第5話 薄暗いだけの空間
「…………ぬぅ?」
瞼が閉じていることを自覚する。いつの間にか寝てしまったのだろうか?
えっと……。確か昨日は大会があって、家に帰った後は配信見ながら反省会して……。
その先の記憶がないという事は、恐らくそのタイミングで寝てしまったのだろう。体調も悪かったっぽいし。
それにしても、まだ頭が痛いな……。
一先ず熱でも計ろうかと思って瞼を開く。すると、俺の眼前には見知らぬ女の人が俺の身体に覆い被さる様にしてこちらの顔を覗き込んでいた。
「……気分はどうですか?」
突然の状況につい「ウワァ!」と情けない声を出してしまう。女の人も俺が急に声を出すものだから、ビックリして後ずさりしてしまった。
「お前誰だ!? 何で俺の部屋に……って、あれ?」
愛用していたデッキ達を収納していたはずの棚も、お気に入りのプレイマットを敷いた机も、ダンボールをパンパンに膨らませる程に貯めてあったストレージも何処にもない。
本当に何もない、ただ薄暗いだけの空間に俺はいた。
「ここ……どこだ?」
「ここは神の世界です。貴方の魂が延々と現世に残り続けていたので、救済しようと……」
「……神の世界? 魂? 救済?」
何のことを言っているのかまるで分からない。何かのリアルイベントか? そんなのに参加した覚えはないが……。
「貴方は人間界の基準で言うと十三日と七時間三十二分十七秒前に死にました。本来なら数日もしない内に魂が流れてくるのですが……」
「ちょっと待てぇ! 俺が死んだ!? どういうことだ!?」
聞き流すには流石に限界がある内容だ。てか、人の死をそんなさらっと言うか普通!?
「あっ……! えっと……死因は極度の興奮による内出血と心不全……です!」
「誰も死因は聞いてねぇよ!」
益々頭がこんがらがってくる。内出血と心不全だと? 俺は五体満足だし、心臓だってバッチリ動いて……。
「――嘘……」
心臓が止まっている。胸に手を当てても、俺の命を刻んでいるはずの振動は伝わってこない。
異変は他にもある。妙に身体が軽いのだ。まるで内臓を全て引き抜かれて、中身がスカスカになったみたいに。
俺、本当に死んだのか……? 何でだ!? 昨日までは何ともなかったのに!
極度の興奮による内出血と心不全って、そんな事になった覚えはな――――いや、ある。
「ん? それじゃあ、俺が死んだ理由って……」
「えっと、憤死……ですね」
「憤死かぁ。グレゴリウス七世とかで有名な奴だな」
なんて、それで納得出来る訳がないだろう。
だが、実際に心臓は動いてない訳だし……ここが神の世界だというのも強ち嘘ではない様に思えてきた。
「――それで、ここが神様の世界だっていうなら、あんたは神様だって言うのか?」
「えと……はい、そうですね。一応神をやらせてもらっています」
「何だよ、その『一応東大出身です』みたいな謙虚さ……。神様って言ったらもっと厳かな感じじゃないのか?」
「私は神になってまだ間もないので……あまり大きな顔は出来ませんよ」
「そういうもんなのか……」
神様の世界も大変なのだろうか。
「ところで、ドロウさん……でしたよね。随分と長い間現世を彷徨っていましたが、もしかして今の生には強い未練があるのですか?」
「そりゃあるよ。まだ十七歳だし、あれで人生終了なんて何が何でも悲しすぎる……」
まぁ憤死する程
何より、俺はもっと
そして、次こそは
「――分かりました。でしたら、貴方を生き返らせてあげましょう」
目の前の神様は至極真剣な表情で俺に告げる。
その表情を前にしたら、彼女が与太話をしているかもしれないという考えは吹き飛んでいった。
「ほ、本当か!?」
「はっ、はい! 幾つか条件はありますが……」
「是非お願いします!」
今の俺には
この二つさえあれば、前世に思い残す事はない――のは言い過ぎかもしれないが、少なくとも今の俺は満たされる。
「分かりました。では――」
そうして、この奇妙な空間での不可思議な体験は俺の身体を包み込む無数の光によって掻き消された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます