第65話 エピローグ その1
数時間後
「諸君、この未曾有の事態に適時、対応してくれて感謝する。お蔭でこの異常事態の全貌を把握することができた」
シルビア・エンドメイカーは将軍職として堂々とした態度で皆に発言した。
基地に併設された会議室、部隊全員が集められ、先頭にはミシェアやキャプテンといった上位の役職の仲間たちが座っている。
くまなく探してみたが、アリアちゃんはいなかった。流石にこういう行為に関しては外されたか。
そしてシルビア将軍は淡々と発言した。
「諸君も知っての通り、既存の知識では考えられない生命体が存在し、不可解な現象、魔法という現象が起きている。そして、これらの原因はここが私たちの世界ではない事が理由だ」
その事実をつげても部隊の全員は黙ったまま話を聞いている。
えっ?膝がガクガク震えているのは俺だけ?異世界だよ!徒歩とかで帰れないんだよ!みんなビビれよ!
「噂で聞いた者もいるかもしれないが。これも全て、空間転移装置による移動が原因だ。その装置が基地内にて発見された。
本来であれば宇宙空間に放り出され全滅だったが、不幸中の幸いか機械の不具合でここにいる」
シルビアは指をパチンと鳴らすと、部下の一人が大きな袋を2つ放り投げた。
ん?、袋の中からネトラレものにで出来そうなキモショタとチャラ男の顔が見える。
手品かな?はは……あのサイズだと身体は入らないぞ……
「こやつらは空間転移装置の起動要因で集められたようで、あまり情報を持っていなかったが、少しは情報を吐き出した。そこから各種痕跡が基地から発見された。
装置自体は基地の四方に設置されており、定期的にメンテナンスされていた。
そして装置自体は人よりも大きい、こんなものを外部の者が誰にも気づかれずに設置するのは不可能だ……裏切り者がいない限りな……」
そう言った瞬間、部隊のみんなが銃や武器を取り出し、それぞれが疑っていたであろう人に向けていた。
「おいおい、お前も俺の事を疑ってたのかよ」
「てめえいくら貰ったんだよ……」
とみんな軽口いいながらキレている。
そうか、みんな裏切り者がいるかもしれないって疑っていたのか!
俺に向けてる人いないよね……
「皆、銃を降ろせ。そもそも、この基地のメンテは軍本部から派遣されている。そして物資の入出も本部が決めていた。
つまり、我らの中からではなく、軍自体が我らを裏切った……ということだ」
その言葉を聞いた者のほとんどが武器を降ろすも怒りに満ちた表情に変わる。わあ、怖い……
「この裏切りには報いを受けさせねばならぬ。国に忠誠を誓い、愛すべき国民を守り、恐るべき侵略者に対抗してきた我らには非はない。腐敗した軍部に国を守る役目を任せておけぬ。
皆、武器を取れ、弾を込め、最後の一人になったとしても敵は殲滅する!そして世界に終わりという平穏をもたらさねばならぬのだ!」
そしてシルビアはニヤリと笑って
「その為には物資がいる。食料、医薬品、兵器あらゆるものをこの世界から集め、なんとしてでも何をしてでも元の世界に帰り、裏切りの代償を支払わせる!!異論はないな!」
「「「「「「オオオオオオオッ!!!」」」」」」
みなが怒りに震え、雄たけびを上げ、叫んだ。
いや、何か物騒な事言ってない?世界から集めるとか、何をしてでもとか、ようは侵略戦争するってことだよね?
やめようよ。
そう言えたらよかったが、皆の血走った狂気じみた空間でそんな事は言えなかった。
パン!
シルビアが両手を叩き、静寂を作る。
「次の項目に入る。人事異動だ」
えっ?もしかしてクビ?『無能と呼ばれた博士は本当に無能だったので異世界で放逐されました』みたいな展開になる?と焦るも彼女の声を遮る事はできなかった。
「ミシェア・フローレンス。ヴィクター・A・シャイニング。両名を研究部からの出向ではなく正式にエンドメイカーズの幹部として異動させる」
え?!あー!よかった!クビじゃなかった!セーフ!
「いえーい、よろしくねーみんなー」
とミシェアはみんなに手を振ってあいさつをした。
えっ?こういうのってあいさつするものなの?何も考えてないんだけど!とビビっていると、シルビアは言葉を続けた。
「ハンニバル・ルイス二等兵は昇格し一等兵にする。訓練兵としての役職を終え、一兵として部隊に貢献してくれ」
「はっ!」
姿が見えないが、ルイス君の声が聞こえた。
あれで訓練兵だったのか……と思うも、昇進の時にこんな事は言えない……
「そして、この場にはいないがアリア・フィン・ドラコナイト嬢とは同盟という形で関係を持ち、この異世界での窓口となるように取り付けた。
彼女と接するときは我ら幹部と同等の地位と考えてほしい」
その言葉に俺は安心する。悪落ちしてるとはいえ、あんな少女が下の方の階級として扱われたらエッチなゲームみたいになってしまうかもしれないと要らぬ心配が出てしまう。
ああ、よかったと。俺は心を落ち着かせ、胸をなでおろした。
「そして、最後にクリス・ブッチャー大佐。貴様は命令違反により、死刑だ」
ん?今、処刑って言った?俺の聞き間違えだよね。ははっ……
シルビアは腰につけていた拳銃をキャプテンに向ける。
えっ?
「おいおい、いきなり死刑か?弁明の機会もなしかよ」
キャプテンは笑っていた。
あー、処刑じゃなくて死刑かー聞き間違えちゃったぜ。ははっ……ん?
「弁明もなにもないだろう。私もこの事態は、初めから誰かが裏切った事による強襲だと疑っていた……貴様はその相手が私と疑ったわけだ……そうだろ?」
「ああ、転移事件後、将軍閣下様が長期間不在、疑われて当然だろ。現時点でお前がその地位にいるのはその能力があってだ。お前より強い能力者が現れればその地位は追われる……
そして最大の不安要素はドクターがお前より強い能力者を作る事……」
「それを恐れてドクターを暗殺しようとした。そう言いたいのか?クリス……」
「ああ……」
「ふふっ……」
シルビアは少し笑うと拳銃の撃鉄を引いた。
「まあ、可能性の話はごくわずかだ。だが万が一お前が裏切った時、対処する方法はわずか……そんな賭けは打てねえ……」
「その可能性は命令を無視してまでおこなうべきだった事か?上官の命令は絶対だ。命令違反は極刑と貴様ならわかっていただろう。
問題なければお前は命令違反で死ぬ。私が裏切っていたらヴィクターは死ぬだけ。むしろ一人で逃げていればお前は生きていただろう。それでも行動する必要があったか?」
「ああ……まあ、最後は手に負えなくなってお前が来るとわかってて緊急信号をはなった……そういうオチだ。本当に裏切っていたら全員でお前を倒すつもりだったがな。まあ……笑えよ」
キャプテンは笑って頭をかいた。だが、その顔にいつもの余裕の表情はない。
えっ?なんの事?なんでこんなに緊迫してるの?
ってか裏切りってなに?何言っているんだ?と言えるわけもなく縮こまって時が過ぎるのを待つ。
「まず、長期不在はこの世界で強敵と交戦したからだ。私相手に3時間はもった強敵だ。要らぬ心配をさせたようですまない」
その言葉に少し部隊から動揺が産まれる。
俺も、えッ?この世界の住人強くない?と心の隅で揺れる。
シルビアの肉体強度は戦車の砲弾も指一つで止めるし、2000度の温度やマイナス100度の温度変化も効かない。目にライフル弾当たっても、ライフル弾は砕ける。
しかも複数の能力持ちでヤバイなんてレベルじゃないのに……
「なるほど……なら俺の心配は杞憂だったってわけか……」
「最後に一つ聞こう。貴様は私の事が信ずるに値しないか?」
「いいや……シルビア様は将軍としてふさわしいよ。力とその心も……でも俺はお前の為に戦ってるわけではねえ!救ってもらったこの命、
俺はヴィクターっていう仲間の為に戦ってるんだ!」
「ふはははっ!なるほど!それは素晴らしい。それでこそ貴様をその役職に推薦した意味がある。だが立場には責任が伴う……行動には責任が伴う……
組織として『けじめ』を付けなければ組織は成り立たないんだ……」
「じゃあ、キャ……『バン!』」
キャプテンは無罪でいいよな!と助け船をだそうとした瞬間、シルビアは引き金を引き、雷鳴が響いた。
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