第9話 神と二度会う

 気がつくと、俺はまたあの薄暗い奇妙な空間にいた。


「……大丈夫ですか?」


 当然、あの神様もいる。


「あれが夢じゃないなら、多分だけど大丈夫じゃないと思う」


 今頃俺の身体は硬い地面に打ちつけられているのだろうか。もしかすると、まだ落下している最中かもしれない。


 だが、俺の意識がここにある以上はどうすることも出来ない。なら今は別のことに時間を使おう。


「あの化物は何なんだ?」


 上半身を起こし、隣に座る神様に尋ねる。


「あれは『群餓鬼ゴブリン』ですね。人程の知性はなく、無差別に人間や動物を襲うのでくれぐれも注意してください」


 群餓鬼ゴブリン……。


「あと彼らは薬草の匂いが苦手なので、困ったときは叩きつけてやりましょう!」


 弱気っぽいなと思っていた神様が段々熱の入った恨み口調で話し始める。今までのイメージと違っててちょっと驚いた。


「そ、そうなんだ……。覚えとく」


 この人、本当に神様なのか? 所々人間っぽさを感じるんだが…………まぁ、今はそんなことどうでもいいんだ。重要な事じゃない。


 神様にはもう一つ、これだけは絶対に聞いておかなければいけない事がある。


「なぁ、俺ってもしかして……その、異世界? とかに行ってたりするのか?」


 まさかこんな馬鹿げた質問を真剣にすることになるとは思いもしなかった。


「異世界……そうですね。今ドロウさんがいる世界は、以前ドロウさんが存在していた世界とは違う世界です」


 しかも返事ははいYESときた。

 

「全く違う世界なのか?」


 これに関しては聞くまでもなかった。散々非現実的なものを見せつけられてきた後だからだ。


 俺の知る日常には手から平然と水を噴射する少女も、気色の悪い怪物も存在しない。当然、神様も首を縦に振った。


「生き返らせてもらっておいて図々しい頼みだとは思うんだが、前の世界に帰してもらうことは出来ないのか?」


「それは……すみません。出来ないです」


 申し訳なさそうに顔を伏せる神様。


「お伝えしそびれていましたが、魂を転生させる際には幾つか条件があるのです。その中の一つに『連続して同じ世界に魂を送ってはならない』というものがありまして……」


「………………そうか」


 もうあの世界には戻れない。


 元の日常に戻ってデュエルDサモナーズSをプレイすることも、速瀬はやせまどかと再戦することも出来ない。


「分かった。ならこのまま死なせてくれ」


「はい…………って、ど、どうしてですか!?」


「俺の生きる目的はデュエルDサモナーズSだけなんだ。デュエルDサモナーズSのない生活に耐えられる気がしない。一生デュエルDサモナーズSに未練を感じて生きるくらいなら、ここで楽になった方が……」


「そ、そんなことないですよ! 生きていれば、他にもきっと楽しいことが――って、た、魂が!?」


 魂? 何のことを言っているのか分からないが、今妙に清々しい気分なので深くは考えないようにする。考えたくない。


 身体も何だかフワフワしてきた。目の前も太陽の光が照らしてくるみたいに明るいし、まるで日光浴でもしている様な心地よさだ。


「あわわわ駄目です駄目です! 帰ってきてください! 魂が! 魂が浄化されちゃいます!」


 気持ちいぃ……………………。


「ど、どうにかしないと!」


 横で神様が何やら騒がしくしているが、全く気にならない。


 今はこの心地よさに全て任せて――。


「ドロウさん! 帰ってきてください!!! 貴方の望み、叶えますから!」


「何ィ!?」


 急に目が覚めた。俺は今まで何をしていたんだ?


 いや、今はそれよりも神様の言葉だ。


「俺の望みを叶える……ってことは、またデュエルDサモナーズSが出来るのか!?」


「はっ、はい……!」


 マジか……! 本当にまたデュエルDサモナーズSを!?


「あ、あの……ドロウさん……、手…………」


「ん?」


 手と言われて手元に目を落とすと、俺の手が神様の手をガッチリ両手で掴んでしまっていた。


「ごめん! つい勢い余って!」


「い、いえ! そのままで大丈夫です!」


 神様はもう片方の手で俺の手を外側から包み込み、ぎゅっと握る。


 その瞬間、身体全体に奇妙な感覚が流れた。



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