第3話 新たな栄光、過去の栄光

「私のターン! ……私は、『災厄邪神ザーガ』を召喚!」


 やはり来たか、邪神!


「召喚時能力でカードを一枚引き、手札を一枚捨て、その後墓場に二枚以上妖怪スペクターがいる場合、「邪」と名の付く攻撃力500以下カードを墓場から出して『災厄邪神ザーガ』を破壊することが出来ます」


「私の墓場に妖怪スペクターは二体。よって墓場から『災厄邪神ザーガ』を復活させ、最初に出した方の『災厄邪神ザーガ』を破壊!」


「そして墓場から復活させた『災厄邪神ザーガ』の能力でカードを一枚引き、一枚を墓場に送り、再び『災厄邪神ザーガ』を復活させて自身を破壊!」


 そうしてザーガループが証明され、まどかは山札を二枚残して残りを全て墓場に送っていく。


 この後は墓場に送ったカードを駆使し、ターン終了時点で墓場に五十枚カードがあればゲームに勝利する「終末の暗夜獣 ジェン・ヴォーダ」を場に出すのがザーガループの勝ち筋となる。


 大半のデッキなら成す術もなく敗北を受け入れるしかないだろう。


 ――だが、その手は俺のデッキには通用しない!


「手札から呪いカースカード、『魂の模造』を発動! 場に出ている妖怪スペクターと同じ種族の妖怪スペクターを山札から場に出す」


「その後、場に出した妖怪スペクター以外の妖怪スペクターを一体墓場に送る」


「俺が場に出すのは、『地獄の糸に縋る者』! こいつは登場時に自身の攻撃力を1000上げることが出来るが、『魂の模造』で場に出た妖怪スペクターの登場時効果は無効となる」


「そして『魂の模造』によって墓場に送る妖怪スペクターは『墓場に巣くう傀儡』。『墓場に巣くう傀儡』は墓場に送られた際、場の自分・相手妖怪スペクターを一体ずつ墓場に送る効果を持っている。よって、相手の『災厄邪神ザーガ』と俺の『地獄の糸に縋る者』は墓場へと送られる」


 そしてこれが、俺のザーガループ打開への最後の一手だ!

 

「『地獄の糸に縋る者』が墓場に送られたことで、自分・相手の墓場にあるカードは全て黄泉(※1)へと送られる! さぁ! 墓場のカードを全て黄泉に置け!」


 これでループの元凶もその後の展開用カードもまとめて対処出来る。それに相手は山札を大幅に減らしているから、後は数ターン耐えるだけでLOライブラリ・アウト(※2)勝ちだ!


「――魔法マジックカード発動! 『禁じられた秘呪』!」


 俺が勝利を確信した瞬間、まどかはそう宣言した。


「体力を1000払うことで、黄泉に置かれた呪い『罪人達の反逆』を回収します!」


 『罪人達の反逆』――それは半年前のパックに収録されたカードの一枚であり、体力を半分にするというデメリットがあるにも関わらず得られる効果はターン中黄泉に送られたカードの枚数分だけ妖怪スペクター一体の攻撃力を100上げるという、その余りにも悪い使い勝手で一躍有名になったカードだ。


 「入れるだけでプレミ(※3)」だの「反逆(笑)」だの、終いには「カス呪いカース」などと言われて馬鹿にされていたはずのカードを態々採用するなんて……。


「更に手札から魔法マジック、『報復の一打』を発動! 場のスペクター、『業火車輪ファリオット』を生贄にすることで攻撃力1000以下の妖怪スペクターである『死駄天カンダ』は二回攻撃出来るようになります!」


「何ぃ!?」


 ちょっと待て……! 今の魔法で墓場に妖怪スペクターが一体いるから、呪いの発動条件は満たしているよな!?


 これでさっき回収した呪いを使われたら――!


 まずい……何かないか!? 何か……!


 この状況を打開する方法は……ダメだ! この手札ハンドじゃ対処出来ない!


「――呪いカースカード、『罪人達の反逆』! 体力を半分にすることで、このターン奈落に送られたカード51枚×100の攻撃力を『死駄天カンダ』に上乗せします!」


 これで「死駄天カンダ」は元の攻撃力200に5100が上乗せされて、攻撃力5300……!


「いきます! 『死駄天カンダ』の攻撃! ――死風乱邃しふうらんすい!」


 この一撃で俺の体力は半分以下……。


 そして、この攻撃は一回じゃ終わらない――!


「そしてもう一度、『死駄天カンダ』の攻撃! ――死風乱邃しふうらんすい!!!」


 この瞬間、俺の体力を現す液晶メーターが空になる。


「決まったぁぁぁ!!! 何という事でしょう! 誰も予想していない形での幕切れとなりました! 優勝は――速瀬はやせまどか選手です!」


 勝者の名が高らかに告げられ、会場内は今日一番の盛り上がりを見せた。


 惜しみなく注がれる歓声。


 新たな栄光を手にした者の前では、過去の栄光など無いも同然。


 敗者の醜く歪んだ顔など、最早見向きもされなかった。




【注釈】


 ※以下は本作における各単語の意味を掲載するものです。


(※1)「黄泉」……主に墓場の妖怪スペクター呪いカースカードの費用にされた際に送られる場所。


(※2)「LOライブラリ・アウト」……「山札切れ」や「デッキアウト」等とも呼ばれるカードゲームにおける敗北条件の一つであり、山札のカードがなくなった瞬間にそのプレイヤーはゲームに敗北するというもの。このルールを利用し、相手の山札を削ってLOを狙うデッキも存在する。やられると精神的ダメージがデカい。


(※3)「プレミ」……プレイングミスの略称。カードの効果を誤認したり使用する順番を間違えたりした時、決闘者デュエリストの大半はこの単語を口にするとかしないとか。また時には相手のプレイを非難、嘲笑する目的で使用されることもある。当然マナー違反なのでやめましょう。



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