第7話 中二病少女

「それで、貴方誰? どうして宝箱の中に入ってたの?」


「質問を質問で返すけど、どうして俺は宝箱の中に入れられてたんだ?」


「そんなの私に聞かれても知らないわよ……。そうだ! それよりお宝は!? 私のお宝は何処!?」


「宝?」


 今一度自分が入っていた箱の中を見ても塵の一つすら入っていない。


 つまりこの中に入っていたのは俺という存在だけ。ということは――。


「俺自身が宝物ってこと!?」


「そんな訳ないでしょ!」


 ですよねー。


 今のは流石に冗談だとして、本当に隅々まで探した上で何も出てこないということはそもそも宝なんて元から入っていなかったのだろう。


「そんな……折角ここまで来たのに…………」


 目の前で落胆し膝を落とす女の子を見ていると、俺の所為ではないとはいえ心が痛む。


 だが、今は彼女の心的ダメージに配慮出来る程俺も余裕がある訳ではない。


「傷心中のところ悪いが、一つ聞かせてくれ。ここは何処だ? 一切見覚えのない場所だから、どの辺りにいるのか見当もつかないんだけど」


 見た感じ洞窟か遺跡みたいだけど、生憎そんな場所は近所にはないし、行った覚えもない。


 もしかして海外とか? テレビの特集でこんな感じの遺跡が海外には幾つもあるって言ってたから、その可能性は高い。


 けど言葉自体は通じるし、やっぱり日本なんじゃないか? いやけど、日本にこんな髪色の女の子なんて普通いないし……あぁ駄目だ! 全然分かんねぇ!


「ここは『魔性の森』にある迷宮ダンジョンよ。階層は地下五階……だったはず」


 ――ゑ? 何? 中二病? いきなり意味不明なことを口にし始めたぞこの子。


 もしかして、この宝箱もその後ろにある大層な荷物もそういう遊びで用意した物なのか? だとしたら気合入りすぎだろ。


「すまんが、今はそういう遊びに付き合ってる場合じゃないんだよ。結局のところ、ここは日本なのか? それとも他の国か? アメリカ? フランス? ドイツ? まさか裏側のブラジルだとか言わないよな?」


「………………」


 何だろう。女の子が「何言ってんだお前」って顔で訴えてきている様な気がする。それくらい渋い顔になっている。


「……何言ってるの?」


 あ。やっぱり思われてた。


 そうだよな。俺もさっきの迷宮ダンジョン云々の台詞せりふ聞いた時はそんな反応してたと思うもん。


 これはなんちゃって中二病じゃないな。の中二病だ。


 ――なら、俺も立ち回りを変えよう。


「えっと……さっきのは無しで! 実は記憶が曖昧でさ! 自分のことくらいしか覚えてないんだよ。だからここが何処なのか、もっと詳しく教えてくれないか? 地図とかあれば分かりやすいんだけど……」


「なんだ、そうだったの。そういう事なら早く言ってよ」


 そう言って女の子は一枚の紙をリュックから取り出し、重たそうにしてリュックを別の場所に置いた。


 これで普通の日本地図か世界地図が出れば話は楽なのだが、地図まで手作りされていたら話は変わってくる。


 さぁ――どっちだ!?


「今私達がいるのは大体……この辺りね」


 そうして広げられた地図上には中心に大きな大陸があり、その周辺を取り囲む様にして無数の島々が配置されている。


 この大陸がユーラシアなら、どれだけ楽だっただろうか……。


 中心に大きな大陸があるとはいったが、それは俺がよく知るあのユーラシア大陸ではない。全く知らない形の大陸だった。


 当然、あの特徴的かつ細長い形をした故郷も存在していない。


「ここが私達のいるメルゼルク大陸。その南西にあるのがここ『魔性の森』。ん~……ここの周辺にも村や町は幾つかあるし、そこから迷い込んだとか?」

 

 しっかり名前まで考えているのか。ここまで来ると天晴れという他ない。


「あぁ……もう分かった。ありがとう」


「折角教えてあげてるのに、どうしてそんなに不満そうなのよ」


 顔をぷくっと膨らませて不満げそうにする女の子。


「気にするな。故郷が遥か遠くにあるってことを思い出しただけだ……」


 この子は最早当てにならない。まずはここから出て、話の通じる人を見つけるなり標識とかで現在地を特定するなりしよう。

 

「一度外に出たいんだが、出口はどっちか分かるか?」


 そう訊ねると、女の子は頭を悩ませる。


「分かるには分かるけど、道中はかなり長かったから口で全部説明するのは無理かも……」


 そんなに奥深い場所にいるのか。なら一刻も早く行動して現在地を特定しなければ……。


「――分かった。なら、私が出口まで案内するわ」


「本当か?」


 今の言葉が本当であればこちらとしては渡りに船だ。案内人がいるなら時間を浪費する心配も、見知らぬ土地で遭難する可能性もなくなる。


「なら、頼んでもいいか?」


「分かった。私に任せておいて! ――そうだ。まだ貴方の名前聞いてなかったわね。名前、何ていうの?」


「俺は札塲ふだば徒玲どろう徒玲どろうって呼んでくれ」


「分かったわ、ドロウ。私はスリィブ。冒険者よ。よろしくね!」


 そうして俺は水色髪の女の子、スリィブと共に行動することにした。



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