったら、あれは「悪戯な仙狸」のカードイラストに描かれていた花だ。確か梅だったような気がする。


 宙に浮く梅の花はその花弁を散らしたかと思えば猛く燃え上がり、背後の群餓鬼ゴブリン達の身体を切り裂き、そして焼き払った。


 センリが一人であの化物達と渡り合う姿を見て、俺は言葉を失っていた。


 ――グルルルゥ……。


 センリに気を取られていたせいですっかり頭から抜けていた。敵は正面だけじゃない。


 同類が目の前で倒されたのを見て殺気立ってきたのか、俺達を追いかけてきた方の群餓鬼ゴブリン達も既に戦闘態勢に入っている。


 センリは正面の群餓鬼ゴブリン相手に手一杯。なら、こっちは俺が相手するしか――。


「――うりゃああああああああああ!!!」


 と思っていたのだが、知らぬ間にプラテアが単騎突撃をかましていた。


 豪華に飾り付けられた斧を何処からともなく取り出して、目についた群餓鬼ゴブリンを片っ端から斬り伏せている。


群餓鬼ゴブリン死すべし! 滅ぶべし!!!」


 さっきまでとは打って変わった態度といい、発言といい、群餓鬼ゴブリンに恨みでもあるのだろうか。ちょっと目が怖い。


 ゴブリンの強面な顔ですらちょっと引き攣った色を浮かべている。


 そうして勢いよく戦いに向かったプラテアだが、その動きは俺の目から見ても単調というか、明らかに慣れてない動きをしている。


 センリの方も続け様に戦っているせいで、動きに繊細さが欠け始めた。


 まだまだ群餓鬼ゴブリンは残っている。このまま二人で戦ってもいずれは押し切られるだろう。


 俺だけここで見ている訳にはいかない。


 センリがいる以上、あの時の力は決して幻なんかじゃない。


 決心を固め、俺はデッキケースに手を翳す。


「――行くぞ!」


 俺の意志に応える様にデッキケースの中から五枚のカードが飛び出す。


 内訳は妖怪スペクターカードが二枚、呪いカースカードが三枚。


 呪いカースカードは墓場にカードがないと使えない。現状使えるのは妖怪スペクターのみ。


「俺は道導の蜂ガイド・ビーを召喚!」


 そう宣言した時、手札にあるもう一枚の妖怪スペクターカードが何かを感じた。


 まるで自分を使えと必死に訴えかけている様な、そんな思いを。


 本来、デュエルサモナーズは一ターンにつき召喚出来る妖怪スペクターは一体。これ以上の召喚は出来ないはずだ。


 ……だが。


「――そして、三途の橋姫を召喚!」


 俺は己の「召喚出来る」という直感を信じ、手札にもう一枚あった妖怪スペクターの召喚を宣言した。



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