第8話 常闇の迷路を闇雲に
「それにしても大層な荷物だよな。中には何が入ってるんだ?」
挨拶も済んだところで、ふと気になったことを聞いてみる。
「旅に必要そうな物は一通り入ってるわ。地図に食料、調理器具とか。高かったけど、ポーションだってちゃんと揃えたんだから!」
「それは大変だったな。ところでその大切な荷物、今お前の後ろで燃えてるけど大丈夫か?」
「えっ? ――わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
スリィブの真後ろではたった今、炎がリュック全体を包み込んだところだった。
「足元にずっと転がってた松明が原因だろうな。火の不始末ってやっぱり怖いなぁ」
「呑気なこと言ってないで、早く火消すの手伝ってよ!」
スリィブは慌てて荷物に駆け寄り、両の手を広げた。
「——
そう叫ぶ彼女の掌からは何処からともなく湧き出る様にして水が流れてくる。
「すげぇ! 今のどうやったんだ!?」
真横で見ていたのに種も仕掛けも分からなかったぞ。
「どうやってって……、
「いやいや! 十分すげぇよ! 俺には(そんな手品)出来ねぇもん!」
「そ、そう……? まぁ、魔法が使えない人だって沢山いるものね! けど、私の水魔法はこんなものじゃないわ!」
満更でもなさそうに頬を緩ませたかと思えば、スリィブは再び両手を構える。
「――
スリィブは両の手の間から再び水流を生み出した。
さっきのが蛇口を捻った程度だとすれば、これはさながら消防車による放水だ。
水流の勢いは衰えることなくそのまま俺達のいる一室の壁に衝突し、見事な風穴を開けてみせた。
「どう? すごいでしょ!」
「あぁ! すげぇ!」
そうして俺達二人は壁面に開いた穴へと目を向ける。
そこにあるのは暗闇と無数に点在する赤い光。
設置されている
一体そこに何があるのか、気になった俺はスリィブに頼んで松明を貸してもらった。
徐々に暗闇を照らしていくと、何やら苔のような色をした気色の悪い脚が見えてくる。
そのまま奥の方まで照らしてみると、そこには部屋中を埋め尽くす程の緑肌の化物が俺達二人を鋭く切れた目で凝視していた。
理由は言うまでもない。
化物の群れを二分する様に付いた水の跡。そして奥では青紫の液体を口や体から吐き出し、息絶える彼らの同胞。
これは――。
「すみません。コイツがやりました。俺は無関係です。ユルシテ」
「えっ!? ちょっと!!?」
――グルルルルゥ!!!
あ、これダメなやつだ。
息を荒くし、歯軋りを鳴らしてじわりじわりとにじり寄る化物。
「に、逃げろぉーーーーー!!!」
そうして俺達は一目散に部屋を飛び出した。
先も見えない常闇の迷路を闇雲に走る。
頼りになるのは手に持っている、たった一つの灯りのみ。
「おい! どうすんだよこれ!? アイツらずっと追いかけてくるぞ! というか、何で俺まで追いかけられてるんだ!? 元はと言えばお前が調子に乗ってよく分かんねぇ手品ぶっ放したのが原因であの化物は襲い掛かって来たんだろ!?」
背後を指差したタイミングで、俺達を追いかけ回している化物の群れが角から姿を現した。
群れは遺跡の通路を埋め尽くす勢いで増え、猛り狂った様子で朱玉の眼を俺達へと向けてくる。
「だってだって! まさか隣に
責任転嫁のキャッチボールをしながらも、俺達は足を止めることなく走り続ける。
息が苦しい。腹が痛い。一体いつまで走ってればいいのか分からない。
『くそっ、どうしてこうなったんだ!?』
ついこの間まで普通の生活を送っているだけの、ただの高校生だったのに。
今は見知らぬ場所で見知らぬ少女と一緒に見知らぬ化物に追われている。
俺は、ただ…………。
——ガコッ!
スリィブが足を着けた瞬間、床から不穏な音が鳴った。
これ以上事態が悪化することはないだろうと思ったが、人の想定とはいとも容易く覆されるらしい。
俺達が当たり前の如く踏みしめていたはずの地面が一気に崩落したのだ。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
際限のない落下。浴びせられる重力。何が起きているのか全く分からない。
ただただ不安と恐怖に苛まれながら、俺達の身体は暗闇の中へと消えていった。
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