第4話 完全敗北

 僅か三ターンという決着、そしてデュエルサモナーズにおいてトップの実力を誇っていた札塲ふだば徒玲どろうの完全敗北という予想外の結果で大会は幕を下りた。


「――それでは、優勝者である速瀬はやせまどか選手にインタビューを行いたいと思います! どうですか、今の心境は?」


「えぇっと、まさか優勝できるとは思っていなかったので……。けど、憧れだった徒玲どろうさんに勝てたのは凄く嬉しかったです!」


 スマホから流れるインタビュー音声が俺に敗北を実感させる。


 あの後、会場を飛び出して家に帰った俺は使用したデッキを広げてじっと見つめていた。


 何故負けたのか。何故勝てなかったのか。その原因を一刻も早く突き止めたかった。


「それにしても、決勝戦は衝撃的な展開でしたね。私はてっきりザーガループへの対策をきっちり決めた徒玲どろう選手が勝利するものだと思っていました」


「そうですね……。そこは研究の甲斐があったかなって思います」


 ――研究?


「それでは、ここでまどか選手が使用したデッキの方を紹介していきたいと思います。――こちらです!」


 そうして画面の一部に一枚の写真が掲載される。


「デッキのタイプは召喚してすぐに攻撃で出来るスペクターやそれを補助するカードが多い、所謂速攻デッキというものですね。……しかし、あまり大会では使用されていないカードもちらほら見受けられますが」


「それらのカードは徒玲どろうさんへの対策として入れていました。私の今大会の目標は徒玲どろうさんと対戦することでしたので」


 俺対策……だと!?


 改めて配信上に表示されているデッキリストを見る。

 

 確かにベースは速攻デッキだが……普通なら採用されない様なカードがピン刺し(※1)されている。


 カード効果を見れば、ピン刺しされている理由が俺の考えたザーガループ用メタカードを更にメタる事だというのは一目瞭然だった。


 つまりアイツは、俺がザーガループをメタる構築を組んでくる事を読んでいた……っていうのか!?


 今回、俺が大会で使用したデッキは最近作ったばかりの完全オリジナル構築だった。


 初披露する前にSNSでデッキ内容を公開する様な馬鹿な真似はしていないし、初見ではまず対処出来ないはず……。

 

 それをあのまどかという決闘者デュエリストは俺の考えを完全に先読みし、その上で俺に勝てるデッキを用意してきたのだ。


 しかもあのデッキリスト、一歩構築を間違えればピン刺ししたカードが速攻で相手を倒すというデッキのコンセプトを崩壊させかねない。そんなギリギリのバランスで構築されている。余程調整を重ねたのだろう。


「その徒玲どろう選手との戦いでは見事に刺さっていましたからね。よければ、これらのカードを採用した理由を聞かせてもらえないでしょうか?」


「分かりました。まずこのカードですが――」


 そうしてまどかの口から語られる構築論は俺の思考を完全に掌握していた、そう思わずにはいられない程にまでこちらの思惑を完全に読み切っていた。


 この瞬間、俺はようやく自覚した。


 俺はこの、速瀬はやせまどかに完全敗北したという事を。


「それではまどか選手には優勝賞品として、世界に一枚しかない『悪戯な仙狸』の限定イラスト版を――」


「――クソッ!」


 俺は反射的に手に持っていたスマホを地面に投げつける。


 スマホは地面に激突した瞬間に暗転して地面に転がった。


 改めて見る自分の顔はこれまでにない程に悔しさでくしゃくしゃになっていた。


 ――俺はこのデュエルDサモナーズSに全力で取り組んできた。


 デュエルDサモナーズSというカードゲームの面白さを知り、この大好きなゲームで頂点にいる事が俺の何よりの幸せだった。

 

 それなのに――。


「クソッ! クソォォォォォォォォォォ!!!」


 腹の底から湧き上がる悔しさが全身へと広がっていく。叫ばずにはいられなかった。


「覚えてろよ、速瀬はやせまどか! いつかお前を倒し――ッ!」


 何だ……!? 急に頭が……!!!


 ズキンとした衝撃と共に頭が割れそうなくらい痛む。それに吐き気もするし、手足も段々痺れてきた。


 視線を落とすと手には滝の様な汗が流れているし、何より心臓が締めつけられるように痛い。


 それに何だか頭の中が温かくなって、脳みそも俺の意識も、何もかもが熱に溶かされていった――。




【デュエル・サモナーズのルール概要】


 デュエル・サモナーズを遊ぶ各プレイヤーには「HP(体力)」が存在する(公式ルールではHPは10000と定められている)。

 プレイヤーは「相手のHPを0にする」か、「相手のデッキを0枚にした状態で相手がドローするか」が主な勝利条件となる。

 

 カードの種類は「妖怪スペクター」、「魔法マジック」、「呪いカース」の3種類が存在する。

 

 妖怪スペクターにはそれぞれ「攻撃力」が設定されており、妖怪スペクター同士が戦えば攻撃力の高いスペクターが勝利し、負けた妖怪スペクターは墓場へ送られる。また妖怪スペクターがプレイヤーに攻撃すれば、プレイヤーは攻撃した妖怪スペクターの攻撃力分のHPを失う。

 妖怪スペクターは一ターンにつき一体召喚可能である。但し、強力なスペクターを召喚する際は費用コストとなる妖怪スペクターを要求される場合がある。


 魔法マジック呪いカースはそれぞれプレイヤー、妖怪スペクター、あるいは場全体に影響を与えるカードであり、使用後は墓場へと送られる。しかし、中には一定時間場に残り続けるものも存在する。

 魔法マジック呪いカースの違いは「相手ターン中でも発動出来るか」であり、魔法マジックは自分のターンでしか使用することが出来ず、呪いカースは相手ターン中でも発動出来る代わりに墓場にある妖怪スペクター費用コストにする必要がある。

 

 カードを使用するフィールドには「山札」、「場」、「墓場」、「黄泉」が存在する。

 山札は自身のデッキを置く場所であり、ここからカードをドローする。

 場は妖怪スペクターを召喚したり、魔法マジック呪いカース唱える場所である。

 墓場は破壊された妖怪スペクター、使用した魔法マジック呪いカースを置く場所である。

 黄泉は主に呪いカースを使用する際に費用コストとなった妖怪スペクターが置かれる場所である。


 デュエル開始時の手札は5枚。先行となったプレイヤーは最初のターン、カードをドローすることは出来ない。

 ターンは「カードのドロー」、「妖怪スペクターの召喚・魔法マジック呪いカースの発動」、「妖怪スペクターによる戦闘」の順に行われる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る