第2話 決勝戦、開幕!
「
控室の扉を開き、スタッフが声を掛けてくる。
デッキも十分回せたし、対戦相手との顔合わせも済んだ。
「先に
「はい! 行けます!」
「では、こちらへどうぞ。
そうして俺は控室を後にし、スタッフによって決勝戦の会場袖まで連れて来られた。
「では間もなく司会の方から合図が来ると思うので、その時入場する様にしてください」
「分かりました」
俺は鞄の中からデッキケースを取り出しておく。
この中に入っているのは、今日の優勝の為に半月かけて組み上げた最高傑作だ。負ける気など微塵もしない。
一番のお気に入りスリーブ(※1)に収納し、そのスリーブを更に保護する為のスリーブを着けているせいで少々分厚くなってしまったのが難点だが……。
「――それでは、登場していただきましょう!
これがスタッフの言っていた合図だろう。俺はデッキを片手に舞台へと上がる。
湧き上がる歓声。興奮する会場。
この熱気全てが俺の勝負に向けられていると思うと、異様に胸が高まってくる。勝ちたいという思いが溢れてくる。
「
「デッキの完成度もさることながら、時折見せる鋭いプレイングには目を見張るものがありますね」
「さぁ! 続いて、
再び盛り上がる会場。
対する
「それでは! 決勝を戦う二人が揃った事ですし、早速デュエルを始めていきたいと思います!」
「両者、使用するデッキを出してください」
舞台上で待機していたジャッジが口を開く。
俺は持ち込んだデッキケースからデッキを取り出し、机に敷かれたプレイマットの上に置いた。
さぁ、どんなデッキを出すつもりだ?
彼女のデッキには、スリーブが
スリーブを着ける理由こそ人それぞれだが、大会に出るプレイヤーなら大半は自身の使うカードにはスリーブを着けている(中にはノースリーブ派もいるにはいるのだが、極少数と言っていい)。
場慣れしていない様子に、スリーブ無しの裸デッキ。
こいつ……もしかして初心者か?
だが、初心者が運だけで決勝に来られるほどデュエルサモナーズは甘くない。それは俺が一番よく知っている。
「それでは、互いにデッキを交換してシャッフルしてください」
審判の指示通り、俺達は互いのデッキに手をかける。
やはり初心者かと思いつつ、慣れた手つきでデッキを混ぜ終わると対面に座る
彼女もまた、滑らかな動きでシャッフルしていた。
手の動かし方一つ一つに無駄がなく、そしてカードを傷つけない様に丁寧に混ぜている。
今の動きを見ただけで分かる。こいつはかなりの猛者だ。
少なくとも、初心者ではない事は確かだろう。
元より手を抜くつもりはなかったが、俺はもう一度気を引き締めた。
* * *
「コイントスの結果、
「いきます!」
「『死駄天カンダ』を召喚! そのまま相手プレイヤーに攻撃!」
今出された「死駄天カンダ」は攻撃力は低いものの、召喚して直ぐに攻撃可能な
これで俺の体力は僅かに削られる。このまま殴られ続ければいずれ敗北するが、かといって早めに処理すると却って呪いに利用される可能性がある。
それに今何よりも警戒すべきなのは、災厄邪神ザーガのループに使用される事。
ここは敢えてスルーし、ザーガループを警戒しつつ準備を進めていこう。
「俺は『死と再生の混流』を発動! デッキの上からカードを三枚見て二枚を手札に加え、残った一枚下をデッキの下に送る。その後、手札を一枚を捨ててターン終了だ」
今しがた引いてきたカードは悪くない。墓場も増やせたし、こちらの出だしは上々だ。
「私のターン! 私は『業火車輪ファリオット』を召喚し、効果で手札を一枚捨ててプレイヤーに攻撃!」
そうして
災厄邪神ザーガは登場時にカードを一枚引き、自分の手札を一枚捨てる
ザーガ自体も攻撃力は500なので、これ一枚でループが完成する超ぶっ壊れカードだ。どうして存在が許されているのか分からないレベルでぶっ壊れている。
そんな災厄邪神ザーガだが、手札に加わらなければ何の意味もない。
だから序盤は手札補充用のカードでザーガを引きにいくのがセオリーになっているのだが、この二ターンで
入るとしても一昔前に流行った速攻デッキくらいだろうか。俺も以前はよく使っていたが、ループで安定して勝てるようになった今の環境では向かい風気味になっているはずだ。
「……俺は『墓場に巣くう傀儡』を場に出し、デッキの上から一枚を墓場に送ってターンを終了する」
【注釈】
※以下は本作における各単語の意味を掲載するものです。
(※1)「スリーブ」……カードを保護する為の袋状のフィルム。人間で例えると衣服に該当する。故に自分好みの柄のスリーブをカードに着用して楽しむのも、トレーディングカードゲームの醍醐味の一つとなっている。
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